78.そこにあるのに遠い空。
まだサンファンに行けない。想定外。
結局同行者の件は結論が出ないまま、気が付いたら二日ほど過ぎていた。
あたしの知り合いが龍の王族の皆とハイウィンさんあたりと、ヘッセンの上層部しかいないんだから、そりゃそうなりますよねーってなもんです、ええ。
ランディ様も城塞に居座っている。この方も荒事を頼むような知り合いの心当たりなどそうない、とかで、正直情報があるのにちょっと手詰まり感、が否めない。
なおフェアネスシュリーク様お呼び出しは通信で御本人に却下されました。
神罰で召喚を禁じられた国に超級召喚師二人連れだって入国って、それだけでクソ目立つじゃないですか!って言われたらそりゃそうですよね!としかならなかったよね、うん。
一応ランディ様は顔まではあまり知られてないから、超級とまで気付かれる可能性は低いそうなんだけど、フェアネスシュリーク様がめっちゃ有名人なんですよねえ。
なおイードさんも実はめっちゃ有名人だった。そりゃまあ龍の王族の一族なんでそれなりに名は知られてるだろうと思ってたんだけど、どっちかというと召喚師としての名声が凄かった。
まあ召喚魔法陣の改良で相当な実績があるそうなので、これは思い至らなかったあたしのほうがアレですね……
カルセスト王子もまだ城塞に留まっている。
というか、回復がいまいち、思わしくない。
光属性って、メンタルの状態で、減りこそしないけど、翳ることはあるんだよねえ。
ガチのワーカホリックが二日仕事しないで寝込んだらどうなる?っていう話です、ええ。
それでも、光属性の減少状態が回復しないと、化身して飛ぶこともままならないので、おとなしくはしているのだけど。
「なー、嬢ちゃんはメンタル減ったりとかしねえの?」
日課になりつつある〈治癒〉を掛けてやったら、そんな事を言い出すカルセスト王子。
起きて歩けるところまでは回復してきたけど、化身はとてもじゃないけど無理、な感じ。
「メンタルって減るもんですっけ?まあ、ちょっとしんどいな、くらいは思った事ありますけど」
残念ながら、あたしの光属性力、極大。
ここまで来ると、しんどいな、程度じゃびくともしないんだわ、これが。
正直この光属性のどでかさ加減が、あたしのメンタルを支えてる部分もあるんだろうとは思うんですがね。
《ああ、確かに光属性の強さってそのまま精神力の強さに直結してる気はしますね……聖女様も結構強い方でしたし……》
ですよねー、呪詛で疲弊してた時も、神殿の日常業務は普通にやってたそうだし、あの方。
ああそうだ、連絡手段……あたしの魔力量にびびらない連絡手段……
尚、あたしの回答を聞いたカルセスト王子は、めっちゃ嫌そうな顔になった。ハハハ。
問題はいろいろ山積みだけど、どれもこれも、解決の糸口が微妙に手の届く範囲の外にある、そんな感じ。
いや、カルセスト王子の件はそろそろ解決してくれないと困るんだけど。
とか思ってたらサクシュカさんがやってきました。
「カル君調子悪いってうわなにこの属性減少?!」
カルセスト王子の使ってる部屋に入るや、悲鳴のような声を上げるサクシュカさん。まあ気持ちは判る。
「治癒でちょっとずつ回復はしてるんですが、予想以上に戻りが悪いんですよねえ」
ランディ様もこういう症例はあまり知らないというし、正直手詰まり感があったから、属性力は普通でもベテランであるサクシュカさんなら、なんとかならんかな、なんて思ったりしているあたしです。
「カーラちゃん、上位系は試した?」
ああ、予想通りの質問がきました。
「昨日思い切ってかけてみたんですけど、初級とほぼ差がないって結果になりまして……」
実は初級陣での賦活と、上位魔法陣での上位治癒と賦活、三パターン全部試した。
全部ほぼ同一の結果に終わった、強いて言えば賦活だとお肌がつやつやするくらいだった。
報告おわり。
「ってことは、現象の原因になるものがまだ何か残ってる……?」
サクシュカさんが難しい顔になる。
「うーん、アプローチ自体が正しくないんですかねえ。
でも中位の〈回復〉はちょっと違うでしょうし、そもそもあたしが魔法陣を知らないという罠が」
なんかあまり重要視されてない魔法らしくて、資料が足りないのよね。
「あー、あれは使える人はそれなりにいるはずだけど、使ってる人を殆ど見ないわね。
時間をかける、ってことの理由が判らん、みたいな感じで」
即効性重視、ってのは判るけど、でも必要だから存在する魔法のはずよね?
あたしたちがああでもないこうでもない、と議論している間、カルセスト王子は窓の外を無言で見ていた。窓の外、いや、視線の向きからすれば、空、ね。
ここ数日は好天が続いていて、今日も青空が広がっている。飛びたいのかなあ。
属性力を確認する。風大、水中、光ぎりぎり中。ん?
「なんか風属性が増えてる……?」
確か異変前に見た時は全部中でしたよね?
「え?あれほんとだ、カル君全部中だった気がするけど、風だけ大に上がってるわね?」
同じく属性力が見えるサクシュカさんも目を丸くする。
「……うん?今までずっと、全部中判定だったよ?風だけ上がる心当たりとか、特にないけどな?」
本人も首を傾げている。彼は属性力は見えない人なので、自覚がないのはまあしょうがないかな。
とはいえ、属性力の増大のほうは世界の基本仕様にもなってて、支障が出ることなんてまずないし、属性力同士のリソースの食い合い、みたいな現象は反発属性以外では存在しないから……ん、反属性?
じっと見る。嫌そうな顔になるカルセスト王子。
何をしているか判ってる訳ではないだろうから、反射みたいなもんね、あたしだって同じことされたらそうするし。
んげ。マジか、ほんとに生えてるじゃないか、闇属性極小。そんなことある?
《普通なら極小なんて光中以上なら消されるはずですよね?あ、でも例のアラクネー、あれも最終戦の時だけ火中に風極小が生えてなかったですか?》
あー!そうか、あれもイーライア王妃やアリエノール殿下を乗っ取ったりあれこれしてるうちに、属性も狂っていってた。
つまり、解除が遅きに失した?いや、あの情報を得ている間程度の時間で、生えるとかは流石にない。
でもそうだ、契約解除の前に、精神のどこかが混ざってるんじゃないか疑惑、持ってたなあたし……属性反発でそこまで至らないだろうって楽観視もしてたな……
いや、龍で飛んでこれてはいたのだから、中身が黒鳥に入れ替わったあの時、か?それは、あり得る。
感情乖離が結構進んでたしな、鳥も王子も。
「あー、サクシュカさんも詳細に見て貰っていい?」
流石にこれはあたし一人が言い出しても信じてもらえなさそうなんで、サクシュカさんを巻き込む。
「詳細?え?嘘、なんで闇」
そして改めて、あたしと同じように見たサクシュカさんの、あたしの予想以上に衝撃を受けた顔。
「闇?そんなはずねーだろ?」
本人は当然意識してなどいないし、気付きもしなかったろう。
光属性が戻らない原因は、確実にこれだけど。
「ねえカーラちゃん、この属性って、消せる?」
サクシュカさんが暫く考えたのち、おもむろに無茶振りをしてきた。
「無茶言わないでください。
減少させる手段は一応複数知ってますけど、基本的に消すのは無理じゃないですかね。
まあそれを言うと、そもそもなかった、いえ、あるはずのない属性が生えるのもおかしいんですけど」
原因はあの馬鹿鳥なのは間違いないんだけどね。
属性力というものは、人の場合基本的に生まれた時に決まってしまい、力の増減はあるけど、属性そのものが増えたり減ったりはしない、はずだ。例外が光だという話も聞いたけど。
ああ、光が例外なら対になる闇も例外になりうるのかしら?
でもあの光が例外って話は、少し興味を持って調べた限りだと、最初見えないほど少なかった属性が、育って発現するって話だと思ったんだけど。
何より、龍の王族は、真龍同様、闇属性は本来持たない。
今んとこ唯一の例外がイードさん、だったはずだ。
まああの人の場合反属性の同等の光で消されてて一切どこにも反映されないうえに、どうも他の人はそれに気が付いてもいないっぽいんだけど。
他の人にそれとなく確認したら、イードさん、周囲の家族には四属性相殺って思われてた。実際は全属性相殺なのに、光と闇が認識されてないのよね。これも謎だ。
あ、サクシュカさんが無茶振りするくらい動揺してるのは、そのせいか。
イードさんのほうも、そもそも龍の王族に闇はない、が前提で四属性相殺って判定してるなこれ?
まずい、カルセスト王子、もっかい空飛べるかどうかどころか、王族認定から外れる可能性まで出てきてしまった疑惑。
これはもうなんとしてでも馬鹿鳥呼びつけて責任取らせなきゃだ!
タイトル先に決めたらカル君が大変なことになってしまった……




