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瑞国記  作者: Yuki_Mar12
【第二章】
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(11)

***




 瑞の遠征軍と半島の強国である回の戦は夏頃に始まり、季節が秋口に差し掛かるまで続いた。戦では、費えた期間に相応しい犠牲があったものの、遠征軍は凱旋したのではなく、大勝は得られなかった。皇帝がじきじきに現地に赴いた以上、戦果は実際より誇張して報告され、その地位が失墜することは免れた。回においても、相応の犠牲が出、国力が削られたが、衰滅するほどのものではなかった。


 富国強兵は喫緊の課題であるという厳しい認識が、皇帝を始め、側近たちに共有された。


 さて、皇帝が帰還してしばらくすると、一人の官僚の転任が命ぜられた。


 その官僚というのは、黄宇だった。彼は大天城の東方に位置する斉という郡に転ずることになったのである。大天城が内陸であるのに対し、斉は海に面していて、径庭は大きかった。


 黄宇の心中は複雑だった。これが仮に単なる放逐であれば、彼は激怒し、猛然と抗議しただろうが、彼は転任すると同時に、一官僚から郡の長である王にまで、昇格するのだった。


 だが黄宇は、授かった地位に満足しなかった。敏い彼は、この転任と昇格の背景に、自身を退けようとする奸計と、その誤魔化しのための配慮を透察したのである。


 転任の通達は侍従によりされ、それが皇帝の下命であれば、逆らうことは叶わず、黄宇は苦汁を飲まされたが、確認したい思いで、楊光のところまで向かった。


 秋晴れの一日の遅い朝。黄宇は楊光の側仕えに居場所を聞き出すと、広場で将兵たちと武芸の訓練をしていると聞き、広場まで行った。


 広場には、熱気が漂っており、喚声が上がっていた。多くの将兵たちが、一所で、集団での軍事訓練に臨んでいる最中だった。


 将兵たちは、複数の陣形を無作為に繰り返し、変形の際の動き方を、あるいは記憶し、あるいは洗練しているようだった。


 将兵たちを覆う独特の荒っぽい熱気に気圧されて、黄宇は遠くより見ていることしか出来なかったが、その内一人と目が合い、それは、鎧をまとった楊光だった。


 彼は仲間たちに暫時離脱するという感じに合図すると、訓練の輪より抜け、小走りで黄宇の方まで来た。そして兜を脱いで小脇に抱え、汗だくの顔を露わにすると、蔑みのこもった瞳で口にした。


「こんなところまで一体どうした? 陛下の通達があったはずだ。お前は転任になる。油なぞ売っておらず、さっさと準備したらどうだ?」


「やっぱりお前が告げ口したのか」


「告げ口ではない、わたしがしてやったのは推薦だ」


「推薦だと? おれは皇帝になりたいとは思っても、地方の王なぞになりたいと思ったことはない」


「いずれにせよ、お前の処遇は厳然と決せられた」


「たばかりやがって!」


 そう叫び、握り締めた拳を振り上げて勢いよく突っ込もうとした黄宇の目の前に、フッと閃光がよぎり、反射的に止まったが、牽制のために楊光の引き抜いた剣が、怪しく光っているのだった。


「今、わたしは訓練中なのだ。お前はその妨げになっている。おれに抗議したところで意味はない。もし、お前が皇帝陛下のご決定を覆したいと望むなら、直訴でもしてみるといい」




 黄宇はすごすごと引き下がり、結局、直訴はしなかった。


 彼は下された決定をやむなく吞み込み、従わざるを得ないのだった。




***

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