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あるいは月日の経過から、あるいは分別のない倨傲から、偉大だった権威は衰え、かつて豊かに保有していたはずの忠実さや敬意が、ポロポロ脆く剥がれ落ちるようにして失われ、そうなると王は最早、ただの剥き身の人間でしかなかった。
孫一の率いる民たちの野心とか反感とかいったものが捻じ伏せられるには、黄宇の権威はすでに決定的にまで失墜し、月比の周縁の勢力の分布においては、反乱軍が優勢になり、首府の陥落は時間の問題のようだった。
月比の城壁から見渡される平原においては、四方に簡易の砦が設営され、反乱軍の月比侵攻の拠点とされることは明々白々だった。
月比の住民は、反乱軍に下って外部に移るか、王の側に付いて近くされるだろう籠城戦に備えるか、選択が迫られた。多くの者はすでに反乱軍に下り、そうしないのは、既得権益にすがるしかない貴族か官僚か、作戦に組み込まれて働かされる武将だった。下級の兵士たちは、どうなるのか分からず不安で途方に暮れたが、まだ勝てる見込みがあると鼓舞され、信じて忍従した。
ある日軍議が開かれ、籠城戦での戦略について、口々に意見が交わされた。発言されるのは、いかにして少ない被害で済ませるかという消極的意見が大半で、軍議の空気は暗く、重かった。
白文は傍聴するためだけに参加していたが、軍議の終了後、王に呼び止められ、二人で話した。
「お前は夜の内に、輝と共に逃げよ。結果がどうなるにせよ、この街は安全ではない。わたしは王として、軍が最後まで瓦解しないよう、今度の、あまりいい結果にならないだろう戦闘に参加し、皆を励ましてやらないといけまい」
「閣下。姫様は以前、私兵が欲しいとおっしゃったことがあります」
黄宇は半ば感心するように、半ば呆れるように微笑んだ。
「娘にまで気遣わせてしまうとは、親として情けないものだ」
彼は真顔に戻ると、「娘は」、と続けた。「もともとの素質か、お前たちの教育の賜物か、妙に知能が高い部分がある。あの娘なりに、この窮境を予見していたのだろう。勿論、護衛兵は付けてやる。だが悪目立ちするわけにはいかないゆえ、ごく少人数だ」
「承知しました」
「行き先は東北だ。広い湖に半島が突き出ていて、先端部に周峡という村がある。そこに、身内が生活しているから、頼るがよい」
「御意」
白文が抱拳礼して見せると、黄宇はどこかシュンとした目になった。
「先般の娘の進言は、正しかったように思える。わたしは妄執に囚われ過ぎていたのかも知れん」
彼は俯いて首を左右に振り、「やれやれ」と半ば納得するように、半ば悔しがるように呟いた。
そして彼は、顔を上げた。
「後のことは頼んだ。わたしの血を、どうか繋いでくれ」
白文は微かに身震いし、王のどこか青褪めた、けれど同時に清々しい面持ちを見て、時世の移ろいが予感されるようだった。彼の前に立つ男は、皇帝を打ち倒すことを夢見る野心家では最早なく、きっとそうなると直感が告げる己の苦しい悲運を受け入れた受難者だった。
斉は衰亡する気がした。その後の展望はまるで見えず、とにかく白文は、黄輝の護衛を頼まれ、逃げるのだ。半島にある周峡という村は、彼の知らないところだったが、そこに王の身内がいるという。
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