84.ようやっと出発の気配。
久し振りの人が来たよ。
あとひとり、かあ。龍の人は無理だしなあ。
あと、流石に現状この面子では顔面が華々しすぎて、どう頑張っても、目立つよなあ。ああでもそういえば交通手段なんだろう、まさか徒歩か?
なんて、カルセスト君の体調の回復具合の確認を待ちつつ色々考えてたんですが。
魂の謎の繋がりのせいか、鳥少年と一緒だと、身体能力が鱗があった時と遜色ないところまで回復するらしいので、そっちの調整で難儀している。
何せ、純粋に二人の距離そのもので、加減が変わるらしいのよ。
幸い、一番調子が落ちてる状態でも、ふらついたりはしなくなったし、鍛錬も再開できたようなので、あとは移動しながら調整でも大丈夫なようだ。
「難しいねえ」
「めんどくせえなあ」
今日も庭先で二人で鍛錬ののち、顔を見合わせてそんなことを言い出している。
こんなことになったってのに、仲いいなこいつら!
「ああやっていると、私とより、余程兄弟のように見えるな」
イードさんまでそんなことを言い出すレベルだ。
まあでも、今の鳥少年がカルセスト君の事を、本当に、心の底から気に入って、友達だと信じてるのは、あたしのスキルで駄々洩れなので、怒りを持続しづらいのも現状ではあるのよね……
「でかいガキンチョもちっちゃいガキンチョも、おやつよー」
めんどくさいから名前なんて呼ばないで、雑にガキンチョ呼ばわりしておく。
取り合えず鍛錬が終わったようだからお茶とおやつだ。
おやつと言っても、甘いものだけじゃなく、魚の干物と干し肉ならぬジャーキーもお皿に配置済み。
鳥は鶴だけあって、魚が好きなんだってさ。
「なんか茶より酒が欲しくなるラインナップだなあこれ」
でかいガキンチョ呼ばわりは気にもしないで、迷わずジャーキーに手を伸ばすのはカルセスト君。
「俺も貰っちゃっていいのこれ」
と言いながらも素早く干し魚を二本ほど摘み取ってぽりぽり齧る鳥小僧。
こちらはまあどこから見てもガキンチョなので、本人もまあそうだよねって顔してる。
「流石に鳥の日干しを作るつもりはないわよ。あとお酒は昼間は禁止」
焙じ茶を淹れてやりながら雑に返事をする。
聖獣とて食わねば飢えるのだ、この世界は。
「つるー!」
麒麟の子がご機嫌顔でてちてち走ってきて、きゅっと鳥小僧に張り付く。
「おう、今日も元気そうだな坊ちゃん」
こともなげに受け止めて、白い頭を撫でている鳥小僧。
流石にちびっぽくても聖獣の化身だからか、体幹しっかりしてんなあ。
「お芋あるわよー、食べる?」
取り合えず食べ物で釣るか、と声を掛ける。
「わーい!おいも!」
ててて、と寄ってきて、あたしからふかし芋を受け取ると、またててて、鳥小僧の所に戻る。
なお本日は甘藷です。
異世界人が必死の訴えで創世神様に創らせた伝説の植物、だそうだ。
普通に世界の温暖地域全域で作付けされてるけどね、この伝説の植物。
鳥小僧にもお芋を半分分けてあげている麒麟の子が大変かわいい。
分けられた鳥の方も、お礼を言ってもぐもぐしだした、割と味は気に入った様子?
あたしもふかし芋を半分に割って、ぱくり。うん、甘い。
イードさんは皿の上を見て一瞬首を傾げてから、芋に手がいった。
今日はほうじ茶の気分だったから、おやつもそれに合わせたのよね。
「皆さま、お客様ですよー、フレオネールさんがいらしてます。お通ししてよろしいですか?」
お茶の支度を手伝ってくれたジェニアさんがそう声を掛けてくれたので、イードさんが了承する。
「どうもイード様、カーラさん、お久しぶりです……ってあら?」
庭のほうに回り込んできたフレオネールさんが、随分と人の姿が多いことに気付いてか、首を傾げる。
ああ、そうじゃないな、そういえばカルセスト君、髪が長いままだから、違和感あるわよね。
違和感といえばフレオネールさんもだけど。
前に二度ほど会った時は、男性用の農民が良く着てる作業服だったけど、今日は軽いマントを羽織った他所行き、所謂旅装だ。
分類上男装なのは変わらないんだけど。
「あ、レオーネ久し振り。珍しい恰好だけど、どこか出かけるのか?」
カルセスト君が早速そこに目を付けてる。
麒麟の子は見知った顔なのであまり気にしていないし、鳥小僧も似たような感じ。
まあこいつはカル君が知ってることはだいたい把握してるからな。
「……カルセスト様、隠し子いたんですか?」
いつも通り名前の話で反発してくるのかと思ったら、そっちにいったか。
だけど言うに事欠いて隠し子って、お芋吹きそうになったんですが!
あ、でも人族的には彼の年齢的には子供がいてもおかしくはないのよね……見た目によく騙されそうになるけど、そういやイードさんの十二くらい上だから、えっあれっ三十代かこいつ!
「いねえよ!顔似てるかもしれないけど、そういうんじゃなくてだな」
思った以上に嫌そうな顔で答えるカルセスト君。
「あー、俺、人族じゃないんで……化身なんで……」
鳥のほうは馬鹿正直に自己申告している。
別にわざわざ言わなくてもいいわよそれ?
なんか化身に変じてから、というか本体でボロ泣きして以降、気持ち悪いくらい正直になっちゃってて、真面目に違和感しかないのよねえ、あたしとしては。
「化身?あら、聖獣様でしたか。失礼しました。
私は近くの村の者で、フレオネールと申します」
フレオネールさんが律儀に挨拶をしている。
まあ挨拶してる相手が自分を知ってるとは思わんからね、普通の行動だ。
それにしても、普段は男性的な口調なのに、今日はそうじゃないな。
「よろしくね。旅装ってことは、一緒に来てくれるのかな?」
鳥小僧の発言に、カル君とあたしが同時に挨拶する二人の顔を見比べる。
聞いてないデース。
「え?レオーネが来るの?」
「フレオネールさんがですか?」
同時に質問の声がかぶってしまう。うぬう。
「そうですよ、ランディ様からお話は伺っておりますけど、旅慣れはしていますし、最低限の護身も取得しておりますし、小さい子の世話もできますからね、私。
それに大小あるとはいえ、四人男性で、女性がカーラさんひとりって、バランスが悪いでしょう?まあ私も見た目がこれではありますけど」
カルセスト君の呼び方に反応しないのは、どうやらそれも理由らしい。
だけどアスガイアに獣人が行って大丈夫なのかな?
いや、麒麟の子担当だから、国境待機?
じゃないな、カル君の事考えると待機はフラマリア側か、サンファンに近いマッサイトになるな?
「おう、もう来ていたか、済まんがよろしく頼むよ、まずは取り合えず茶でも」
そこに椅子を二脚持ったランディ様もやってきた。
その後ろから、追加の茶器を持ったジェニアさん。
ジェニアさん、ランディ様にも容赦なく細かい仕事振るんだよねえ。
ランディ様もそういう頼まれごとはあまりされない、といって喜んでやってるし。
「わざわざ椅子まで、有難うございます」
椅子を受け取って適当に配置して座るフレオネールさん。
やっぱり男性的な挙動と女性的なところが絶妙にミックスされた感じ。かっこいいわねえ。
「そんな訳で庭師連中に相談したら、彼女が適任だろうというのでね、許可は取ったから何時でも出られるぞ。
ルートとしては、今回は一旦船でマッサイトに向かって、そこから陸路になる。
レメレまでは乗合馬車になるから、最寄りの馬車駅のあるベネレイト村まで歩きだね」
何時の間にやらルート検討まで済ませていたランディ様がすらすらと説明する。
割と荒事も予定してるんですが、大丈夫なんですかね?
「ああ、それならうちの村発のものより、ドネッセンから出るほうに乗ったほうが、乗り継ぎが減りますよ」
流石地元民、乗合馬車の路線にも詳しいわね。
この世界の長距離移動は基本召喚獣への騎乗か、馬車の類だ。
まあ馬車は伝えたのが異世界人なのでか、翻訳の都合でかそういう名称だけど、引っ張ってるのは各種召喚獣ね。
速度もまあまあ出るし、この国の乗合馬車の路線はとても充実しているそう。
「ほう、少し歩く距離が伸びるが、それは問題ないかね?」
ランディ様は麒麟の子の体力を心配している様子。
まあその次に体力ないの、多分あたしだけど。
「カーラさんは多分大丈夫でしょう。おちびさんは最悪私が抱っこしますよ」
さらっと強いことを言うフレオネールさんが、眩しいぜ。
ともかく一応面子は揃ったし、地味に準備してた旅支度もだいたい合格点貰ったから、いよいよね……!
カーラさん、鶴は雑食よ!魚食うのは鷺よ!
なおフレオネールさん、というかベネレイト村の住民、入植者だからか地味に強いっぽい。




