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85.団体旅行、スタート?

お約束のどつかれシーンとかあります。タイトルは軽いけど。

 季節は春真っただ中だ。

 旅行にはいいシーズンだとかで、乗合馬車は結構な混みあい加減だった。


 物見遊山の人も多いそうで、この国って、本当に国民全体に余裕があるんだなーって感じ。


 そんな旅行勢に扮したあたしたち。

 普段の化身よりちょっと年上に偽装したランディさん、セミロングになった髪に伊達メガネのカル君、髪を、二つ分け三つ編みおさげにしたうえで、グレーっぽく見えるように髪粉を振ったあたし、普段の男装にフード付きマントのレオーネさん、女の子の服を着せられた麒麟の子、仮称リンちゃん、ここ数日の少年姿の鳥小僧、仮称レンくん。


 旅の間だけそういう名前で呼び合うことになっている。

 なお何故かあたしがねーちゃんで、カル君が弟、あたしの姉役のレオーネさんがちび二人のおかーさん役だ。

 まだ子供のいる歳でもないんですがねえ、と苦笑していたけど、シンプルに、今の見た目的にあたしがおかーさんは流石に無理があるんで……流石に見た目十七歳にこの大きさの子は無理なんで……


 いやまあレオーネさんもイードさんとふたつくらいしか違わないそうなんですけどもね。

 この国だと獣人と人族の混ざり合った家族自体は、ごく普通なので、そこは全然目立たない。


 実は一番ヤバいのがあたしの黒髪だったという罠がですね!

 いやあ、髪粉が乗せられてよかったわ。


 っつーか、普通に全員兄弟がおとーさんに引率されてる、でよかったんじゃないのか?とは思わないでもないんだけど、なんかランディさんが拘りましてねえ。


「「ねえこの人完全に普通の物見遊山のつもりでいない?」」

 大小同顔男子二人に異口同音に同じことを聞かれました。

 かもしれない。否定はできない。


「何を言うか、形から入るにしてもそれらしく楽しむほうがいいに決まってるだろう?

 そのほうが自然なんだし。どうせ現地に入るまではこれといったイベントなんてないだろうしなあ、この国なら」

 まあそれもそうですね、と一応全員納得した。

 なんせ南部国境方面以外はほんとに平和だからなあ、ハルマナート国って。


 カル君は乗合馬車でも基本外を眺めている。

 まあ国境を抜けたら、当分の間は戻れないのが決まっているから、しょうがないよね。

 以前のようなやたら人を茶化すところがあまりなくなって、割と静かにしていることが増えたので、なんか本当に違う人みたいだ。


 馬鹿鳥改めレンくんは、それにそっと寄り添っているか、麒麟の子改めリンちゃんと遊んでいるかの、だいたいどっちかだ。


 レオーネさんはこのルートの乗合馬車はよく利用するんだそうで、読書などしている。

 重たい革装本じゃなくて、ペーパーバックあるんですよ、この国。


 あたしはといえば、外を眺める半分、刺繍半分といった感じだ。

 刺繍といっても護符のほうだけど。

 材料は、前に渡した護符のお礼として聖女様とマリーアンジュさんに分けて頂いたので、結構余裕がある。出来上がり次第で小さい子から順に渡しているところ。


 ランディさんはというと、あたしの手元を眺めているか、乗合馬車の他の乗客を眺めているか、外の風景を見ているか。

 うん、正直家族旅行にしては会話が少ないね……でも下手な事を話してるとボロが出そうだし、結構馬車内は賑やかなので、喋ってなくてもあんま目立たないというか。


 始発便から乗り継ぎ二回で、翌日の日暮れギリギリに辿り着いたのは港町、例のレメレだ。

 前日は一回目の乗り継ぎで夜行便に乗って車内仮眠の強行軍だったけど、今日はフェアネスシュリーク様の所にお泊りだそうですよ。泊まれるんだ……?


 執政官(この国は領主じゃなくて役人が地方の管理をしている)のお屋敷の、ほど近くにフェアネスシュリーク様のお屋敷があった。

 思ってたより、大きい。


 召喚師の多いこの国ではあるけど、やはり超級は基本的に別格であるらしく、仕事の依頼料と講演や教授の依頼などで、結構な財産を築いているのだそうだ。

 そういやハイエルフで、活動年数も多い人でしたね……。


 ぶっちゃけ超級って、イードさんが防衛上の理由もあるとはいえ、辺境に引き籠って学院の俸給だけで細々やってるほうが例外なんだって。

 ええ、今回の旅費、全部ランディさん持ちです。

 真龍族自体、割と金持ちというか宝飾品好きが多くて、職業とか無関係に、金銭的な苦労はあんま知らないそうだけど。



「あっカル君キター!なんか変なのくっついてるけど!?」

 ええ、フェアネスシュリーク様の御屋敷に案内されて、応接室らしき場所に連れていかれましたら、サクシュカさんが待ち構えていましたよ。


 変なのってレンくんか?別に物理的にくっついてはいないけど。

 ってサクシュカさんなら多少はこの変な繋がりも見えてる可能性が微レ存?


 あと、その後ろで表情が固まってる、銀髪に僅かに襟足に青いメッシュの入ったやや短髪の男性は確かクラレンスさんだったかな。

 隣にもう一人、金髪の、カル君にちょっと似た、でもゆるっとしたウェーブヘア短髪めの男性、多分メンバー的にカル君の同腹兄弟だろうから、ラングレイさんだろうか。

 どちらも何となく程度に、カル君に顔立ちが似ているから、恐らく間違っていないはず。


「カルセスト、お前……本当に、ほんとうに、ひと、に」

 サクシュカさんの声の後、ようやっとカル君に歩み寄ったクラレンスさんが、絞り出すような声で、そんな風に、言葉を無理やり発している。


 鱗を失ったせいで、カル君は遠話も使えなくなったって言ってたから、多分そのせいなんだろう。

 クラレンスさんのほうは、相当ショックだったみたいで、ちょっと落ち着きがない様子だし、感情を持て余して、無理やり抑えてる感じが表情からもうかがえる。


「……クラレンス、ごめん」

 カル君を抱きしめたところで感情が決壊して、わあわあと泣き出したクラレンスさんに、カル君はそれだけしか、言わなかった。

 表情は、後ろにいるあたしたちからは、見えない。


 一方の推定ラングレイさんのほうは、そんな兄弟たちを、無言で、無表情で、じっと見ている。

 兄弟同士でも、見た目は勿論、性格も結構違うのねえ。


 と思っていたら、ラングレイさん、少し泣き声が落ち着いてきたところで、クラレンスさんを後ろから引きはがした、と思う間もなく、カル君を殴った。

 うわ、グーで顔いくかあんた?!


「うわあ野蛮」

 吹っ飛んだカル君を余裕しゃくしゃくで受け止めたランディさんがドン引きのポーズ。


「ちょっとラン君!流石に全力グーはないわ!前と違って普通の人に近いのよ!?」

 サクシュカさんの叱責に、はっとした顔になるラングレイさん。

 うっかりが過ぎるぞ、NOUKINかこの人も!


「はいはい〈治癒〉」

 吹っ飛ばされてランディさんに抱えられた状態のままのカル君に治癒をかける。

 結構ダメージ入ったっぽいけど、まあこれなら上位魔法陣でなくてもいいかな、整復が必要な気がするからちょっと魔力は強めで。


「治癒あんがと。しかしできたら顔はやめといてほしかったなあ」

 歯が飛んだかと思った、とカル君がぼやいてるけど、飛んだかと思った、じゃなくて多分ばっちり飛んで、というか折れてたわよ、治したけど。


「むしろ今の膂力差だと、胴のほうがまずくないかい?

 まあカーラ君が治せるから即死以外はどうにかなるだろうけど」

 ランディさんの嫌な解説。いやまあ確かに治すけどさあ!


「流石にそこまでヘタっちゃいない、と思うけど……うーん、受けきれる自信はないな」

 そうねえ、現状すぐ近くにレン君がいるから、そこまで物凄い差ではないはず。

 まあその情報は兄弟たちに通告する必要はないので、言わないけど。


 正直、バラしたらレン君に余計なヘイトが向きそうだし。今はその段階じゃないです。

 にしても、カル君随分素直に自分の不足を口にするようになったなあ。

 前ならこんな時の話題で自信がないなんて、絶対言わなかったろうに。


 付き合いの然程深くないあたしでもそう思うくらいだから、兄弟二人の表情の変化はそりゃあ劇的だった。

 もう、以前とは違うのだ、と、本人の言葉によって突き付けられた現実。

 更に傷付いた、って顔のクラレンスさん、愕然としたラングレイさん。


 結局そのあとも、最後までラングレイさんは一言も発しないままだった。

 後で聞いたら、あいつめっちゃ口下手で無口なんだよ、俺の兄弟と思えないくらい、ってカル君がちょっとだけ笑って答えてくれたけど。


 大丈夫かな、この人。

 そういう心のうちは、相変わらずあんまり明かしてくれないよね。


 まああたしとは元々仲良くなんてなかったから、そんなものなのかもしれないけどね。

こういう時にグーで行くのはお約束だと思う。ダンスィだし……

あと乗合馬車の旅路中はほんとになんにもなかったので……

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