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幼い子供だった頃の思い出は、普通そうであるように、数多あり、いい思い出もあれば、悪い思い出もあり、それは彼、白文の場合も、例外ではなかった。
だが、彼の思い出には、彼を赤面させるものが少なくなく、なぜかと言えば、婀娜っぽい女性たちが、幼い子供の彼の周りに、百花繚乱とひしめいていたからである。彼とて一人の男児であり、普通と言うべきか、ありふれた趣向に育ち、つまり性的事柄については、男より女の方に興味があった。
王宮の奥に位置する後宮というところが、彼の故郷だった。
板張りの部屋、小さい燭台の灯火が広い闇の中に淡く照る中で、乳母が険相で、褥の上で苦しそうに喘ぐ、髪の豊かに伸びた若い女、白林を励ましていた。大きく膨らんだお腹には、命が宿っていた。それも、皇帝陛下の御命である。
「息を大きく吸って、大きく吐くんだよ」
「フゥ、ハァ、フゥ、ハァ」
深い呼吸が繰り返され、額に大粒の汗を浮かべる白林は、激しい苦痛に顔を歪め、けれど、溢れんばかりの希望に満ちていた。後宮で最下位の身分の自分が、まさか皇帝と褥でいっしょになり、子供まで授かるなどとは、夢にも思わなかった。朝臣の妓女だった彼女は、彼に推挙されて女官に引き立てられ、親は娘の昇格を祝って欣喜雀躍したけれど、宮中での生活は、思っていたより泥臭いもので、よっぽど高い立場でなければ、掃除や物の運搬などするばかりの小間使いに過ぎなかった。勿論、宮中で正式に働けるだけで、充分に出世したと言えるのだが。
未だかつて経験したことのない重い痛みが、下腹部から脚の方へと向かってじわじわ強大になり、やがて白林が最早耐えきれず、気が遠くなり、失神するかと思われたちょうどその時、卒然と痛みがスッと消え、けたたましい泣き声が轟然と上がった。
ようやく無事に赤子が産道を越えてくれたと安堵した瞬間、体中に込められていた力が抜け、疲れがドッと押し寄せて来、白林は、眉間に皺を寄せて笑むという難しい表情で、意識が薄らいだ。
「御覧、お前の望んだ男の子だよ」
乳母が抱える小さくて真っ赤の御子をぼんやりした目でしみじみ眺め、白林は、すっかり安心し切り、自然とまぶたが閉じて、休眠に入った。
盛夏の最中の、暑い夜半のことだった。
白文においては、当然、自分の誕生の瞬間など、欠片すら記憶に残っていなかった。彼はその時、延々オギャアオギャアと泣きわめくばかりの稚児に過ぎなかったのである。
乳母は、まだ二人ほどしかいない、皇帝の御世に貢献し得る子息が新たに一人加わって、心強い気持ちだった。世継ぎの子は、多ければ多いほどよかった。弱い子供は病魔に遭えばあえなく死んでしまうし、必ずしも生まれた子が剛健にすくすく成長するとは限らないからである。だが、皇帝には多くの女たちが後宮に控えており、その女たちには、貴賤があり、従って、後宮の子たちにも、格差があるのだった。
白林は最下位の女官だった。乳母は彼女の忍耐強い、希望に溢れた出産に活気付けられ、大いに喜んだものの、両のかいなに抱く御子の行く末に、一抹の不安を感じないではないのだった。
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