十六歩目 防具
「防御が足りてませんよね」
食事を終えて、明日からの方針についての意見を出すという事になって早々にソノラがそう言った。
「ソノラちゃん、前にも言ってたね。たしか、ナイトかタンクの人が増えるといいんだよね?」
「はい。攻撃なら今のところ十分だと思いますが、フワワ以外防御に関するギフトスキルや魔法がありませんから」
フワワの確認にソノラが頷く。
フラトゥスに向かう以前からソノラが挙げていたフワワ達の問題点の話題に、ネスタは「だが」と声を出す。
「とりあえずは広がり過ぎない、ことになっただろう?」
ネスタの言葉通り、以前から挙げていた問題点に関して取り決めたことを言えば、ソノラもそれに頷き返す。
極力互いの距離を取らないように気を付け、感知の出来るフワワが周辺を警戒している間に、ソノラとネスタでカナカのフォローに入る。
それで全ての異変に対応ができるわけではないが、少しだけでも危険は減らせるから、と決めたことだ。
「ですが慣れたアーリャさん達でも一日半はかかる山越えで、その形は難しいと思います」
「そうは言ってもこんなとこで防御の得意な新人は見つかんないだろ」
「はい。なので、多少出費が厳しいですが、防御装備を固めたいと思ってます」
ソノラがそう言って取り出したのはヴァルが置いた街の地図であり、その中には三つの武器屋が記されている。
そうして几帳面そうで見やすい文字でそれぞれの店の特徴が記されたもう一枚の紙を出して、比較的ギルドからも街の中央からも外れた店をソノラが差した。
「防具ならこの店だそうなので、明日ここに行って全員装備を買うのはどうでしょうか」
「……べつにいいけど」
じっと紙を見ながらどこかもの言いたげなカナカに、ソノラが口を開く。
「カナカは気が向かないなら無理強いはしません。感覚が変わって戦闘に支障があると困りますから。ただ、私はネスタのギフトスキルがあっても元々そんなに足が速くないですし、装備で補わせてもらえればと思います」
「必要なら買った方がいい」
「ありがとうございます」
あっさりと許したカナカにソノラはホッとしたように笑った。
現在のパーティーの分配は役割に関わらず均等となっているが、そのほとんどはカナカが討伐した結果だ。必然的にお金の使いどころに関して一番の決定権はカナカが保有している。
「ムルムさんに確認したが、防御のステイタス値が十分あるから俺も防具は大丈夫だと思う」
「ネスタくん、防御のステイタス値すごく高かかったね」
同じジョブであるムルムが「そんなに?」と細い目を見開いて驚く程には高いネスタの数値ならば確かに防具を増やす必要はないだろう、とソノラは納得する。
「じゃあ、明日は私とフワワの防具を買いましょう。武器はどうしますか? カナカとネスタは予備とか増やします?」
「あ、そうだった」
ソノラの質問にカナカが答える前に何かを思い出したらしいネスタが神妙な顔でカナカを見た。
「その……北部までの道中だと俺の武器は使いにくいと、アーリャが言っていたんだ。もう少し小回りの利く剣を買いたいんだが……」
「そういえば言ってましたね」
フワワが跳ぶ魔法の練習をし、カナカが少し離れていた際にアーリャが言った事をソノラも思い出す。
ネスタの持つ大剣を示してアーリャは「あの山だと戦い難い」と言い、その場に居たベティも同意していた。
実際に同じナイトのムルムも剣を扱っているもののネスタとは違い刀身の細い刺突に向いている細剣を選んでいる。
「武器もその店?」
「そうですねぇ。……『値段は高めで定番の種類のみだけど武器もおすすめ』だそうですよ」
「じゃあ、明日は武器屋だな」
「! ありがとう、カナカ」
「わかりました」
カナカの言葉に安心したようにネスタが笑い、ソノラは頷いて紙を直す。
それを見ていたフワワが意を決したように手を挙げる。
「フワワ? 何か気になる事がありましたか?」
「あ、あのね。私の支給服、少しでも身を守れるようにって選んでもらったんだけど、それでも防具が必要なの? あ、あと、装飾品も防御用だったよね?」
「……あ。もしかしてフワワ、防具を見てませんか?」
「え? うん。たぶん……?」
ソノラの問いに自信がなさそうに答えるフワワが肯定すれば、やっぱり、とソノラが笑みを零す。
ネスタもどこか懐かしそうな目をして笑う。
「防具は支給服など身に着ける物に付与できるようにクラフターが製作して販売しているものなんです。マントに着けられるピンバッジやブローチなどが多いでしょうか。エンチャンターが製作する装飾品よりはお高めなんですが、効果は大きいんですよ」
「へぇ」
「あ、そういえばアーリャちゃんもマントにつけてたね」
フワワの言葉に、そうそう、と頷いていたソノラは、ふ、と間に入った声が引っかかってフワワからカナカへと視線を動かした。
頬杖をついて聞いていたカナカに、ネスタも目を瞬かせている。
「……もしかしてカナカも知らなかったのか?」
「そう」
「カナカくんも物知りだからなんでも知ってるかと思った」
「パーティーに入って、先輩とかから聞かないと分からないことって割とあるから。ギルドが全部説明してくれるわけじゃないし」
そう言い返したカナカにソノラとネスタは「そういえば」と思い返す。
「たしかに、最初のパーティーの時に先輩から聞きましたね……。最初に担当してくださった人からは装飾品の説明はあった気がします」
「俺も先輩からだったな。装飾品のこともギルドからじゃなく先輩からだった」
「私、ニネアさんとカナカくんから装飾品があるのは聞いてたけど、防具の話は聞いたことないかも」
「武器屋で聞いたことはある」
それぞれの記憶を辿ってそう言い合い、お互いに顔を見合わせる。
「……ギルドで何か決まりがあるのかもしれませんね。ヴァルさんに聞いてみましょうか」
「そうだな。とりあえず明日は武器屋に行って防具と剣を買って……カナカとフワワは何かあるだろうか?」
途中でソノラとネスタの意見だけだと思い至ったネスタが二人に尋ねる。
「まぁ、短剣は一応見る」
「私は大丈夫だよ。でも、みんなが時間あるときに、跳ぶ練習に付き合ってほしいですっ!」
「もちろん……と言いたい所ですが、私だとフォローが心配なんですよね」
アーリャ曰く「吹っ飛んだり、すっころんだり、制御できなくて暴風が飛び散ったりする」らしく、練習するフワワの安全面でも周囲への気配りとしても、必要なのは物理的な対策になる。
アーリャ達であればすでに使える跳ぶ魔法で受け止めたり支えたりが出来るが、ソノラには難しかった。
「俺とカナカで担当しよう。ソノラは買い物をよくしてくれているし」
「お願いします。フワワ、怪我はしないように気を付けてくださいね」
「うん! ありがとう。みんな」
溌剌と笑うフワワの頭をソノラがよしよし、と撫でる。
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