十二歩目 適任
「お邪魔しまーす。せっかくだし今いるうちの仲間も紹介しようと思って来た~」
別にいらないけど、と言いたいのを堪えるような難しい顔をしたカナカが、何も言わずに顔をそむけた。
ネスタはいつも通りのカナカに零した苦笑のまま「ありがとう」とアーリャに返す。
「まずは、うちの最年長~」
「ムルムだ。ジョブはナイト。アーリャが世話になったな」
萌黄色の髪に若葉色をした細目をなお細めて笑う青年は、【神の雫】で名前とジョブを示した。
そんなムルムの横に居る女性が暗い黄緑色の肩ほどの短い髪を揺らし、明るい黄緑色をした瞳の片方を軽やかに閉じた。
「私はメイ。ジョブはマジシャン。よろしくね」
ふわりと浮かぶ半透明な枠を指差しながら言って笑みを深める。
そうして隣に居た女性の手を引っ張る。
赤茶色の長い髪を高く一つに纏めて、果実のような明るいオレンジ色の目でメイに文句を訴えた女性は、一瞬だけ悩んだものの二人と同じように半透明な枠を浮かべる。
「私は、ヒーラーのベティ。……その、よろしく」
「はい! よろしくお願いします!」
どこか居心地の悪そうなベティを不思議そうに見ていたフワワが元気に挨拶を返せば、ベティは虚を衝かれたような顔をする。
あら、と言いながらさりげなくメイがカナカ達を見たものの、カナカは変わらずどうでも良さそうに聞き、ネスタとソノラはベティの態度に何かを察しつつ、いつも通りのフワワに笑みを零した。
「――― うん。よろしくね」
きらきらとしたフワワの笑顔に、改めて言い直したベティに首を傾げながらもフワワは嬉しそうに頷き返した。
そのやり取りを見ていたヴァルがホッとしたような表情を浮かべる。
そんな空気を壊すように、はいはーい、と少年とも青年とも言える人物が手を高らかに上げる。
「俺はファジ! ジョブはウォーリアっス!」
「なんでお前が先なんだよ。年齢順なら次は俺だっただろ」
「えっ、そうなんスか!? でも、もう言っちゃったっス。ティール兄」
本気で驚いた様子の灰緑色の髪に黄色い目をしたファジの言葉に、ったく、と残った青年が青緑色の目を細めて仕方なさそうに諦める。
「俺はティール。ジョブはウィザード。この考えなしに突っ走る馬鹿ファジとは従兄弟ね」
「ティール兄は考え過ぎて足おっせーっスよね~……あだっ!」
笑ってそう言ったファジの背中をティールが無言で思い切り叩いた。
「んで~、フワワちゃん達のパーティーのカナカくんとネスタさんね」
ムルム達にわかるようにカナカとネスタの順に指を差したアーリャを、ムルムが「人を指差すな」と呆れたように言って手を下ろさせる。
「こんなとこ居ていいのかよ。討伐は?」
「依頼とは別の倒した~。依頼のやつは相変わらず見つかんなーい。ヴァル、仕事しろー」
「俺はチェッカーじゃありませーん」
テーブルの近くまで来たアーリャにヴァルが聞けば、途端に面倒そうに力を抜いたアーリャが膝をついてテーブルに突っ伏して小さく悪態を吐く。
それにさらっと返したヴァルは、そのままカナカを見る。
「と言う事は、急用じゃない限り《唸る風》パーティーの案内は難しいですね」
「適任達ってこいつらだったのかよ」
「いえーい」
ヴァルの返答に察したカナカが呆れた顔でアーリャを見れば顔だけ持ち上げたアーリャがへらりと笑う。
そんなアーリャにソノラが首を傾げて尋ねる。
「確か、山隠れ? する『魔』でしたか?」
「そー。めーっちゃ見つかんなくて、だるーい。やっと見つけても、違う『魔』と遭遇して討伐してる間に逃げられてもっとだるーい」
「なんだか大変そう、だね?」
感想が強い説明にフワワがふんわりと理解して気遣うようにそう言った。
カナカは少しだけ考えてから、説明を求めるようにヴァルを見る。
「封印具で抑えていた『魔』なんですけど、ちょーーーーっと自分勝手なパーティーさんがそれ壊しまして」
「まあ。なんだかちょっと前にも似た事ありましたねぇ」
「あはは……」
どこか聞き覚えのある話にソノラが頬に手を当ててそっと息を吐き、フワワがそんなソノラに苦笑を零した。
「そいつらはそそくさと北部大都市に逃げて、チェッカーが探してもう一回『魔』を封印対応しようとしたんですけど、『魔』にも逃げられたんです。しかも封印前よりちょっと強くなったのか、チェッカーが見つけられなくなって、今このフラトゥスと北部大都市の山間のどこかに潜伏してます」
「それは、大変だな……」
ただでさえ探しにくく視認性の悪い山中で、更にチェッカーの感知に引っかからないように強くなった『魔』を想像して、ネスタは心の底からそう思った。
「元の対応は下級か?」
「そう。放置期間が長くなるほど『魔』が強くなっていくから……推測程度の『魔』の昇格期間で考えると、あと四日以内には見つけたいんですよね」
「でも見つかんなーい!」
アーリャ達のパーティーが下級の中でも一番上の下級1だと聞いているカナカが尋ねれば、少しばかり暗い表情でヴァルが頷く。
そうしてヴァルの肯定にアーリャが不満そうに叫んだ。
「ソノラちゃん。『魔』の昇格期間って?」
よくわからなかった事を声を潜めたフワワがソノラに尋ねると、ソノラがそっとフワワに顔を近づけて同じように声を潜めた。
「『魔』にも上級、中級、下級のランクが付けられているでしょう?」
ソノラの言葉にフワワはこくりと頷いた。
大体ギルド所属のチェッカーが『魔』を見つけた際にその強さに応じたランクを設定している事はフワワも知っている。
あとは『魔』と遭遇したエレメンターが倒せなかった場合、そのパーティーが下級2ならば中級と判定され、下級3だった場合は下級1以上対応と設定される。
そのためギルドの依頼でも、『ギルドのチェッカー判定書』というものが付いている依頼の方が正確な強さの判定をしている場合が多く、安全を考慮するならこの判定書がある依頼のみを受けるパーティーもある。
「『魔』を倒せずに放置している期間が長いとその『魔』の強さが下級から中級の強さになってしまうんです。正確な期限は把握した時点の強さによって変わるんですけど、最低が十二日ほどだったはずなので、見つかってからそれなりに時間が経っていると思います」
「そうなんスよっ」
ヴァルの言った「四日以内」からそうと判断したソノラが言えば、ファジが拳を握って肯定する。
声を潜めたもののやはり聞こえていたという事にソノラは苦笑を零した。
「封印対応した討伐依頼の連絡が来て四日後に着いた時にはもう『魔』が逃げてて、そっからずーっと山の中みんなで探し回ってるのに捕まんねーんスよ!」
「ほんとよ。もう、毎日足がくたびれてるわー」
「メイはいつも飛んでるだろ……」
「気持ちの問題なの」
ファジに続いたメイに呆れた表情でムルムが言えば、しれっとした表情でメイが返す。
ムルムはそっと息を吐いて、ソノラというよりもフワワを見る。
「まぁ、そういう事もあって俺達としてはあと四日以内に見つけたいんだ。正確には二日余裕を持ってるから六日ではあるんだけど」
「すでに封印対応する前からは強くなってる事を考えると、四日でも余裕がないところなんだよな」
「稀にいる昇格期間が短い個体なのかもなぁ……面倒だ」
ヴァルが補足した内容に頭が痛そうに額を押さえたティールがそう唸るような声で零した。
そういや、と言って顔を上げたアーリャがヴァルを見る。
「一応、中級パーティー呼んだの?」
「シャリアさんに聞いとけよな……。要請は出してるけど大体みんな『えっ、あの山の中?』ってなって尻込みされてるってさ。一回通ったら大体わかるけどしんどいよな。ここの山」
「さすが難所ですね……」
最短経路ではあるものの同時に山越えの難所といわれる山の、その中での討伐戦闘は確かに不慣れであればお断りしたいだろう。




