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白文が生まれてからしばらく経った後、新しい子宝が皇帝に授けられた。その子は白林とは違う宮女のお腹に宿った命で、墨英なのだった。
子供の体というのは、月日が進むにつれて大きくなっていくものだが、墨英と比べ、白文の成長は遅鈍で、次第に彼等の体格の差は歴としたものとなっていった。白文は小柄で、墨英は平均的だった。
白文は小柄ではあるものの、虚弱だったのではなく、むしろ活発で健康的であり、その小柄さと、読み書きの覚えのよさによって、将来は文官になるように、白林と蓮殿の間で取り決めされた。墨英の方は反対に、平均的体格と健やかさと活動的気質から、将来は武官になるように嘱目された。
白林と墨英の母親は、息子たちが王宮の激しい権力争いに巻き込まれることを望まなかったし、父である皇帝が彼等に対して余り物の如く等閑視していたので、伸び伸び育つようにと慎ましく願い、栄達にはあまり拘泥しなかった。
西宮の向かいに、大通りを挟んで東宮があり、東宮は、華美さと高貴さへの妄執にまみれた女の巣窟である西宮とは逆に、男たちの世界で、皇帝が君臨し、その配下の男たちが互いに、限られた者しか座ることの出来ない権力の座を奪おうと虎視眈々と狙って牽制し合う、一種の血なまぐさい戦場だった。
そこに、灰色がかった瞳と段鼻が特徴の文官の男がいた。二十歳の彼は、後に斉王となる黄宇だった。
東宮の庶務に従事する若い黄宇は、劣等感に悩む自信のない男だったが、他方、人一倍強い野望があり、それは、天下にその名の轟く皇帝の座にいつか付くことだった。
黄宇は、自分にその資格があると信じて疑わず、だけど彼の生母は、とびぬけて高い位階の女官ではなかった。
母の出自は、特に王宮において、子供の昇進への影響が大きく、ずっと偉くなれると信じ、また望んでいた黄宇は、その内見えない壁にぶち当たり、懊悩することになるのだった。
東宮の広々とした廊下を、書物を小脇に抱えて歩く、紫色の丸襟の着物姿の黄宇は、太い円柱のそばで、ある者と行き交わした。長い髪が女性のようだったが、その着物は、ほとんど黄宇の着用しているのと同じ風情の、赤色のもので、彼は黄宇と同い年の、宦官の緋新なのだった。卵型の顔に、細めの鋭い目が聡明そうだった。
黄宇は、緋新のすぐそばを過ぎたかと思うと、立ち止まった。
彼の気配が察せられてか、緋新は立ち止まり、「何か御用か。黄宇殿」とその場でポツリと言った。
「上級官僚に至る道は親切に用意されている」、と黄宇。「試験に合格しさえすればいいのだ」
「その通りだ」
「しかし、天にまします神に唯一選ばれた、その代弁者たる帝になる道は用意されていない」
「それは……ごく易しい話さ、黄宇殿」
黄宇は訝るように眉をひそめると、くるりと転回し、緋新の背を睨むように見つめた。
緋新は首だけで振り向き、「生まれた時点で、帝はすでに選ばれて、決まっているのだ」、と答えた。
「皇帝にだって、世代交代が必要だろう」、と黄宇。「わたしは帝の御子だ。後々、帝になれる可能性は大いにあるはずだが」
「おっしゃる通り」、と緋新。「帝になりたいと欲するのは自由だ。だが、黄宇殿、過ぎたる欲望というのは、いつの世も自身を滅ぼすことに繋がる。そのことを、重々心に留めておかれるとよろしい」
そして、彼は去っていった。
遠くなっていく宦官の背中をずっと見送る黄宇の片手は、無意識の内に拳に握られ、いやに力がこもっているのだった。
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