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戦国日本を世界一豊かな国へ!  作者: わびさびわさび


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第96話 安芸

1548年(豊新2年)6月上旬 安芸国 吉田郡山城




「おぉぉ!妙玖みょうきゅう)、もう起き上がって良いのか?」


「あら、どうしたのですかあなた。まるで、狐に化かされたかの様な御顔をされて。」


そう言って、コロコロと上品に笑う愛妻の妙玖、その表情には長年の闘病の為か、弱冠の疲れの色こそ見えるものの、その血色は良く、最早体調に問題は無さそうに見える。


とても、数か月前には領内の名医と呼ばれる医者達から


『最早、手遅れかと。』


と見捨てられ、死相を纏っていた妻と同一人物とは思えない。


「母上~~!ふ、再びお会いでき、、感……無量~~!!」


「母上!!よくぞ、よくぞ、御無事で!!うぅぅ~おぉぉ!」


「うぅぅぅぅ。母上~~!良がっだ~~!」


うむ。息子達も、妻の回復に嬉し涙と鼻水を流し感動している。


もう長くはないと思って居った生涯の伴侶が、こうして回復してくれたのじゃ。


儂も、息子達と同じ想いよ……


医者にも見捨てられた妙玖が、こうして回復できたのは……


「元就君、隆元君、元春君、隆景君、煩いわ。此処は病室、五月蠅くするなら出て行って。」


【医聖】とも【神医】とも呼ばれ、現在日の本一の名医と名高い長尾家・医学局局長・吉田舞殿の最新医術と献身的な治療のお陰である。


どうして、長尾家が誇る名医が、妻の治療に当たってくれたのか?


春先に、いよいよ病状が悪化して床に伏した妻の回復を願って、儂は西国中の名医を、金に糸目を付けず呼び寄せて診療させたのだが、妻の病状は良く成るどころか悪化の一途を辿るばかりであった。


そんな最中、日の本一の名医と称えられる舞殿の噂を聞き付け、藁にも縋る想いで長尾家を通じて舞殿の診察を願った。


正直、毛利家と縁の薄い大国の長尾家が、大国である大内と尼子の狭間で蝙蝠の様に生きるしかない、安芸の弱小国人領主に過ぎない儂の要請に応えてくれるとは思っては無かったが


儂に残された妻を救う手立ては、それしか残されていなかったのだ。


長尾家の様な大国が、毛利の様な小領主を助ける義理も利も有るまいと、半ば以上は諦めておったが、長尾家に書状を出してからその返書が届くより先に、なんと舞殿自らが、この郡山城に訪れて下さった。


舞殿が、想像以上に若く美しき女性だった事には驚いたが。


それ以上に舞殿の、その儂が見た事も無い様な医術、その医術知見には驚愕させられた。

舞殿の治療の結果、妻は日に日に回復して、今ではこうして笑顔で会話出来る程に迄回復致したのだ。


「うむ。お主等、此処は病室で有るぞ。舞殿の言う通り、静かに致せ!」


「父上……父上も、随分と騒がれておられたでは有りませぬか……」


「そうじゃ!自分の事を、棚に上げて何を言われる!」


「父上も兄上達も、静かに。また……」


「……君達、煩いわ。出てくといいわ。」




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「まったく、お主等が騒がしいせいで儂迄、追い出されたではないか。」


「はははは。流石の父上も、舞様には頭が上がらぬ様ですな。」


「ふん。父上や兄者が喧しいのがいかんのじゃ!」


「いや。元春兄ぃが、一番喧しかったじゃろ……」


「なんじゃ隆景、なんか言うたか?」


息子達が何かと騒がしいが、少し前までの沈んだ様子よりは余程マシじゃ。


改めて、騒がしい息子達を見る。


優柔不断で素直過ぎて乱世には向かない性格で有るが、政務に秀で誠実で実直な性格は、家臣や領民からの評判は高い嫡男の隆元。


安芸国の名門・吉川氏に養子として送り込んでおる次男の元春。少々短気で頑固では有るが、その武の才は後に天下に知れ渡る事になるじゃろう。


竹原小早川家に養子と出した三男の隆景、儂の才能を一番受け継いでおるのは、こ奴かもしれん。未だ15歳の若さに関わらず、小早川家を完全に掌握しておる。


政の隆元、武の元春、智の隆景この3人が揃ったならば毛利家の将来は明るいと、儂が考える自慢の息子達じゃ。



そんな息子達に、言っておかねばならぬ事が有る。



「お主等、間もなくこの西国で大乱が起る事、判っておろうな?」


「長尾家による、大内征伐で御座いますな…」


「ふん。そんな事、当然判っておるわ!」


「……それで父上は、どちら側で参戦なさる御心算で?」


「帝を奉り、北陸、関東、東海、奥州を征し、今や海の向こうにまでも勢力を誇る長尾家に対して、如何に西国6カ国の太守たる大内と云えど勝てる道理は有るまい。その上、大内は現状、武断派と文治派で争い一枚岩ですら無い。」


「そうでしょうな…大内が苦戦は必至かと。」


「ふん。あの公家かぶれの大内如きが、長尾家に勝てる訳あるまい。」


「それでは、やはり父上は……」


「うむ。大内とは手切れじゃ。大内には多少の恩は有れど、それ以上に手伝い戦で毛利を随分と扱き使ってくれた恨みが勝るわ。」


「……月山富田城の戦では、酷い目に合いましたな。」


隆元が遠い眼をして話す。大内側で参戦した尼子家との月山富田城の負け戦では大内家当主・義隆に儂と隆元は敗戦の殿を命じられて、決死の退却戦を余儀なくされた。

その結果、なんとか命からがら安芸に逃れる事は出来たが、多くの有能な家臣を失った。


何故、大内義隆の敗戦の責を、我等毛利が被らねばならんのだ。


と、当時は義隆に恨みを募らせたものだが、安芸の国人領主に過ぎぬ毛利には大国である大内に物申す力など無かったが……


此度は、大内義隆めに積年の恨みを晴らす絶好が機会、そして何よりも……


「我等毛利家は、大内を離れ長尾家にお味方致す!大内は我等に試練と忍耐を与えてくれたが、長尾家は我妻の命を救って貰った大恩有る家じゃ。お主達、此れよりは長尾家に尽くす事が毛利の道と、しかと心に刻み付けるが良い!」


「肝に銘じまする!」


「ふん。当然の事じゃな!」


「長尾家に尽くすは、毛利、いや天下の為とも為りましょう。」


「よう言うた!隆元、お主は大内での人質時代の伝手を使い、大内側の分断を計り、此方側に取り込め!今の状況ならば、何人かは此方に靡いて来よう。」


「畏まりました!」


「元春、お主は吉川家の掌握を急げ。大内攻めの先陣はお主の吉川勢よ。この戦で、その武名を天下に轟かすが良いぞ!」


「おうよ!任せとけ!」


「隆景、お前は小早川水軍を使い大内領と畿内を結ぶ通商を叩け。どうせ、大内の水軍は、長尾家の水軍の相手で手一杯で有ろう。派手にやるが良いぞ!」


「父上、来島(くるしま)の来島水軍、能島(のしま)の村上水軍を此方に引き込みましょう。両水軍とも大内との関係は良好では有りませぬ。条件次第で、此方側に靡く事でしょう。」


「良いじゃろう。隆景、お主の好きにやってみろ。」


「はっ!必ずや、父上の御期待に応えてみせまする!」


フフフフ。頼もしき息子達よ。


さて、儂は安芸国内の親大内派の国衆の切り崩しと、安芸の国衆の取り纏めよな。


大内側の劣勢は明白なれど、未だ大内に靡く時勢の読めぬ者達も多い。


面倒じゃが、これも長尾家と舞殿への恩を返す為ならば致し方あるまい。


そして、長尾家に尽くすは、やがては毛利家の為にも為ろう。


フフフフ。暫くは、忙しくなりそうじゃな。


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