十八歩目 防止
「どうしてそこまでしているんですか?」
「まぁ、盗難防止ってある通り盗難被害が何度もあって……。怒ったクラフター達が対策に対策を重ねて強化していった結果だな」
「大変だったんだろうな……」
――― そして相当、怒り心頭だったのだろう。
そんなことが浮かぶほどの頑丈さになんとも言えない顔をして眺めるネスタの横で、カナカは心の中で「もうただの武器だな」と思っていた。
「でも、これ箱に仕舞っているものと、テーブルのこっちのもの、効果数値が10以上も違うのに値段が近いですよ?」
「そのあたりは近くの街から入って来た分。そして、それが防具が置いてない街がある理由」
ソノラが感心したように眺めて気が付いた事を尋ねれば、ヴァルが良い質問と言わんばかりに笑顔になる。
「効果が高いから値段が高く設定される。と言う事は街から街に運べば更に値段がつり上がる。つり上がるとどうなるかなんてわかり切ってる。売れない! もう本当に、全くこれっぽっちも売れない! なんなら値段で無視される! でもちゃんと性能良いからたたき売りなんて出来ないんだよっ!」
「な、なるほど……」
後半に連れて熱量が上がるヴァルに、武器屋の店主である男性も何度も力強く頷いていた。
その勢いにソノラがわずかに身を引きつつも相槌を返す。
「だから防具はクラフターが居る街でしか販売されない。それでも売れないから、クラフターが請け負う仕事の中で一番需要と供給と優先度が低い。ぶっちゃけ専用武器受け持ったり、支給服製作に携わった方が良いからな」
腕を組んで難しい顔で現実的な事を言ったヴァルに武器屋の店主もやはり力強く頷く。
そんな店主をヴァルが両手で指し示す。
「ちなみにここの店主みたいに武器屋やってるクラフターも結構います」
「俺のやつは、効果弱いけどなぁ。恥ずかしいから壁際に置いてる効果も少なくて値段が低いやつだ」
「防御が不安であの山越えて北部大都市目指すなら、ほんとおすすめしない」
「おう、ヴァル。こっち来いや」
けらけらと笑って言ったヴァルの言葉に磨いていた盾を持ち上げて手招く男性に「いやでーす」とヴァルは顔を逸らす。
フワワはおろおろと店主とヴァルを交互に見て、パッと男性が製作しただろうブローチを両手で大事に持ち上げる。
「で、でも、すっごく可愛いです。私、このお花のがすごく好きです!」
「あ、ほんとう。綺麗ですね」
「ね!」
フワワが持ち上げた薄紅色をしたつるりと輝く一輪花のブローチを見たソノラも目を瞬かせて、それからふわりと笑った。
そんな二人に怒った顔をしていた男性は前のめりになっていた身体を戻して椅子に座って、気恥ずかしそうに頭を掻く。
店主の少し緩んだ表情を見て、ヴァルが小さく笑った。
「―――― まぁ、でもヴァルの言う通り北部行きたくて、防御に自信ないなら俺のはやめときな。見た目よりも性能が良いのを選んだ方が良いぞ。嬢ちゃん」
店主の言葉にちらりとブローチの効果を見たフワワが窺うようにヴァルを見上げる。
「でも、これも結構あがるけど、駄目なんですか?」
フワワの質問にヴァルが力なく笑って、肯定するように頷いた。
「フワワさんの防御の数値がわからないけど、防御に自信がなくて、もしもパーティーメンバーの誰も防御系のギフトがないならおすすめしません。その状況で上級パーティー以外なら棚の二段目、最高額から少しランクダウンしたレベルを勧めます」
「ここの山は本当に難所だから、やり過ぎなくらいがいいんだ」
「そう、なんですね……。わかりました」
ヴァルと店主にそう言われてフワワは残念そうな表情でそっとブローチをテーブルに置いた。
「防御の効果に差はないから、あとはここの段で追加効果から選んでいいと思う」
「追加効果ですか? あぁ、この下にある方ですね」
ソノラが説明をまじまじと見てその箇所を示す。
主要である防御の効果には幾分か劣るものの、移動速度や攻撃に効果があるものが見受けられた。
ソノラはじっとそれを見つめて考え込む。
「移動速度、俊敏、敏捷の差はなんでしょう?」
「移動速度は言葉通り移動時の速度でこれはあんまり戦闘向きじゃないかな。俊敏は戦闘とかで咄嗟に避ける時の速度が上がって、敏捷は全体的な速度向上。いわゆる戦闘時の回避速度に関してなら俊敏、多方面向きが敏捷、単純に走るとかなら移動速度かな」
「なるほど。だから移動速度が一番お安く、特化している俊敏よりも総合的に無難な敏捷の方がお高いんですね」
「まぁ、やっぱり一番選ばれるからね」
納得したソノラの言葉にヴァルが笑ってそう返した。
「なら私は三段目くらいの敏捷効果のある……これにしようかしら」
そう言ってソノラが示したのは丸い形をしたピンバッジだ。空のような淡い水色から濃紺の深い海のようなグラデーションの中に星のような白い輝きがいくつも散っている。
「わぁ、すっごくキレイ! 絶対ソノラちゃんに似合うよっ!」
「ありがとうございます」
嬉しそうに笑ったソノラがフワワの頭を撫でる。
それにフワワもにこにこと明るい笑顔を返し、それから二段目の棚を背伸びして見る。
「うーん。私もその、敏捷の…………」
フワワがそう言いながら視線を動かして、ぴたりと止まる。
棚の中央に置かれた小箱の上、白い布の上に置かれている淡い青にも薄緑色にも見える不可思議な色合いの花の形をしたピンバッジがそこにはある。
店内の明りにつるりと艶めくその『花』にフワワは目を輝かせた。
「わぁ……! これ、すごくキレイ……」
目を奪われたようにそれだけを見つめるフワワに対して、フワワが見ているピンバッジの効果を見たカナカは問題がない事を確認した。
「じゃ、その二つで」
「お買い上げありがとうございまーす」
「えっ? えぇっ!?」
カナカの言葉にパパッと棚からソノラとフワワが選んだ小箱を取ったヴァルが手早く店主の方へと持っていく。
それにフワワが困惑と驚愕の声を上げたものの、カナカはネスタを連れて剣の方を見に行き、ソノラは小箱を店主の元に運んだヴァルが店主に殴られている様子を横目に二人の後に続いた。
「お、お値段ちゃんと見てなかったけど、絶対に高いよね……?」
「大丈夫ですよ。私達みんな、カナカに借金するんです。一緒に返済頑張りましょうね」
「そ、そうだけどね……」
おろおろとしているフワワに「大丈夫です」とソノラは笑って繰り返した。
そもそもカナカは基本的に明快な物言いをするため、許可をしたのなら問題がないという事に他ならない。
フワワもそれを分かっている為、ちらりとカナカを見て、全く気にした様子もなく剣を物色している様子にそっと安堵の息を吐いた。
「カナカさんって豪快ですね」
「カナカくんはすごいですからっ!」
店外に出て真っ先に発せられたのがヴァルの言葉だった。
そんな言葉に溌剌と返したフワワに、カナカが「ふつー」と零す。
決して普通ではないがヴァルは何も言わないことにした。
フワワの足首まで覆うほどの長マントの左胸には青にも緑にも艶めく花のピンバッジがあり、専用のベルトも買って腰に差した剣の鞘に盗難防止用の細い鎖を更に巻き付けているネスタをソノラがどことなく心配そうに見ている。
そんなソノラのマントの左胸にはグラデーションになった青の中に星の輝きのような粒が散る丸いピンバッジが煌めいている。
二つのピンバッジに、重量と頑丈さが店随一のお高い剣に専用の腰ベルト、さらに盗難防止用の鎖。
店主が「本当に支払えるのか?」と案じてしまう程度にはどれも高額だったがカナカは一括で支払ってさっさと店を出た。
そうして三人が店主に礼を言ってその後を追う。
全員慣れた様子なのが見て分かりこのパーティーのいつも通りなのだろう、と判断してヴァルも店主に軽く礼を言って追って外に出たのだ。
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次話は6/6(土)に更新しますので、よろしければお付き合いください。




