81.眠る人と魔法の改良。
聖女様から連絡鳥を飛ばすことはできるけど、主人公からは飛ばせないのが目下の問題なわけです<連絡
それからカルセスト元王子は、まる一週間ほど目を覚まさなかった。
もちろんあたしが毎日上位治癒ぶつけてて、それだ。
流石に賦活まで必要なのは、あの時一回こっきりではあったんだけど。
なお全力の賦活を久々に使ったので、翌日の朝イチに聖女様から、連絡鳥が飛んできてた。
鳥があたし相手だとビビっちゃうので、受信返信はイードさんにお願いして飛ばしてもらった。
内容は流石にぼかしたけど、死にかけた人がいたので、はちゃんと書いておいてもらった。
マグナスレイン様は翌日まで様子を見守ってから、特にそれ以上の変化がないので、戻っていった。
これも何か変事があったら、イードさんが連絡をしてくれることになっている。
うん、連絡周り、あたしほんとに役に立たないな!
ランディ様のほうは、興味津々の様子でカルセスト元王子の様子を一日一回ずつ、確認している。
元々真龍族は好奇心が旺盛な種族だそうなので、龍の王族が一の鱗を失うなんて大事、絶対に気になるわよね。
何せ、一の鱗の欠損って、事故で発生したのが二百数十年前、刑罰で行われたのなんて、五百年以上前だって言うんだから。
肩に残った鱗は、一の鱗も含めて、いずれ脱落するのだという。
ちなみに割ったのが他の鱗の場合は、生え変わりの時期まで限定で、化身ができなくなるだけなのだそうだ。
理屈は判らないけど、多分この一の鱗が、龍の血を人の身に留める為に、必要な要素なんだろうなって。
割れた鱗一枚、あたしの親指よりちょっと大きいくらいなのに、酷い出血量だったしなあ。
三日目くらいに、聖女様から連絡鳥が来て、治癒の中位魔法、〈回復〉の魔法陣図が送られてきた。
成程、付属の文を確認すると、意識がないままの人には、こういう継続回復系の魔法のほうがいいらしい。早速読み取って、使ってみる。
「――〈回復〉」
む、この魔法、意外とクセがあるな?魔法陣の構成と展開は簡単なんだけど、消費魔力が中位とは思えないほど多い。
ああ、なるほど、最初の展開で継続時間分の魔力も込めるから消費がでかいのか。
魔法陣を改めて読み直す。
結構無駄が多いから、もうちょっと綺麗にまとめ直して、サクシュカさん辺りと試してから聖女様にも送ってあげよう。
そして、成程確かにこの魔法のほうが、寝込んでいる人には、治癒より効率が良さそうに見える。
この世界、魔法の種類や数自体が多くないから、無駄魔法なんてないだろうとは思ってたんだけど、やっぱりかー、という気持ち。
ただ、初回に籠める魔力のせいで、使えるようになった程度のランクの人だと、魔力量が足りなくなりがちだから、普及してないってことでもあるらしい。要改良だわね。
消去の魔法は、ランディ様にも伝えることにした。
いや、契約をどうやって消したのか、実行当初から興味津々だったし、この方は絶対悪用しないって確信ができるからさ。
うん、よく考えたらこの魔法、どう考えても治癒系じゃないから、治癒の才がなくても使えるんじゃね?ってなりまして。
「成程、〈消去〉とは〈分解〉系列の魔法なのだね。
光に消去属性があるというのも初耳でこそないが、実用例が絶無であった故、眉唾だと思っておったよ。
いやあ、新しい知見を得るのは素晴らしい感覚だね!これだから人と接するのは止められん!」
ランディ様、にっこにこで真龍式の魔法陣構築してさっくり完成させてました。
というか真龍の魔法陣、聖獣のそれとも別物でしたわよ、びっくり。
あたしたちが使う魔法陣の文字は直線が多い目なのだけど、それとは別の、ほぼ曲線だけで構成された魔法文字で魔法陣を描いていた。これも綺麗でしたとも。
「読み取れたかね?」
いたずらっ子のような表情で、魔法を発動させずに霧散させたランディ様が問う。
「文字だということは判りますが、それ以上はさっぱり。でも綺麗ですね」
文字は翻訳サービス対象外なんですよ。
まあ、文字だと判定できるだけマシなんだろうな、答えたらランディ様が感心した顔になったもの。
「文字だと判るだけでも大したものだよ。弟子どもは文様系だと思っておるようだしな」
ちなみに、召喚魔法陣は人間式を使うそうだ。
何故かというと、真龍族は本来召喚術は必要でなく、取得するのはあくまで趣味の範囲だから、だそうだ。
趣味で超級やってるんですって、この方。
人間用の魔法陣にもそれなりに造詣のあるランディ様のお陰で、〈消去〉のブラッシュアップも結構順調に進んだ。
取り合えず聖女様なら起動可能なとこまできたよ!最後に会った時と変わってないなら、発動用の魔力が多分足りないけど!今後の研究課題ね。
ただ、ランディ様は治癒系統は使えないので、〈回復〉の魔法陣のほうは一人で弄繰り回すことになった。
まあ〈消去〉が結構いい感じに進んだから、それだけでもよしとする。
できれば、〈消去〉はサクシュカさんが使えるくらいまで落とし込みたいとこだけど、属性力の壁はギリなんとかなりそうだけど、魔力がちょっと難しいかなあ。
〈回復〉のほうは、サクシュカさんでも恐らくいけるんだけど、多分従軍治癒師で即効性のある魔法を求められがちだから、覚える気がない可能性は否定できないな……
なお、龍の王族の誰かが来るかしらと思っていたけど、誰も来なかった。
イードさんによれば、恐らく訪問自体を禁止されているのではないか、ということだった。まあそうかもね。
とか思ってたら五日目の深夜。
「ごめんなさいね、こんな時間に」
現れたのは女王陛下だ。
龍になればめっぽう強いとはいえ、国のトップが辺境に夜中にソロで飛んで来るとか貴方ねえ?
いや、そうじゃない。
今、ここに居るのは、女王陛下じゃなくて、一人の、息子を失いかけた、お母さんだ。
カルセスト元王子はまだ起きる気配すらない。ただ、静かに、眠っている。
もうちょっと苦しがったりとかするかと思ってたけど、ほんとにただ眠っているようにしか見えないのよね。
実際は上位治癒やら回復やらが必要な程度には、身体の状態そのものも良くなかったのだけど。
五日目だと〈回復〉の効果が結構目に見えて出てきていて、初日二日目くらいの、この人ほんとに生き残れるのかしら、って感じの消耗はもう見られないのは幸いだった。
「本当に、この子は、隠し事が上手くもないのに、無茶ばかりして」
眠る息子の顔を見ながら、ぽつりとそう呟く女王陛下。
一の鱗を自分で割ってしまったことで、カルセスト元王子は、この国の王族として復帰すること自体が不可能になった、らしい。
初めから鱗がないのと、後から失うのとでは、話が違うのだそうだ。
そして、それは「自らの手で割った」ことも理由であるらしい。自ら、王族であることを捨てると宣言するに等しい行為なのだという。
事故で、と聞いていた、二百何年か前のひとりが、実はそうだったのだという。その人はそのまま命を落としたのだそうだけど。
そりゃまあ、治癒系最上位、〈生命賦活〉でもなければ間に合わないダメージだものね。
そして、この魔法を使えるのは、あたしが歴史上でも四人目か、せいぜい五人目?
そううまくそんな存在が、この国にいるはずもなく。
いや、治癒の才のある人があまり出ないせいか、九割九分の人が攻撃適性持ってるせいか、龍の王族からも聖女って出てないらしくてね。
国内からは二人ほど出たとはいうけど、二人とも獣人さんだったそうな。
女王陛下は、息子の寝顔を見て、呟きのあと、ちょっとだけ頭を撫でてから、帰っていった。
朝にはいつも通り活動しなくちゃいけないそうだから、王冠を戴くってのは、楽じゃないよね。
しかし呼び方どうしようね。
と思ったけど元々あたし、直接カルセスト元王子を名前で呼んだことがない。ええ、いまだにそうなのよ。ぶっちゃけ興味がないせいではあるんだけど。
ただ脳内で考え事してるにしても、元王子、はちょっと口幅ったいとでもいうのかしら、面倒ではあるのよね。
平民になったんだし、サクシュカさんみたいに、カル君でいいか?どうせ、本来のあたしよりは年下だからね!
この世界の一週間は8日です。一か月四週、十一ヶ月と新年祝祭節が一週間で年360日。
なお刑罰の時は死なれると意味がないから治癒師集めて数で押し切ったらしいよ。




