(10)
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東宮の楊光の個室には、風変りな机と椅子があり、それは、西域の商人より買い取ったもので、従来の現地で作られているものより、幾分か天板と座面の位置が高かった。かの地の人間は、きっと瑞国の者より高身長なのだろう。
龍があしらわれた平服姿の楊光は、椅子に座り、険相で机に両肘を突いて手を組み、何か考え事しているようだった。
ふと、「失礼する」と一言言って、誰かが入室してきた。無地の平服姿の黄宇だった。楊光と彼の間には、彼等は楊権の子としてきょうだいだったが、有罪と無罪の誤解があった官僚の不祥事以来、溝が出来ていた。
楊光と黄宇は、束の間鋭い視線を交わし、敵意を露わにしたが、すぐに抑えた。
「何の用だ?」
「政務は順調か? 陛下の代役が重荷なら、わたしが代わってやってもいいぞ」
楊光は相変わらず険相でおり、一方黄宇は、腰の後ろで手を組んで浩然とし、余裕がある風だった。
「要らぬ節介だ」、と楊光は返す。「父上の代りは、わたしを置いてほかにおらぬ」
「先の不祥事の件、官僚たちには印象的だったみたいだが」
「その件に関しては、お前に感謝している。歪曲された事実は矯正され、落着となった」
黄宇は、ゆっくりと楊光の方に歩み寄り、机上に両手を置き、彼に迫った。彼等は再び鋭い視線を交差させた。
「印象的だった、このことの意味は、お前の評価が下がったということだぞ?」
「フン。取るに足らん些事だ。この程度のことでわたしの立場が揺らぐと思ったか?」
「お前にとっては些事だろうが……」
言葉の途中で、楊光は「黄宇」、と冷然と割り込んで言った。「口は慎めよ。お前は確かに年上で、諸事においてわたしより一日の長かも知れん。だが、お前の母親は低位の采女で、皇后にあらせれるわたしの母上とは比べ物にならん」
「ぐっ……」
黄宇は怫然として歯噛みし、机上に置いた手を握り締めた。
「卑しい目だ」、と楊光は目を細めて冷淡に言い放った。「理想を追うばかりで分別のない愚か者の」
「愚か者はお前だ」、と黄宇は言い返した。「官僚の善悪が見定められなかったではないか。お前は耳ざわりのいいことを口にする、悪意のある官僚に気をよくして贔屓にし、無実の官僚に濡れ衣を着せるところだったんだぞ」
「もし、今回のことでお前が栄達を望んでいるとすれば、それは驕りだ。くだんの件でのわたしの落ち度は、お前が思っているほど大きくはない」
「おれは、お前が次の皇帝であることが相応しくないと感じているから、納得するように説いているに過ぎん」
「どの道、わたしの意志でも、お前の意志でも、次の皇帝は決定しない。父上が選定することになっている。まぁ、せいぜい自分が皇帝になれるように祈るんだな」
楊光がそう言うと、黄宇はイライラした様子で退室した。
彼が去った後、楊光はひとり呟いた。
「あの男はいささか僭越すぎるようだ。ここに置いておくのは望ましくない。だが、あの気位の高い男に左遷などの憂き目に遭わすとなると、ひどく哀れだ。さて……」
楊光は、兄である黄宇に関して思案した。黄宇の処遇について、どうするか、彼は考えていたのである。
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