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白文にとっても、墨英にとっても、父という言葉の響きは、いつも奇妙だった。父は母と同じくらい身近であるはずなのに、彼等の父は、彼等にとって常に縁遠く、まるで血の繋がっていない他人のようだった。
白文と墨英が十歳になる頃、すでに彼等は生きていく上で必要となる基本的な素養を身に付けており、文字の読み書きと計算が無難に出来たし、権力争いの場としてしばしば空気の陰険になる後宮の中にあって、それぞれの母の温かい慈愛に守られてか、比較的温良に育った。
――白林と、墨英の母の懐妊の際、女官の総まとめ役であり、後宮の頂きに君臨する皇后は、妬みと嫌がらせのため、産後の彼女等に休養の期間を十分に与えなかった。嫉妬深い皇后には、皇帝の正妻に選ばれていることの自負があり、皇帝が後継ぎのために複数の女と関係を持たざるを得ないという事情がきちんと理解できていたが、実際には、ひょっとすると見限られるかも知れない恐怖に、常々怯えていた。しかし皇后にとって、女官は敵でなく、同じ環境で仕事する仲間であり、誰かがどれだけ妬ましかったり憎らしかったりしても、我意のまま強権的に振舞うことは、女官のひんしゅくや反感を買うことに繋がりかねず、また、皇后というのは、女官たちの模範になるべき存在であり、その辺の妥協が難しかった。皇后は、自身の権益を堅固に保持し、あり得る後の不利を牽制するために、常に注意していたのだった。
白文と墨英は友人だが、実際には、違う母と同じ父を持つきょうだいだった。当然、皇帝は何人も子供を設けており、その中には皇后の子、つまり嫡男がおり、彼は楊光といい、要するに皇太子だった。
白文たちが十歳の頃、楊光は十六歳で、白文たちにとって兄である彼は――父のように――馴染みのない他人じみた存在だった。
だが、二人は将来それぞれ文官、武官という官僚になって、皇帝の座に就いた楊光を補佐するように予示されていた。
白文たちにとって、楊光は冷血で、付いていこうと思わせる人格的魅力が備わっていないようだったが、一方で彼は、常人より逸脱した才覚に恵まれているようで、頭脳は怜悧で、肉体は頑強で、そういう意味では、軽視できない相手だった。
楊光は、高貴であるものしか容認せず、格下の者は劣っていると軽侮し、幼い頃、きょうだい同士で遊ぶ時、白文と墨英は、例えば玉遊びするにしても、彼と交互に投げ合うなどはせず、彼にぶつけられたり、遠投されたものを取りに行かされたりした。そういった相互でない一方的なやり取りの何が面白いのか、白文たちはまるで理解出来なかったが、困った顔になったり疲れたりする弟たちを見て、楊光はケラケラ笑い、満足げなのだった。
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