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82.目覚めと招いてない訪問者。

本体が来たけど、なんか様子がおかしい。

「……なんで髪が伸びてんだこれ?」

 ほぼまるっとこの世界の一週間が経過し、九日目にようやっと目を覚ましたカルセスト君のおめざ最初の台詞が、これだ。


 ぶっちゃけ全力の生命賦活のせいですね。

 サクシュカさんやマグナスレイン様は元々長髪だったからあんま目立たなかったけど、彼は元々ショートヘアだったから大変判りやすく、伸びている。


 まあそれに関しては、敢えて教えない。そのうち気が付くかもだけど。

 ちなみに全力じゃない場合、流石に髪が伸びたり若返ったりはしないし、聖女様にも使ったのがバレない、というのが最近の、というか今回カルセスト君にあれこれ試した結果の発見ですハイ。


「一週間ぶりの台詞がそれかあ、案外呑気で元気ね?おはよう」

 丁度、そろそろ治癒かけるかー、と部屋に入ったところだったんで、さらっと挨拶をしておく。


「……あー、嬢ちゃんの、アレか。マグナス伯父上にかけてた……いや、もうそういう呼び方はしちゃだめか」

 気にしてるのはマグナスレイン様の呼び方の方なのが、わざわざ尋ねなくても判る。

 まあそれほど深刻そうな表情はしていないし、そこらへんは大丈夫だろう。


「賦活は鱗を割った時だけね。じゃないと間に合わない損傷だったわ。

 人の身であんなでかいものに化身するだけあって、鱗周りは案外と繊細なのねえ」

 ただまあ、マグナスレイン様に聞いた話だと、自分で、もしくは処分を受け入れる同意があって、じゃないと早々割れるような物質でもないんだそうだ。

 まあそうよね、目に見える弱点、なんてそうそうないわよね。


「繊細っつか生命線だからな。それにしても、なんか属性だけが狂ってた時より気分、いや体調がマシっぽいけど、嬢ちゃんなんかした?」

 その生命線を自分でカチ割った男が、不思議そうな顔でこちらを見ている。


「中位の〈回復〉を覚えたから、治療の効率自体が良くなったのはあるけど、多分、身体が普通の人間に近づいてるせいじゃないかしらね。

 通常の人族だと、属性減少は数日寝込む程度で身体的には完全に回復できるって話だったし」

 実は、彼の鱗、今朝がた剥がれてしまったのよね。

 まさか、そんなに早く落ちるとは思ってなかったから、ちょっとびっくりした。


 なお落ちた鱗はそのまま粉々になって消えてしまった。物質として、残りもしないのね。


 あたしの言葉に、自分の肩先に触れるカルセスト君。


「……落ちるとは聞いた事あったけど、こんなに早いんだ」

 少し驚いたような顔で、しきりと腕の、鱗のあったあたりを撫でている。

 鱗が落ちた跡は、僅かに鱗型の薄い痣が残っているだけだから、触れたくらいでは、何かあるようには感じないだろう。


 その痣が完全に消えたら、彼の身体能力自体が、普通の人族並みに落ちることになる。

 ただそれは、任意である程度維持できるらしいという話も聞いた。まあ具体的には鍛錬しなさいって話なんだけど。

 今の時点で薄いのは、寝込んでいて鍛錬どころじゃなかったせいね。


 最初の食事は、イードさんとも相談して、ゆるめの麦粥。

 ずっと寝ていたし、そもそも普通の人並みの食事量を覚えて貰わないと、食べ過ぎで大変なことになりかねないよねって。


「……出された時にはめっちゃ少ねえって思ったのに、いざ食べだすと案外腹に溜まるんだな、これ……」

 結局、半分ちょっと食べてギブアップ。粥で正解ではあったわね、正直重湯でよかったかも疑惑だけど。


「まる一週間絶食状態で寝ていたんだから、それもあるでしょうよ」

 別におかしなことではない。

 前の人生半分以上病院暮らしで、病院食を食べるほうのプロといっても過言ではないあたしの見解だから、そんなに間違ってもいないだろう。


「一週間?そんなに寝てたの俺」

 あ、そういえばどのくらい経ってるか教えてなかったっけ?いや一回言った。聞いてなかったのか!


「そうよー、今日が丁度九日目。あ、処払いは体調が回復するまで保留って伝言」

 そう答えたら、またなんともいえない顔になった。

 そんな情けない顔もするのね、カル君。


 なお伸びた髪は一応梳かして、後ろでひとまとめにしてある。前髪がちょっと邪魔くさそうだけど、これはこれで似合ってるな。


 後片付けが終わったあたりで、表が騒がしくなった。

 見れば、やたらでかい、灰色の身体と、長い嘴と首と脚を持つ、鳥。


 っておいこら貴様どの面下げて此処に来たんだこの馬鹿鳥?!

 いや、呼び出せるもんなら呼び出して説教と折檻ぶちかますつもり満々ではあったけどさ?!


【ああ!カル坊、済まない、ごめんよ!そんなことになるなんて!!】

 えらく必死な声が飛んで来るけど、どうにもこうにも、こいつは許す気にはなれない。

 結局のところ、こいつはカルセスト君を利用するだけ利用した格好でしかないからね。


「うっさいわよ馬鹿鳥、今頃なんでわざわざ本体ですっ飛んで来たのか知らないけど!」

 こちらから出て行って、ここ数日、断続的に張っていたあたしの防護結界に阻まれて翼をばたばたさせている鳥を殴り飛ばす。

 胴に届かなくて殴るのが脚になったんで、ちょっと手が痛い。


 結構な密度の光魔力を込めてどついたこともあって、あたしの力でも軽くよろけてたたらを踏むでかい鳥。


【のあっ?!どういう魔力の使い方してんだお前?!そもそも聖獣を人間が素手のグーで殴るか普通?!】

 馬鹿鳥が煩い。


 本気で黙らせてやろっか?ライトレーザー、色んな意味で守護が外れてる今のあんたになら充分効くでしょうし、そもそも、今のあんたはこの国ではマグナスレイン様お墨付きの討滅対象よ?


「何度でも言うけど、うっさいわよ自称聖獣!

 これだけ人間や幻獣に災厄ばら撒いといて寝言も甚だしいわ」

 それにしても、こいつの口調、おちゃらけてる時の以前のカルセスト君と同じで、なんか妙に腹が立つわね。

 そんなに前から、何かが混ざっていたというのかしら。


 あたしの台詞に、ぐっ、と詰まる馬鹿鳥。

 少なくとも、城塞とアンキセス村の被害状況はカルセスト君を通して見てたはずよねあんた。


 威圧するように、ライトレーザーの魔法陣を無言で描く。

 ええ、ひょっとして、と思ったら無詠唱できるようになってたわ。海の時、結構数ぶち抜いてたからなあ。


《多分ですが、[シューティングマスター]の称号効果もありますね》

 あー、世間ではフレーバーなあれね!成程!


「わわ、嬢ちゃん、待った、ちょっと待った、今すぐはだめだ!」

 後ろからカルセスト君がよろよろしながら、それでも最大限の速度ですっとんできた。

 あたしの所についたところでよろけたから、できる範囲で支える。


 魔法陣は一旦消した。暴発すると洒落にならない。

 無言のままの馬鹿鳥を見たら、なんか翼をだらりと下げて、赤い目からボロボロ涙零してるんですけど、なんだこれ怪奇現象か?

 うわ、涙で水たまりできてる。


【ごめんよう、ごめんよう……そこまで大変なことになるなんて、思ってなかったんだよう……あんたから、空を奪うつもりなんて、なかったんだ……】

 唐突に、腑に落ちた。

 こいつらの共通点って、風属性だけじゃなく。


 空を、青空を自在に飛ぶことを、本当に心の底から好きで、多分それで意気投合してしまった、その末が、この結果なのだ、って。


 で、この馬鹿鳥は相変わらず、人間を、人の作った国を守護してきた存在のくせに、人間の事なんてちっとも判っちゃいないから、『友達の』空を奪った、そこだけを純粋に後悔している。


 ほんと馬鹿としか言いようがない。

 馬鹿《ウマシカ》にでも改名すればいいのよこのアホ鳥。

 いや実行したら鳥じゃなくなりそうだけど。


 で、一人と一羽が揃ってる状態だと、はっきり判る。

 確かにこれ、このまま討滅しちゃだめだ。


 魂になんか変な繋がりができちゃってる。混ざった残滓、ともちょっと違うのが厄介だ。

 この状態で馬鹿鳥を吹き飛ばすと、多分カルセスト君のほうも、同レベルのダメージを受けてしまう。


 まあカルセスト君の方はそれに気付いてあたしを止めたわけでもなさげなんだけど。

 なお、カルセスト君に生えた闇属性も、それが原因。

 馬鹿鳥側にも今、極小の光が生えてるもの。


 さて、どうするか。責任は取らせたいが、即討滅はもはや選択不可能だ。

 ランディ様が庭の片隅からこちらを見ているけど、手出しをしてくる気配はないし。


 いやあれ、召喚対象になるかどうか検討してる目つきだな?

 流石趣味で超級やってるだけあって、着眼点がぶれないなあ!

なんだろうこのダメな異形。

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