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白文は、楊光の粗暴さにいつまでも慣れることが出来ず、その内彼への苦手意識が昂じて、心労が嵩み、精神的に参るようになった。墨英においても、事情はほぼ同じだった。
彼等は互いに皇太子について愚痴り合うことで気晴らしにし、それぞれの将来は決められており、最初は納得して気楽に構えていたが、大きくなって自我が形成されてくるにつれ、忌避したいと思うようになった。
成長して背丈が大きくなった白文と墨英は、小さい頃遊戯の時は親か楊光といっしょだったが、やがて自分で遊び相手を選ぶようになり、勿論、楊光の誘いは立場上断れないが、彼等は二人で出かけることが多くなり、馬にも乗れるようになって、行動範囲が広がった。
ある晴れた春の日、二人は、揃って馬で城外にフラッと散歩のつもりで出かけた。大天城の中は人と建物ばかりで、ずっといると息苦しいのだった。彼等は十四歳になっていた。
東の方面の大天城に近い所に、小さい湖があり、そこは彼等のお気に入りの場所だった。山間の湖で、静かで、少し行けば仏苑があり、紅色の楼閣が高雅に佇んでいるのだった。
「楊光の兄貴とは最近どうだ?」、と下草の上に足を伸ばして座っている墨英が聞いた。
水際にしゃがみこみ、じっと水中に目をやっている白文は、聞こえなかったのか、返事がなかった。魚が泳いでおり、観察でもしているのだろう。
墨英が大きめの声で呼びかけると、白文は振り向き、立ち上がって、彼のそばまで寄ってきた。
「兄さんとはほとんどしゃべらないね」、と彼は答えた。「最近、忙しそうで」
「何と言っても、皇太子様だから」
「つまり、後の皇帝陛下」
「アイツが……」
怪訝そうに言う墨英と白文は互いにまじまじと見合い、渋面になった。墨英は俯き、白文は腕組みした。
「兄さんは、人間性はちょっとアレだけど、能力的には申し分ないと思う」
「それは同感だが、上に立つ人間は、勉強や運動が得意っていうだけじゃ、足りない気がする」
「でも、当代の皇帝陛下がお決めになったことだし、ぼくらはただ受け入れて、兄さんに付いていくしかない」
「オレたち、将来官僚としてアイツの側近になるんだぜ」
「暫定的とはいえ、ほとんど決まってることじゃないか。不平をこぼしたところで……」
「嫌だね」
俯いていた墨英が顔を上げて言った。その鋭い眼光は、彼の真剣さを明示するようだった。
「おれは、断ろうと思ってる」
「仕事はどうするんだよ。フラフラするわけにはいかないだろう」
「よそに探すさ。どの道おれは大した出世欲がないし、おれが一人いなくたったところで、皇帝の側近は他にもたくさんいる」
「確かに、兄さんのきょうだいはぼくと墨英以外にもいる」
「お前だって、アイツの側近なんてやりたくないんじゃないのか? よくアイツに意地悪されて泣かされたろうに」
確かにそうだ、と白文は思い、否定しなかった。墨英はまだ強気であり、楊光のしばしば発現する粗暴さに抗うことが出来たが、白文はお人好しで、下僕同然にぞんざいに扱われることが少なくなかった。その辛さや遺恨は白文の内に消えずに残っており、押し付けられた将来設計に対し、墨英のようにきっぱりとは拒めないだろうと思いつつ、別の道が自分の意志で選択出来ればいいと憧れるのだった。
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