第五話
ーーファル視点ーー
ファルトは私たちから三メートルほど離れた場所に立って、本を読んでいた。アイテムボックスらしきものから取り出していたが、今はそれどころではなかった。
「……とりあえず、どうするか話しましょう」
重苦しい空気の中、なんとかそう言葉を紡いだ。リリーもユリアンもどこか目が虚ろで、その様子につい手に力が入る。
「……俺は、悪いけど、今何も考えられない」
ライアンが苦しげに言ってきた。
「そうよね。私も何もわからない。だから、実際に禁忌魔法を受けた二人の意見を聞かせて欲しいの。苦しいと思うけどお願い」
「……俺は、あいつに会えるなら禁忌魔法だろうがなんだろうが別にいい」
ユリアンが俯きながら吐き捨てるように言った。
「……私っ、トーマスに、こんな思いさせたくないっ」
リリーはその言葉に息を詰まらせながらも言葉を絞り出した。
「俺もそう思うよ!でも、このまま別れたくねえんだよ!」
ユリアンが拳を地面に叩き突きながらそう吠えた。
「っ!」
リリーが肩を震わせた。
「それはみんな同じだ、ユリアン」
リリーの肩に手を置き、ライアンが苦しげにそう告げた。
「……私も、また会いたいわ。でも、一度死んだ彼は、本当にトーマスなの?」
私の言葉に重い静寂が広がった。誰も口を開けなかった。そんな静寂もお構い無しに、声が響いた。
「残り時間、約十分です」
ファルトが本を読みながらそう口にした。
「っ……そもそも、あいつが悪いんだよ」
「ユリアン!何を言っているの!」
「ユリアン!やめなさい!」
「……ユリアン」
私の後に続いて、ライアンとリリーが彼に声をかける。その言葉にユリアンは俯き、拳を握りしめた。だんだん、息が荒くなっていく。そして何かを口走った。
「……が……ば」
「え、何……」
何を言っているのかわからず、そう聞き返した。
「……あいつが、いなければ!」
そう言ってユリアンがファルトに切りかかった。
「ユリアン!?」
まさか攻撃を加えると思わずに反応が遅れてしまった。
「死ねーー!がっ!?」
彼は本を読みながら、軽く指を動かした。その瞬間ユリアンが横に吹き飛んだ。
「ユリアン!」
「話し合いが終わったのですか?」
彼が本から顔を上げた。だが、どこを見つめているのかわからなかった。うずくまるユリアンの横でただそう問いかけてくる。
「ユリアンが無礼をはたらき、申し訳ございません!」
ライアンが声を裏返しながら、その場に座って額を地面につけた。それに倣うようにして私とリリーも謝罪の意を示した。
「ライザー様をどうすることにしたのですか?」
「……まだ、決めておりません」
額を地面につけたまま、詰まる声をなんとか絞り出した。
「残り時間は約八分四十八秒です」
彼がまた本を開いた気配でようやく顔を上げる。
「……ユリアン、平気?」
リリーがいち早くユリアンのそばへ駆け寄りそう尋ねた。
「っ……あぁ」
「突っ走るのは悪い癖だといつも言っているだろう。危ないことをするな」
「悪い、取り乱しちまって」
「それは後で叱るわ。とにかく、今はトーマスのことを決めないと」
「……私、これは、私たちが決めていいことじゃないと思う」
俯きながらリリーがはっきりとした声でそう言ってきた。
「……でも、彼の意見を聞くことはできないわ」
「可能です」
「!?」
すぐ後ろで聞こえた声に全員が思わず戦闘態勢に入った。ライアンさえも彼の気配に気が付くことができなかった。
「……半径二百メートル以内に敵の存在を確認できませんでした」
「……無礼な反応、失礼しました。あの、トーマスと話せるのですか?」
「現在時間経過の影響で欲望の代言のみ可能です」
「欲望?」
「現在の段階に入った場合、大抵生きたいという叫びを指します」
その言葉に体が固まってしまう。そんな中で、ユリアンが動いた。
「ファルト様、聞かせてください」
「ユリアン!何を……」
「了解しました。一部代言を開始します。生きたい、生きたい、死にたくない、みんなといたい、死にたくない。一部代言完了しました」
ファルトは、トーマスに視線を固定したまま代言を終えた。彼の言葉は一度も揺れなかった。
一瞬の静寂ののち、急に目頭が熱くなった。
リリーはその場に崩れ落ち、ライアンは泣くまいと表情をこわばらせていた。
「トーマス……」
涙をボロボロと流しながらユリアンがそう呟いた。なんとも言えない静寂が私たちの肺を満たした。でも、もう迷いはなかった。
「……みんな、トーマスに会おう」
私の言葉に全員が頷く。その瞬間ドス黒い煙と、肉が焦げるようなきつい匂いで当たりが満たされた。あまりの匂いにみんな顔を覆いその場に座り込んだ。ただファルトだけはその場に立ち続けていた。




