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皇帝に気に入られ、その子を設けたことは、白林にとって誇らしく、喜ばしい気持ちにさせることだった。王朝において後継ぎは常に必要で、すでに生まれた者がいても、病気か事故で急逝する恐れがあり、子供は多ければ多いほどよかった。
白林が息子の白文を産んだのは、ちょうど二十歳でのことだった。その時皇帝の楊権は四十代半ばで、彼も、子供が生まれたことにたいそう欣然として上機嫌になったが、その熱は、白林の期待に反して早々と冷め、白文が三歳になるくらいの頃には、ほとんど顧みないようになってしまった。
白林も、再び皇帝と褥を共にすることはなくなり、彼の顧慮が得られなくなり、ずいぶん悲しくなったものだが、朝臣の推挙で後宮に入れて貰ったのも同然の、低位の女官に過ぎない彼女は、受け入れざるを得なかった。
落ち込む彼女に同情を寄せてくれる同僚などほぼいなかったが、出産に際し、よく面倒を見てくれた産婆だけは、白林に寄り添ってくれたものだった。
瑞国の王都である大天城の西宮が、皇帝の私生活の場であり、皇帝に選ばれた皇后や夫人や宮女がいっしょに過ごすところだった。
白林は低位の女官として、裁縫や掃除などの雑務に日々明け暮れ、その仕事と並行して、まだ三歳の白文の養育にも励んだ。
白林は、仕事の終わった夕、部屋の一隅に膝を曲げてペタリと座り、両腕に白文を抱き、彼は母の腕の中でやさしく揺られ、目を穏やかに輝かせていた。
「健康にすくすく育ってくれれば、それでいい。偉くなって欲しい気持ちは否めないけど」
と、白林。
彼女の傍らには産婆の『蓮』殿がおり、同じように膝を曲げて座っていた。
「この子が大きくなって後継ぎ争いに関与するとして、ギスギスして淀んだ空気に耐えられるかどうかだね」
「いいんです」、と白林は白文に微笑みかけて返す。「わたしには、この子しかいませんから。ツラい道よりは、気楽に行ける道に進ませてあげたい」
「白林。どこに行っても、この子は皇帝陛下の御子の一人として生きていく。陛下の血を受け継ぐというのは、大いなる名誉である一方で、ある種苦しい呪縛なんだよ」
蓮殿に言われ、白林はどこか湿っぽい目付きになった。
「この先、この子を後宮に留めておくことは叶わないのでしょうか」
「それは、可能ではある。ただし、ここはお宮だ。お前だってそうだが、陛下の末永いご活躍とご健勝のために集まった女たちの巣窟さ。偉い女がいれば、中くらいの女がおり、そうでない女がおり、妬み、嫉み、恨み、蔑みが渦を巻いて、互いにドロドロ溶け合ってる。ここの瘴気に晒されて歪まない人間は、あまり多くない」
「子供には、厳しい環境ということですね」
「わたしはこの子の親じゃないから、最後の判断までは下せない。下すのは白林、お前だ」
そう言われ、白林は揺すっている腕を止め、どこか考え込む様子だった。
幼い白文は、あっ、と発し、彼は揺り動かされていたいと主張するようだった。
その意に気付いた白林は、ニコリと笑み、「ごめんね」、と言い、物思いのために止まってしまった腕を再び左右にユラユラと動かした。
快適そうに笑う息子の瞳の奥に、白林は、彼の将来を見ようとしてみた。
だが、見えるのは虚空ばかりだった。
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