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白文は、黄輝から私的に兵を率いたいという相談を受けたわけだが、果たして聞き入れるべきかどうか、判断の難しいところだった。というのは、白文の主は王であり、姫ではないのである。だが彼の本心では、求心力のない王と共に沈没したくない思いが顕著だった。
すでに局面は厳しいところまで来ており、内部では分裂が生じ始めていて、忠誠心の強い者は、王を信頼してあくまで継戦する構えだったし、丞相を始めとして頭の切れる者は、離反の機を虎視眈々と窺っていた。自信を持って決断出来る者は少数であり、大多数は、どうすればいいのか断ずることが出来ず、オロオロし、常に誰かの挙動が気になって仕方ないのだった。
白文は、友人かつ将である墨英をツテにし、ちょっとした部隊が編成出来ないか打ち明けてみた。
この話は公に出来ないので、二人は、ある晴れた夕べに城壁の上ですることにした。
「姫様専用の部隊が要るだって?」、と墨英は訝るように口にした。
白文はコクリと頷いた。
「護衛用にすでに何人かいるだろう。まさか姫様がじきじきに戦にご出陣になるわけじゃあるまいし」
「いや、ひょっとしたら、そうなるかも知れない」
と言う白文の口調はたどたどしいもので、言葉に信ぴょう性がなかった。
「確かに現況は剣呑だが、緊急時には自動的に増員されるはずだ。王の側近のお前の心配には及ばない。だいたい、姫様の部隊が要るっていうのは、王の指示なのか?」
「それは……」
答えに窮する白文の態度が、墨英の問いへの答えを暗に示しているようだった。
墨英は「まだ」、と言った。「自軍に継戦する力はあるんだ。ジリ貧の劣勢ではあるけど。だから、今ある兵力を無駄のないように合理的に運用しないといけない。姫様はあくまで姫様に過ぎず、軍に対する権限はお持ちじゃないんだよ」
白文は、物思うように俯くと、「姫様はご聡明で、王の敗北を予測なさっている」、と、黄輝の立場を擁護するように言った。
「白文」、と墨英は諭すように彼に呼び掛けた。「姫様との距離感は弁えておけよ。でないと、情事を疑われて宦官にされるぞ」
「分かってるさ」、と白文は答えたが、去勢を考えると、身震いしてくるようだった。「そうなるのが恐ろしいから、いたずらにぼくが姫様に働きかけることはない」
「お前と姫様が焦る気持ちは共感出来るし、協力してやりたいが、雇って貰った軍にすっきりした気分で離反するには、おれはまだ十分に責務を果たしていないんだ」
黄輝の私兵の件は、一旦保留とされることとなった。
白文としては、彼は王の補佐であり、また、何人かいる姫の世話係の一人であり、果たすべき職責があったが、それとは別に、しなければいけないことが更にあるという意識が強くしていた。
仮にこの斉が、鎮圧することの叶わなかった反乱軍に敗れて崩壊するとして、その後の生活はどうすればいいのかという問題に対する思惟だった。
崩壊した斉は、統一された自治体ではなくなり、行政は機能せず、一種の荒野となり果てるだろう。反乱軍の主導者たる孫一が王の代役になることは、彼がただ武芸にのみ優れているという性質の偏りによって、あまり期待出来ないのだった。
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