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エデンズエレメンター  作者: 雪梅るり
二章 山麓の街フラトゥス

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十四歩目 跳ぶ



 「んじゃあ約束の跳ぶ魔法教えるねー。メイ姉が」

 「教えるわよ~」

 アーリャの言葉にひらひらと手を振るメイを見上げて、ハッとしたフワワは深々と頭を下げた。

 「よろしくお願いします」


 その様子を離れたところで見ていたソノラの元にアーリャが戻って来たので、ソノラは不思議そうにアーリャを見た。

 「てっきり、アーリャさんが教えるものかと思っていました」

 「うちよりメイ姉が上手いっていうか、そもそもこの魔法ってメイ姉のだからさぁ」

 なるほど、とソノラは得心がいった。


 フワワが見上げるメイは自己紹介の際にジョブをマジシャンと名乗っていた。

 ウィザード同様に主に後衛を担うジョブの一つで、どちらかといえば攻撃寄りのウィザードに対して、マジシャンは攻撃と防御のステイタス値が均等に伸びやすい。


 「あ、あの。私、まだまだステイタス値が……びっくりするぐらい低くて。それでも大丈夫ですか?」

 「えぇ、大丈夫よ。でも、そうね、たとえばこの家より高い崖を飛び越えるとかは難しくなるかしら」

 フワワ達の貸し家を示して言ったメイに二階建ての一軒家の屋根を見上げたフワワは、うんうん、と頷いた。


 「でも高さなんかよりも工夫よ、工夫。自分なりの使い方をするのがなんだって一番。今から教える中で大事にするのは、貴方も仲間も安全で居られる基本。それを守りながら貴方なりに、パーティーに合った使い方をしたらいいわ」

 「はいっ!」

 「あと、向き不向きはあるから、できなくても落ち込み過ぎないこと。こんなの使い方の一つで絶対に必要なわけじゃないんだから」

 「はい! ありがとうございますっ」


 諭すようなメイの言葉にフワワも笑顔を浮かべてお礼を述べる。

 フワワの返答に、良い子、と満面の笑顔になったメイは、メイの身長よりも少しだけ短い杖を自分の前に掲げる。


 その先にある黄緑色の宝石がチカッチカッと、弾けるように輝いてフワワとメイの足元に風が集まる。

 「最初は足元に風を集めるの。慣れないうちは本当に少しずつでいいから、少しずつ強く、大きくして、その上に乗る」

 「の、乗る」

 フワワの厚手のマントも浮かんで揺れるほどの風になった時に、メイがフワワへと手を差し出す。

 それにフワワが手を伸ばして掴めば、ふわりと浮かんだメイに手を引かれるようにフワワの身体が少しだけ浮いた。


 「足元に風があるのわかるでしょう?」

 「はいっ!」

 「こうして風で足場を作ったら、少しずつ足元の風を上に持ち上げるの。でもそれだけだと身体が強い風にぐらぐらして、倒れちゃうから少しずつ身体の周りに包み込むように風を纏う」


 メイの言葉通りにフワワ達の周りに留まる風がゆっくりと足元から広がって行く。

 そのまま風が広がるのと同じくらいに徐々に上へ上へと身体が浮いて行く。

 「うわぁ! すごい! すごいです! メイさん!」

 視界がゆっくりといつものフワワから見れない高さに上がって行くのに目を輝かせ、フワワがはしゃぐ。


 「でしょう? 使っている時の注意点はとにかく集中する事ね。下りる時は上がる時の逆よ。ゆっくり周りと足元の風を弱めて行くの」


 ふわふわと上に登って行った身体がゆっくりと地面へと下りていく。

 周囲に留まっていた風も溶けるように空に戻って行き、足元の風は地面の程近くで一段分の高さを留めて残っていたものの、パッと一瞬で消えてフワワとメイの足が地面に着いた。

 少しばかり残念な気持ちを感じながら、フワワはメイを見上げる。

 「ありがとうございます! メイさん」

 「いいのよ。あともう少し時間あるから、フーちゃんやってみましょう」

 「ふ、ふーちゃん……」

 独特な呼び名に戸惑っているフワワに、メイは「なあに?」と微笑みながら首を傾げる。


 それにフワワは慌てて首を左右に振る。

 「な、なんでもないです! やってみます!」

 「がんばって。フーちゃん」

 繋いでいた手を離してひらひらと手を振ってそう言ったメイにフワワは自身の杖を握り締めて、こくりと頷いた。


 そうして少しメイから離れて、両手で杖を持つ。

 ゆっくりと息を吸って、吐いた。


 「最初は、足元に風をつく、りゃっ!!」


 集中して足元に渦巻きはじめた風に足が掬われる。

 勢いよく後ろ側に倒れた身体をカナカとネスタが支える。

 「あ、ありがとう……。カナカくん。ネスタくん」


 それが無ければ思い切り地面に頭をぶつけていたフワワは早まる心臓の音を聞きながら礼を口にする。

 視界の端ではソノラが驚いて目を丸くし、アーリャも助けようと動こうとしていた状態で止まっている。

 二人に支えられながら立ち直したフワワの前に居たメイも驚いて明るい黄緑色の目を大きく見開いていた。


 「無茶はするなよ」

 「がんばれ、フワワ」

 「うん。ありがとう」

 素っ気ないながらも気にかけている言葉を言ったカナカが早々に離れ、ネスタも朗らかに笑って応援を口にしてその後を追っていく。

 二人に重ねて感謝を述べたフワワは、気合を入れ直す。


 その様子をそっと息を吐いて眺めていたメイは、感心したように微笑んだ。

 「すごい……速いのね」

 「そうなんですか?」

 「そうよー。最初は今みたいになりやすいからすぐ助けようって準備してたのに、私よりも早くって、吃驚しちゃったわ」

 感心していたメイはそう言って、切り替えるようにフワワの前の地面を指差す。


 「ああなりやすい人は最初から足元に風を作るより、自分の前に乗れるくらいの風を置くイメージでやった方が良いわ。最初から足元に作って行くのはそれで安定してきてからにしましょう」

 「わかりました!」


 言いながら分かりやすいように作って見せたメイの気遣いににこにこと笑顔を浮かべてフワワは頷く。

 そうしてもう一度、メイに言われたように自分の足元の少し前に意識を向け、風を集めていく。



 その様子を少し離れた場所で眺めながら、戻って来たカナカとネスタにソノラは微笑む。


 「やっぱりカナカとネスタは速いですね。私だけだったら危なかったと思います」

 「ほんとー。二人ならあの『魔』のこと捕まえられそーでいいなぁ」

 ソノラに続いてアーリャがそう言えば、ネスタがきょとりと目を瞬かせる。

 それから少し遅れて、あぁ、と思い至る。


 「《唸る風》が探している『魔』か。そんなに速いのか」

 「速いよぉ。うちとファジはなんとか追いつくんだけど、ベティ達が大変そう」

 「前衛と後衛ってどうしても移動速度の差が……頑張っても開いちゃうのよね」

 アーリャに続いてその隣で物静かだったベティが途端に落ち込んだようにそう零す。


 「ステイタス値の伸びって自分ではどうにもできないのが辛いところですよね」

 「そうなのよ。本当に」


 ジョブは違っても同じく移動速度に自信の無いソノラが深く同意した。

 フワワやメイがここに居てもソノラ同様に深々と頷いていただろう。


 「山だと離れ過ぎると危ないから、これ以上広がったら駄目ってムルムが思ったら深追い禁止にしてる」


 アーリャの言葉にネスタは同じジョブのムルムへと顔を向ける。

 ムルムはファジが鉤爪のようなものが甲の部分に装着されている籠手を嵌めた腕を振るって攻撃してくるのを盾でいなしながら、困ったように細い目を開きながら何事かを口にしている。

 おそらく動きは速いものの大振りな動きを矯正するための助言をしているのだろう、という推測ができるのはムルムが何かを言った後のファジの動きの大雑把さが改善されているからだ。

 ティールは近くに座りながらたまに思い出したように石を放り投げては単調になりそうなファジの動きを崩している。



 「あ、そう言えばずっと言おうと思ってたんだけどさ」

 「あぁ。なんだ?」


 パッとネスタを見上げて言うアーリャにネスタが不思議そうに見返す。

 それだけなのに整った顔立ちが輝いて見え、アーリャが「眩しっ」と思わず口から零した。

 アーリャの横のベティもパッと両手を顔の前に掲げて、そろそろとネスタから顔を背けていく。


 ネスタは背後を振り返って太陽が無い事を確認して、首を傾げたものの視線をアーリャに戻して続きを大人しく待っていた。

 その様子にアーリャはソノラを若干の壁にしつつ、ええとね、と気を取り直した。

 壁にされたソノラは不服そうに吐きだしかけた息を飲みこんで、今度は横に倒れそうになったフワワをまたカナカが助けている様子を案じつつ見守ることにした。


 「ソレ、なんだけど」


 それ、とアーリャが指さしたものをネスタは見て、なおのこと首を傾げた。

 示されたのは何の変哲もない ―――― 強いて言うならば東部大都市ウェルテクスの武器屋で大分いいお値段だった ―――― 大剣、つまりネスタの武器だった。




御覧くださりありがとうございます。

次話は 5/9(土)に更新します。

よろしければお付き合いください。

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