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エデンズエレメンター  作者: 雪梅るり
二章 山麓の街フラトゥス

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十七歩目 小箱



 「あぁ。それは単純に防具が置いてない場合と、あっても高額だから初心者に勧められないからだな」


 朝が来て朝食を摂って、しばらくフワワの練習を全員で付き合いながらそろそろ武器屋へと、と思って出ようとした所で様子見に来たヴァルとばったり会った。


 武器屋に向かうと伝えたところで「近道を案内する」と言われ、アーリャ同様に人の家の敷地と思われる場所を平然と通るヴァルに付いて行きながら昨日話題に上がった防具の件を尋ねたところ、そうあっさりとした答えが返された。


 「置いてない場合があるんですね」

 ソノラが意外そうに言えば、そうそう、とヴァルが頷く。

 「装飾品の製作はエンチャンターで、種類と製作者によるけど割と安価で済む。対して防具の製作はクラフター。基本的に種類は防御効果を上げる物のみなので名称が『防具』なんだけどこっちが高額。違いがあるんだけどわかる?」


 ようやく普通の道を通りながらヴァルが尋ねる事にカナカとフワワはそもそも存在を知らなかったため、知っていた二人を見上げた。

 ソノラは首を傾げ、ネスタは自信がなさそうにヴァルを見る。

 「効果、だろうか」

 「……正解」

 不安そうに少し俯いてヴァルに言ったネスタを、むっ、と口を真一文字に引き結んで渋い表情で一度見返したヴァルは、切り替えるように笑ってそう言った。


 「防御のみだけど高品質の装飾品がステイタス値を例えば10あげるのが最高値としたら、防具はそれ以上。製作者によるから一概に全部がそうとは言えないけど装飾品の最高値が、防具の最低値って感じ」

 「なるほど。装飾品をたくさん身に着けても防具一つに足りない場合があるって事ですね」

 ソノラの言葉にヴァルが頷いて、でも、と続ける。


 「負担じゃなければ二個、三個と身に着けられる装飾品に対して防具は基本的に二個が限度になる。だからお高い装飾品で安値の防具を越えられる仕組みになってる」

 「それじゃあ防具はあんまり売れないんじゃあ……」

 「いいんだよ。クラフターはエレメンターやギルドの支給服、専用武器とか高額でも需要の高い仕事があるから」

 「えっ!? これ、クラフターの人が作ってるの!?」

 「そうですよ」

 ヴァルの言葉にフワワは自分の支給服の長いマントを触って驚きの声をあげる。

 そんなフワワに笑みを零しながらソノラが肯定する。


 「―――― っと、説明していたら着いたぜ。お目当ての武器屋」

 「あ。ありがとうございます」

 「こういうのもギルドの仕事だからな。他になんか質問ある?」


 ほとんど地図を確認しないまま目的地に着いた事に、よく見ないと気付かないような小さめの看板の文字を見て気が付いたソノラに、にこりと笑ってヴァルがそう言う。

 ソノラは特になかったためフワワ達はないだろうか、と視線を流していく。

 その途中で控えめにネスタが手を挙げていた。

 ヴァルもそれに気が付いたのかきょとりと目を瞬かせた。


 「その……ヴァルさんは山に慣れているだろうか?」

 「…………え、あぁ。まぁ、そこだし?」

 一瞬、ぎくりと口元をひきつらせたヴァルは誤魔化すように笑みを深める。

 それに気が付いたもののヴァルの様子を見て、何も見なかったようにネスタは続ける。


 「ムルムさんに、俺の武器だと山には不向きだと言われて変えようと思ったんだが、どういった武器なら良いとかあるだろうか?」

 「あー……。普通にそんな長くない剣とかはどうです? 重さとかで動き難さが出るなら重量があって壊れにくくて……長剣ってほどじゃないやつなら、大剣使ってる時との感覚の差はないと思いますけど」

 なるほど、とヴァルの言葉に目を輝かせて礼を述べようとしたネスタを制するようにヴァルの手が出された。

 そして真剣な顔をする。


 「ただ、めちゃくちゃ高いです。誰でも使えるようにはなってますが、性能面的に言えば重量系武器が好きな人用の、つまりは専用武器よりなんで」

 「…………っ!!」


 ヴァルの言葉にネスタが目を見開いて固まる。

 そうして、おそるおそると振り返った。

 店の窓から中を見ていたカナカがちらりと、振り返るネスタに目を向ける。


 「…………追加な」

 「いつか、返せるといいですね」

 「一緒に頑張ろうねっ! ネスタくん!」

 「あぁ。頑張ろう。フワワ」

 ソノラがそっと息を吐きながら励ましの言葉を送り、目に見えないけれど確実に積み重なった『借金』に口元を引き結んだネスタにフワワが両手の拳を握りしめてそう前向きに笑う。

 そんなフワワにネスタがほんのりと微笑んだ。


 その様子を眺めていたヴァルは扉をそっと開こうとした手を下げてカナカを見る。

 「お支払い大丈夫そうですか?」

 「買えないやつは買わない」

 「どうぞ、いらっしゃいませ~」

 迷いなく言い切ったカナカにヴァルは下げた手を上げて扉を開いた。



 促すようなヴァルの言葉にさっさと店内に入ったカナカとそれに続いたソノラとネスタ、少し遅れてフワワが入って、扉を開いていたヴァルが店内に入る。


 店の中は今までフワワが見てきた武器屋よりも小ぢんまりとしていた。

 壁に掛けられた剣や槍、盾。樽に纏められた安価な剣などは入口近くにいくつも置いてあったもののカナカは一瞥もせずに奥の棚の前に居る。


 壁際に棚とテーブルが設置されたその場所に置かれているのは小さなバッジ ―― ソノラとフワワの目当てにある防具だ。

 ソノラもそれに気が付いてそちらに向かい、値札を見て、棚に飾られている小箱に仕舞われている防具を見て、値段を確認して、深呼吸をした。


 そうして、うん、と何かに頷いたソノラはカナカを見る。


 「借金一名追加でお願いします」

 「だろうな」


 値段を真っ先に確認していたカナカは高額とは聞いていたものの想定よりも高かった防具の値段に、ソノラがそう宣言するのも仕方がないと思った。

 装飾品の中の最高値を想像していたが、額が一桁違う。

 小箱に仕舞われているものも、やはりどれも高額だ。


 「箱に仕舞われてるのとテーブルの違いは?」


 すぐ左手側を向けば店主の男性が居るにも関わらずヴァルの方を見たカナカの質問に、ヴァルは引きつった苦笑を浮かべた。

 幸いにも知り合いである店主の男性は気にせず、カウンターで椅子に座ったまま軽く片手を上げてヴァルに笑い、小さめの盾を磨くのに戻った。


 男性に手を軽く振ったヴァルは、カナカ達の近くで値段を確認したネスタとフワワが驚愕で言葉を失っている横から手を伸ばして、テーブルの防具の横に置かれた紙を取った。

 「効果が書いてありますけど、比較すると小箱の方の効果が高いでしょう」

 「あ、本当だ!」

 ヴァルの言葉に値段を凝視していたフワワはその横に書かれた数字を見つける。


 そうしてついでに棚の上にも横にも下にも、小箱を置いている後ろ側にも張り付けられた『触るな! 危険!』の文字に、ようやくフワワは気がついた。

 ヴァルは棚を軽く小突きながら言う。


 「この小箱はクラフターが盗難防止用に使ってるやつ。ちゃんと正規の手続きで店から商品を買わないと、噛みます」

 「噛まれちゃうの!?」

 「中級のアタッカーの攻撃にも耐えて、中級のタンクが悲鳴を上げるほどの激痛を与え、必死になっても引きはがされないように設計されてる。だから、コレ」


 『触るな!! 危険!!』の文字を示して言ったヴァルに、ひえぇ、と情けない悲鳴を上げてフワワがカナカの後ろに逃げる。

 この中で一番弱いときちんと理解しているフワワでは、小箱相手にも負ける自信しかない。





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