71.遠隔通話の魔道具。
玉の素材はなんだろうねえ。水晶の倍以上重いんだけど。多分魔法素材。
重そうな水晶玉は、適当に布を敷いた上にごとり、と置かれた。
「一見水晶みたいだろう?実際はもっと重くて緻密な素材だから、落ちても割れたりはしないんだ。安定性が欲しいから布を敷いてもらっただけでね」
あたしの疑問を見透かしたように説明してくれるランディ様。
愉快なパッシブスキルって言われたけど、〈動物意思疎通〉のスキルって、真龍族にも有効ってことなのか。
(そうらしいねえ。大事なことはちゃんと限定して考えるようにしないと、駄々洩れになるよ?)
ええ、それは判ってます。いくつか方法は試行中。
「じゃあ術式起動、あーあー、フェアネス、起きてるかい?」
仮称水晶玉に流れる魔力、浮かび上がる魔法陣、そして水晶玉に話しかけるランディ様。
くっ、この魔法陣も空間魔法か、適性がない!
(そもそも真龍じゃなきゃ起動できないからねこれは。人族には制限が掛かっているよ)
あ、解説有難うございます。
”流石にまだ寝る時間じゃありませんよ。どうしましたか、師匠。イードの所には着いたのですか?”
ぶうん、と小さな音がして、水晶玉に画像が映り、男性の声がする。
成程、最初にランディ様が仮装していたフェアネスシュリーク様の姿と声ね。これがご本人か。
へえ、こんな道具と魔法越しでも、属性力って見えるのねえ。成程風属性の強さがちょっと違うくらいで、属性力もよく似ているわ。
「ああ、無事に着いたけど、出来たら僕よりちゃんとした説明ができる奴と話したほうがいいみたいだからさ。
あとこの間、このくらいの時間に漁師の皆と昼寝してたの、忘れたとは言わせないよ?」
軽い調子で返事をするランディ様。
ああ、この世界の漁師さんもシエスタ取るんだ、じゃなくて。
”ああ、その件ですか。ただ、僕も依頼を聞いてはいますが、割と曖昧なんですよねえ。『黄白麒麟を正しいとされる場所に連れていけ、手段と人員は問わない』、って変でしょう?”
フェアネスシュリーク様はお昼寝の件は綺麗にスルーして、そんな風に言う。
成程、依頼としては変、というか、やけに抽象的だな?
「なんですかそれは、そんな雑な、曖昧な依頼を受けたのですか、師匠」
イードさんがこれでもかってくらい渋い顔だ。まあそうなるよねえ。
”受領した覚えはないんだけどねえ。
どうも神々か聖獣がたの上の方か、そんな辺りが依頼主っぽくて、キャンセルできないんだなあこれが。
かといってそれ以上の情報も降ってきやしないしねえ”
なんとまあ、正に厄介ごとを押し付けられた状態だった。どうすんだそれ。
「そんなことがあるのですか?」
師匠相手なのでずっと丁寧語なイードさんが不審顔だ。
まあそうよね、この国は神様とはあまりご縁がないし。
「ありますよ?あたしもこないだヘッセンでやられました。解決してきましたけど」
幸か不幸か、あたしはそのへんの実績は解除済みだ。
思い返せば、あれも一種の強制依頼だったものね。
”お、どなたか知らぬが、経験者がおりますか、やはり強制依頼状態だったので?”
フェアネスシュリーク様の、同類を見つけた、と言わんばかりのどこか嬉しそうな声。
「あ、あたしはイードさんの弟子みたいな感じのもので、カーラと申します。
あたしの場合は当地の神様に問題の取りまとめと解決を一言で申しつけられた感じでしたね」
正規に弟子入りしてるわけじゃないから、あくまでも、みたいなもの、だ。
”ああ、手ほどきを受けたとか言う!君の話はイードから聞いているよ、カーラ嬢。
その依頼の時って強制力とか監視とかあったかい?”
成程、召喚術周りの情報としてイードさん、師匠に報告してたのか。ならまあ話は早いな。
「監視は別に。依頼はその時いた国の守護神様からだったので、特に監視するまでもなかったみたいですね。
強制力については、そこまで意識していませんでしたから、正確なところは判りません」
絶対にそうしなくてはならない、みたいな感じでもなかったので、多分なかったような気はしているけど。
《というか、貴方の場合巫女としての素養が強すぎて、あの国神様も無理が言えなかった感じですよ。
それに、わたしが一緒にいますから、メリエンカーラ様絡みなのは、神々なら気が付くと思います。
あの方絡みの時に強制力を行使できる国神様がいるとは、正直あまり思えませんわ》
あー、そういえば、そうでした。
メリエン様お強いんですよねえ、現状実感薄いけど。
まあそこは公開情報じゃないので、ひっそりしまっておくのですが。
シエラとのやりとりは、ヘッセンに行ってからは基本的にシエラが隠蔽してくれている。他人には漏れていない、はず。
なんだけど、なんかランディ様が妙な視線でこっちを見ているな?
(きみ、なんか妙だね?何かは隠蔽が上手くて判らないけど。
まあそんなとこに気が付くのは神々と真龍くらいだろうから、今は気にしなくていいけど、多分)
成程、何をしているかは判らないけど、何かをしているのは判る?
《む、いけませんね、要改良ですわ》
おおっとシエラが燃え上がってしまった。まあいい刺激ではあるか。
”むう、あまり参考にはならなさそうだね。
だが、私が初の事例という訳でもない、ということは判ったか。
師匠としては他に必要な情報はありますかね?”
フェアネスシュリーク様が改めてランディ様に話を振る。
「うん?いや、そういう事ならそれ以上の情報は実際にないんだろうし、いいよ。
時間を取らせて悪かったね」
じっとあたしたちの話を聞いている姿勢だったランディ様がそう答える。
”いえいえ、画像越しとはいえ、久々に弟子の姿を見られましたし、状況に対する新たな知見も得られました。ありがとうございます”
フェアネスシュリーク様はそう言ってにっこり笑う。イケおじだねえ。
「そう言って貰えると有難いね。じゃあまた」
ランディ様はそう返すと、水晶玉の魔法陣に通していた魔力を切って、通信を終了させた。
「久し振りに拝見しましたが、本当に大師匠の水晶玉は映る画像が鮮明ですね」
イードさんが感心した様子でそんな感想を述べている。
ほう、他にもこの魔道具自体は存在するのね?
「そりゃあ真龍謹製だからね、それなり以上の性能じゃなきゃ名が泣くよ。
といってもこれを作るのが得意な奴ってあんまりいないんだけどねえ」
ランディ様はそう答えて、からからと笑った。
気さくな方っぽさを全面に押し出してくるなあ。
(うは、ポーズなのがばれている!
まあでもそうだね、そう思われたい、という意識は確かにあるよ。
せっかく人の中で暮らしてるんだから、畏怖されたくはないしねえ)
魔力隠蔽完璧っぽいから、そうそうばれなさそうな気はするんですけどね。
いやまああたしは魔力周りは見る限定だから、感じ方が人と違うんだけど。
(あー、それでばれたのかあ。魔力視持ちってレアだからそこまで気にしてなかったや。
今度の研究テーマはそれもいいかなあ、召喚とは関係ないけど)
気楽な様子でそんな返事をくれるランディ様。
でもあたしは流石に手伝いはできないと思いますよ。恐らくだけど、貴方の持ち込んだ案件で、暫く忙しくなる予感しかしないわ。
(う、魔力視メインの人あんまりいないからアテにしようと思っていたんだけど。
まあ今すぐうちに来てなんて無茶は言わないから、今の件が終わってから、たまに遭遇した時にでも。謝礼はちゃんとしますから)
てへへ、といった様子での返事。まあ、そのくらいなら、いいかな?
ちなみに映像越しで見ていても判ったんだけど、ランディ様についてる監視自体は、フェアネスシュリーク様の付けたものだった。
地味にお師匠様を信用していないんだよねあいつ、ってランディ様がぼやいて、そりゃそうでしょう、ってイードさんに突っ込まれてた。
ただ、そのフェアネスシュリーク様の方にもそれとは違うタイプの監視が付いてるようで、そっちは流石に映像だけでは判らなかった。そちらはそもそも魔法かどうかもちょっと怪しい感じ。
まあでも、取り合えず、麒麟の案件、やるしかないっぽい感じねえ。
通信魔道具は人が使えるタイプもあるけど、精度は低いのにコストは馬鹿高いからろくに普及していない。制限事項らしいよ。




