十九歩目 結界具
「この後は買い物とか?」
「はい。フワワと私が基本的に買い物担当です」
「出発のための買い出しもします!」
ヴァルの問いにソノラとフワワが答え、答えなかった二人の方へとヴァルは視線を向ける。
「じゃあ、カナカさんとネスタさんは戻る感じか?」
「そうだな。この剣にも慣れておきたいから」
ネスタの肯定に「それは大事だな」と思ってヴァルは頷く。
重量はともかく、使い慣れた大剣とは長さも幅も変わるため「感覚がかなり違うな」と剣を決めた際にネスタがどことなく戸惑ったように零していたのをヴァルも聞いている。
「一応地図はありますけど、こっからの道わかります? わからないなら案内しますけど」
「有難いですけどあの……いい加減お仕事行かないと怒られてしまいませんか?」
「もしかしてサボってると思われてるっ!? 違うちがう! 街に設置してる結界具の点検中! 街を練り歩いてお仕事してまーす!」
頬に手を当てて不安そうに言ったソノラに目を見開いたヴァルが慌てて説明をした。
そんなヴァルの言葉にフワワが首を傾げる。
「結界具って……プロテクターの人が作る封印具みたいなのですか?」
「いや。クラフター製作のやつ。立地悪いし、アーリャ達がよく居るって言っても依頼とかで離れてエレメンターが居ないなんてよくあるから、念の為にあるんだよ」
「初めて聞きました」
「クラフターが居る街限定だよ。点検とか軽微の不調はマニュアルがあるからクラフター以外でもできるけどさすがにぶっ壊れたらクラフター頼み」
ソノラもぱちくりと目を瞬かせてそう言えば、今しがた出てきた店を親指で示しながらヴァルがそう言う。
「へぇ~。なんだかフラトゥスに来てからたくさん知らないことが知れて嬉しいです」
「うわぁ、良い子。フワワさんは健やかにそのまま成長してください」
「ありがとうございますっ! 頑張って強くなります!」
ヴァルの言葉をエレメンターとしての「成長」と受け取ったフワワが嬉しそうに笑顔を弾けさせて宣言する。
その笑顔にヴァルは「そうじゃなかったけどまぁいいか」と笑い返した。
「道なら私達は大丈夫ですよ。ね、フワワ」
「うん! 私、道覚えるの得意です!」
「それなら良かった。カナカさん達は」
「平気」
尋ねようとしたヴァルが視線を向けるより先にカナカが言い切る。
そっと息を吸い込んだヴァルが、にこりと笑顔を浮かべる。
「了解です。んじゃ、お気をつけてー。俺はこっち側から見て回るので」
「はい。色々と教えていただきありがとうございます」
「ありがとうございました! ヴァルさん」
「本当に。ありがとう」
口々に礼を言う中、カナカが頷いたようにも見えるような軽い会釈をして貸し家の方へと迷いなく歩き出す。
それに気が付いてネスタが追いかけようとして、ハッとした顔でソノラとフワワを見る。
「もし重たければ呼んでくれ」
「大丈夫だとは思いますけど、その時はお願いします。ネスタ」
ソノラの返答にはにかんだ笑顔を浮かべてネスタは先を行くカナカの後を追う。
去り際の笑顔の眩しさにフワワは「きらきらだぁ」と目をぱちぱちと瞬かせながら言い、ソノラはフワワの言葉に頷いた。
ヴァルはネスタの顔を見て時折浮かべる渋い顔をしていたが、パッとなんともなかったように表情を戻した。
そうしてその表情の変化をじっと見ていたソノラとヴァルの目が合った。
「…………今の表情は『眩しい』でしょうか?」
「『羨ましくて仕方ないぜこの野郎』、です」
「まぁ。……ちょっとわかります」
あっさりとしたヴァルの返答に目を瞬かせたソノラは、少しだけ考えてから肯定するように頷いた。
そんな二人を順に見たフワワは不思議そうに首を傾げる。
「ソノラちゃんはすごく優しくて綺麗で可愛くて、ヴァルさんはとっても優しくて親切で頼りになって格好いいよ」
「あ、べつに慰めて欲しいわけじゃ」
「フワワ……! そうなんですよ。わかります。ありがとうございます」
フワワの心から思っているだろうと分かる素直な言葉に気恥ずかしそうにしたヴァルに対して、ソノラは感動したように頬を染めて嬉しそうに笑いながらフワワの頭をよしよしと撫でた。
「……いや、事実だけど、すごいな」
フワワの賛美を真正面から受け取めたソノラにヴァルは空色の目を瞬かせた。
「そっちに行ったぞ! アーリャ!」
ベティを背後に庇いながらムルムの叫ぶ声に、刃が幾つも鞭のように繋がったアーリャの武器が逃げる『魔』へと、唸り声のような風を切る音を立てて振るわれる。
向かっていくアーリャの後ろからメイが左右から迫る攻撃魔法を放ち逃げ道を塞ぐ。
黒い霧のように決まった形のない『魔』が上へと動き出す。
「ティール兄っ!」
パーティーメンバーの中ではあまり跳ぶ魔法が得意ではないと自負しているファジが、二人分の足場を作って空中に留まり続けるのが難しいのか、急かすように名を呼ぶ。
隣に立つティールがそれに応じるように、杖の先についた青緑色の宝石を下へと向ける。
「【暴風壁】」
凄まじい風が吹き荒びながらティールが杖で示した先、上空に逃げようとした『魔』の道筋を塞ぐような壁を作る。
ティールのギフト魔法だ。
マジシャンよりは攻撃の伸びがいいものの、攻防ともにバランスよく上がりやすいウィザードのジョブであり、それなりに攻撃のステイタス値の伸びが良いティールが授かったギフト魔法は防御魔法だった。
ティール本人は攻撃に向いたものの方が良いと思いつつ、こういった時には使える便利なものだとも分かっている。
ティールのギフト魔法によって進路を塞がれた『魔』の動きが鈍り、それをアーリャが逃す事なく器用に鞭を絡ませて『魔』を捕まえる。
「つーかーまーえー」
思い切り武器を持つ手を引いて、『魔』を引き寄せるアーリャが翡翠色の目で睨みを利かせながら力強く拳を握りしめる。
絡まる鞭と唸り声をあげる風に導かれるように拳を構えるアーリャに引き寄せられていく『魔』の、形などなさそうなその中心部目掛けて、構えた拳を突きだす。
「たぁっ!!!!」
鬱憤ごと叩き込んだ拳に纏った風に黒い霧のような『魔』が散って行く。
「………………んー?」
拳を打ち込んだ状態で止まったアーリャがゆっくりと首を傾げる。
「どうした、アーリャ?」
「成功したっスか!? もう下りていいっスか~!? きついっス!!」
怪訝そうなアーリャに気付いたムルムがベティとともに駆け寄りながら尋ねる。
頭上からは泣き言とともにファジの質問が投げ落とされ、ティールがギフト魔法を解除して代わるように跳ぶ魔法を使う。
それに「ティール兄!」と明るく元気なファジの声が上がる中、アーリャの近くに来たムルム達がいつもと違う事に気が付く。
「魔石が……」
「落ちなかった」
困惑したメイを引き継ぐように、答えるように、アーリャがそう零す。
打ち込んだ拳を戻して広げた手の中にも何もなく、見当たる周囲にも魔石は見つからない。
「ティーくん、感知を ――」
ゆっくりと降下しつつあったティールが一番得意である感知を頼もうとしたメイは、緩やかな降下が止まったことに気が付き、それと同時にティールが一点を見つめている事に気が付く。
何かに驚いて、街の方角を見ているティールが口を開いた。
「街の、結界具が……起動してる」
震えた声で告げられた内容に、アーリャの姿が瞬く間に消えた。
「アーリャ!」
「どうして、あの『魔』は分身体作るやつだったの!?」
「それを頭の片隅に入れつつ行動! ファジも先に行け! メイ、ティールとベティを運んで来てくれ、出来るだけ急いで!」
言いながら走りだしたムルムならば、確かにメイが魔法で運ぶよりも速い。
ムルムの言葉にティールが反応するよりも先にティールの魔法の外に飛び出したファジが近くの木の枝に下りて、そのまま跳ねるような勢いで走り出した。
その素早さに我に返ったティールがメイの近くに着地する。
「【天翔ける風】」
メイの言葉にふわりと、誰よりも軽やかに、誰よりも簡単そうに、三人の身体が浮かび上がる。
《唸る風》パーティーが『跳ぶ魔法』を習得できた最大の要因であるメイのギフト魔法。
難所と言われる山ですら言葉通り「飛び越える」ことが出来る、《唸る風》が山を専門とすることを選べた最大の理由だった。
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次話の更新は6/13(土)の予定になっております。
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