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79.契約と背任と情報源。

彼らの契約は相互提供、つまり。

 サクシュカさんが来て、一泊して帰ったそのまた翌日、今度はマグナスレイン様がやってきた。とても、険しい顔で。


 龍の王族、割とフットワーク軽いよね、ホイホイ飛んで来る。

 ……なんて思ってる場合じゃなかった。


「カルセスト、この報告書は全て真実か?」

 前置き一切なしで、マグナスレイン様が数枚の書類を片手にカルセスト王子に詰め寄る。

 表情は、今まであたしが見たことない、厳しい顔。


 今まではちょっと厳しい発言をするときも、どこか余裕のある顔だったんだけども、それが、ない。


「だよ。俺の仕事で嘘書いたら、それこそアウトだろ?」

 その厳しい顔に怯みもせず、いつもよりだらけた様子で答えるカルセスト王子。

 多分心身的にはまだしんどいのを、無理して堪えてる感じじゃないかな、と思うのだけど、そういう雰囲気ですら、ない。

 なんだろう、逆に酷く不安になるんだけど。


「……何故、だ?」

 マグナスレイン様の言葉が、いつもよりも歯切れが悪い、気がする。

 なにかを、躊躇ってる?

 視線はずっとカルセスト王子の顔を、真っすぐ見ている。


 あたしですか?ちょうど日課の治癒をかけおわったとこで、退出するタイミングを見失っております。

 治癒を掛けても相変わらず効果は薄いけど、しないよりはマシなもんで。


 前日、夕方までサクシュカさんとああでもないこうでもないと調べたけれど、闇属性が沸いた理由はともかく、消す方法なんて、当然ながら判らなかった。

 カルセスト王子には、嬢ちゃんでも判んねーことはあるんだな、と鼻で笑われた。


 いや誰のせいよ誰の!そもそも君が無茶な契約とかしちゃうから!って言いそうになって、すんでのところで口からは出さずに収めた。

 彼は属性力とか一切自分では感じないタイプだそうで、そもそも契約自体、お互いそんな面倒な事になる想定すらしてなかったそうだから。

 そもそもこの場合注意義務は、守護聖獣であった時点で属性が見えてる可能性が高い馬鹿鳥のほうにあるはずだし。


 うん、今ちょっと現実逃避しかかってる。いや、書類の内容が見えちゃってね。


 内容は背任告発。但し書いたのは告発対象本人、ことカルセスト王子。

 以前あたしより字が汚い、とか自嘲して、イードさんにちゃんと時間をかけて書けよ、って言われてたけど、書類の文字はイードさん程ではないにせよ、あたしのこないだの議事録のそれより、ずっと整っている。


 まあここ数日は属性力不調で部屋からすら碌に出られていなくて、書類書くくらいしかすることがなかったものね、書く時間はゆっくり取れたろう。

 で、時間経過を考えると、書類は多分サクシュカさんが持って帰ったでかい封筒だったんだと思うんだけど、なんでマグナスレイン様が血相変えてすっ飛んできたかというと、要するに、あの馬鹿鳥との相互情報提供契約の、相互って部分が問題だったの。


 多分そうだろうとは思っていたけど、やっぱりカルセスト王子はスパイ、とまではいかないのだけど、国内外の情報収集が主な仕事で、最初に黒鳥と接触したのもその仕事の一環ではあったようだ。


 で、集めるほうは特に問題なかったんだけど、黒鳥に、渡してはいけない情報をいくつか渡していたというのよ。

 そのうちのひとつが、どうもあたしのことらしくて、そこはちょっと疑問なんですけども。

 あたし戸籍は作ってもらったけど外国人、じゃなかった異世界人よー?


「何故って言われても、そういう契約をしたからだとしか。

 いや、あそこまで筒抜けになるものだとは、契約するまで判ってなかったし、相互、の部分がちょっと頭から抜けてたのは確かだけど」

 開き直った様子でカルセスト王子が答えている。


「その結果が今回のサンファンの暴走だ。流石に擁護の余地がない」

 ほえ?前提はおいといて、それだと黒鳥の奴、自国の不利益に走ったってことになるわよそれ?

 首を傾げてたら、マグナスレイン様がこっちを見た。


「貴方も他人事ではないのだよ、カーラ嬢。今回の転移スタンピードで真に狙われていたのは、貴方なのだから」

 は?あたし??


「なに鳩豆顔してんの。当日も一応そういう結論にはなってたじゃん。

 まあ俺も奴がライゼルの息のかかってる連中とも接触してた、ってのはその時くらいにやっと知った事だけど」

 あ、あー!そういや、大聖女がどうとかいう寝言!あったな!忘れてたけど!


 んで何か、情報の相互提供とやらには、ラグがあるんだな?……ひょっとして、それを馬鹿鳥に利用されたのかも?


「記憶のほうは忘れるって、ガチでそうなんだな……」

 正直に、そんなことあったね、忘れてた。と言ったら、カルセスト王子の呆れた声。

 前にそういう話した時、彼もいたっけ?確かスタンピード処理の後の解散前あたりだったと思うから、いてもおかしくはないんだけど……それこそ、割とガチめに覚えてないな?


《本当に貴方、微塵もカルセスト殿下に興味がないんですね……》

 シエラに呆れられる。

 そうよー今頃何言ってるの?今は実質あたしの患者みたいなものだから、一応気に掛けてはいるけど。


「むしろそこが記憶枠になるのか……」

 う、マグナスレイン様が呆れた様子になっている。やばい、あたしのイメージががが。


「あの時はあたしとは無関係でしたね!で終わったと思ってましたからね……

 何もかも全部きっちり覚えてるのって、普通に無茶ですからね?

 終わったことは速やかに見えないとこにしまうんですよ」

 まあ、しまっちゃうのはシエラが、だけどね!


「ナニソレ器用」

「興味深い話ではあるが……」

 イケメン二人にじっと見られて、あのちょっと流石に気恥ずかしさが。

 いや、ぶっちゃけカルセスト王子のほうの顔面に思うところは別にないんだけど。完全に見慣れたし。

 ってん?ライゼルの息のかかった?


「ライゼルの云々って、あたし個人の存在があっちに伝わったということですか?」

 流石にそれはちょっと、まずいような気がする。そうだとしたら、なんだけど。


「いや、名前とかそんなとこまでは漏れてない、はずだったんだ」

 カルセスト王子の返答の歯切れが、宜しくない。

 というか、黒鳥と話した感じ、名前そのものは、どういった理由でか、伝わってはないようなんだよね。


「だが、奴らにこの国に強力な治癒師がいる、という余計な情報を流したのは事実、なのだろう?報告書の通りであるならば」

 マグナスレイン様が再び厳しい顔に戻る。


「海軍がすっ飛んで来る程度なら、どうとでもできるだろうという腹だったから……ライゼルの関係者が噛んでるなんて判ってたら、そこまで流したりはしなかった」

 視線を少し逸らして、カルセスト王子が弁明する。

 うーん、前から思ってたけど、やっぱり彼、情報収集役には、もとより向いてないんじゃないかしらね。

 他のあたしがある程度交流のある龍の人に、彼より向いてそうな人がいない、のも確かだけども。


「まあ取り合えず、ライゼルにあたし自身の存在が伝わってる前提で今後は考えるようにするわ。あの馬鹿鳥、どうもあたしの隠してる部分の事情も多少知ってる気配だったし」

 というか、あいつ、カルセスト王子が知らなさそうな情報持ってる気がするのよね?

 確か、イードさんは知ってるけど、カルセスト王子に開示してない事もいくつかあったような。


「え、このうえなんか隠してんの」

 カルセスト王子が嫌そうな顔。そりゃあ君が情報収集してるのは割と早くから気が付いてたし?


「む、こいつからではない?となると、再調査の必要もあるか」

 マグナスレイン様は難しい顔。言わんとすることは判るけど、この城塞に来た頃の話だからなあ……


「多分ですが、別の情報源は、そもそも人間じゃないと思いますよ。隠してる件の話、した相手はイードさんとハイウィンさんだけですもの」

 そして、その二人から漏れた可能性だけは、絶対にないって断言できる。理由?知らぬ。


「イードには話すんだ」

 嫌そうな顔のまま、カルセスト王子。


「だってここに来た初日か、せいぜい翌日の話ですもの。他に話をする人自体がいませんでしたね」

 確かあれは初日のはずだ。他に相談できる人自体がいなかった。

 庭師のマッチョ兄ちゃんは、後から聞いた限りだとその日は泊まりがけで不在だったそうだから、確実に顔すら合わせていない。


「つまり、ここに集うフリーの幻獣たちのいずれか、か?」

 マグナスレイン様が眉を顰める。


「契約してないとそういう挙動はできないと思うので、普段いるフリーの子たちは多分無関係ですよ。

 弱い子が踏み台にされているとかが可能なら絶対とは言えないですけど。

 ただ、初日は確かハイウィンさん以外の幻獣、聖獣にも会っていないんですよね」

 少なくとも、空から入ったから、あたしの目に映る範囲には、何にもいなかったはずだ。


 その時はシエラも居なかったから、属性とか特に感じてもいなかったしなあ。

この話1回でカタ付けるつもりが、まさかのマグナス様が日和ったでござる。

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