70.超級召喚師の秘密。
超級ともなると、いろんな秘密がですね。
「……は?」
これまた麒麟の子が呼んできて、お茶の用意をしにいったジェニアさんと入れ替わりで門前にやってきて、フェアネスシュリーク様に対面したイードさんの最初の一声が、何故か、これだ。
いやまって師匠ですよね貴方の?
なんで、鳩豆顔でぽかんとしてるの?イケメン台無しよ?
いやまあイードさんに関しては良くあることだけど。
「お、大師匠ですよね?何故、ここに?」
ん?大師匠?お師匠ではなく?師匠のお師匠、という翻訳感が伝わってきたぞ?
《フェアネスシュリーク様の師匠?流石に存じませんけれど……あの方より年上で存命していそうな召喚師って、まさか……》
どうやら、シエラには一人だけ心当たりがある様子。
そしてあたしも、さっきからの話の流れで、まあ何となく、想像だけはついた。
「だめかー、やっぱり秒でばれるな!流石孫弟子」
あっはっは、と笑うフェアネスシュリーク様、だったはずの人の姿がぼやん、と霞と共にぼやけて、若い、ストレートの白髪に優美な黒眼の美男子になった。
でも判る、さっきのは幻影の仮装で、これは、化身だ。
身長と服装はそのままなんだけど、体形は気持ち筋肉が増えた、そんな感じね。
「大師匠、貴方が隠棲場所から出てくるなんて、何事ですか?」
ようやっと落ち着いた、いつもの表情に戻ったイードさんだけど、言葉遣いがいつもと違う。
まあ相手が師匠の師匠なら、丁寧にもなるわね。
「お嬢さんもあんまり驚いてないようだねえ、これは想定外。
さっきの変装がばれてた、って訳でもないようだけど、どうも僕の種族にはもう気付いちゃってるっぽいね。
では改めてご挨拶を。僕は真龍族の召喚師、まあ本名は伏せてるけど、ランディって呼んでくれたらいいよ」
にこやかに改めて名乗る、フェアネスシュリーク様、改めランディ様。
まあ真龍族なら様付けのほうがいいかなあ。
属性力のほうに変化はない。まあこれは基本偽装はできないからね。
「イードさんが大師匠って呼ばれたので、それでもしかしてって」
それだけ答えておく。あたしの素性とか能力とか、特に知らなさそうだし。
「うんうん、いい洞察力だ。
というか今気が付いたけど、君、結構ヤバい魔力と属性持ちだねえ?
それこそイードと一緒になったら、ほぼ確定で次代の聖女が決まりそうじゃないか」
なんてこと言いますかねこの見た目美青年?セクハラだぞセクハラ。
いやまあ家畜の品種改良とほぼ同じノリで言ってるだけなのは判るんだけど。
真龍ジョーク、流石に上位種から目線だな?
「大師匠!そういう話はその気もない女性にも、その気のある女性にも振るものではないと何度言えば!」
どうやら人族の心の機微に疎い系らしい、と見切ったところでイードさんからの叱責が飛ぶ。
……その気のある女性に振ってもダメなのか。押し倒され未遂でもあったんだろうか。
なお本当なら実際にフェアネスシュリーク様がこちらに来るはずだったんだけど、レメレ砲撃事件の後始末というか、サンファンの船が落としていった砲弾や雑荷の処理に駆り出されていて、手が離せないんだそうだ。あの件も後引くわねえ。
で、たまたまフェアネスシュリーク様の所に砲撃見舞いと称して遊びにきていたランディ様が代理でこちらに来た、と。
「レメレの始末を肩代わりして、フェアネス師を送り出して頂ければよかったのですが?」
イードさんの物言いにやや、棘がある。珍しいな。
「やだなあ、僕がそういう人の営みにあんまり関わっちゃだめなのは知ってるだろう?
まあ、今回こっちに来た案件も人の営みとは無関係とはいえないけどさ」
ランディ様は飄々とした様子でそう言葉を返す。
うん?そういえばイードさんの顔を見に来たわけでもなく、あたしの事も特に知らなさそうで、こういう人が出てくる案件?
考え込んでいたら、ランディ様がふっと目を細めて笑う。
「なるほど、大きなスタンピード災害があったというけど、それ以外は割合平穏なんだね、ここ自体は。
でもまあ僕も早めに家に帰りたいし、さっくり言わせてもらうかな。
黄白麒麟、いるよね。引き渡して貰えるかな?あれは此処にいちゃいけないものだからね。
そもそもなんで此処に居るのかが判らんけど……」
やや唐突にそんなことを言い出すランディ様。
おう、今目の前であたしの後ろに隠れた子がそうだけど、気が付いてないな!?
「麒麟?何故大師匠がそれを連れ出すなどと?」
イードさんの表情は特に変わりなく、理由を確認している。
まあ此処に居ちゃいけない、自体は確かにそうなんだよね。
ただ、サンファンに下手に返していいものかどうかが、現状では判らない。
「連れ出すというか、元の場所に返すというか。いや僕もぶっちゃけそう言われてきただけでねえ、なんだったらフェアネスと直接話すかい?あいつもどこまで判ってて言ってるかちょっと怪しいんだけどさ」
そんなことを言い出したランディ様は、ごそごそと何もない中空に手を突っ込んでなにかを探している。
ああなるほど、真龍族も空間属性と格納魔法、持ってるのね。
《というか、真龍族が格納魔法の本家ですね。
彼らの魔法だと最大魔力に応じた収納量を常時維持できるそうです。人間用への応用が上手くいっていないんですって》
ほほー。そういえば仮装にしても格納にしても、魔法陣魔法とは、そして後者は龍の王族の皆が使うのとはなんか魔力の流れが違うよね。
「おや、お嬢さんは格納魔法が気になるのかな?
僕たちが使うのはオリジナルだから、此処の王族の子達が使うものとは性能が全然違う、のにはなんだか気が付いてるようだねえ」
そう言いながら取り出したのは、大きな、水晶玉のようなもの。
「ええ、それは判ります。今見た感じ、魔力の流れが違うので。
あたしは適性ないんで使えませんから、見てるだけですが」
空間適性って何がトリガーで獲得できるか、今も判ってないそうだけど、現状あたしには使えない。
それは龍の王族の皆が使うのをみても、今ランディ様が使うのをみても、はっきり判る。
「え?ああ、ほんとだね、勿体ない。君の魔力量なら僕くらいの容量持てそうなのになあ。
ええと、流石にこの場所じゃまずいから、室内に移動していいかな?」
はいランディ様からも使えないお墨付き頂きましたー。むねん。
(でも君、多分だけど異世界召喚者だよね?普通は召喚時にデフォで空間適性付いてくるはずなんだけど)
むぅ、ランディ様から念話が飛んできた。
別にそれはイードさんには隠してないから普通に話して貰っていいんですけど?
(ああいや、これはこちらの都合。実は監視が付いててね。
君は面白いパッシブスキル付いてるから、内緒話にはいいかなと)
成程?監視かあ。ああ、成程、ちょっとした魔法式が見えるな、これか。
お、これあたしも使えるな、風属性中あればいけるっぽい。
えーっと、あたしの場合、召喚の時にエラー吐かれて空中に放り出されるインシデントがあったから、普通と色々違ってるっぽいですよ。魔力量がバグってるし。
(あー、確かにこの魔力量だと北の、あの余計な術式マシマシの儀式魔法陣ならバグるねえ。
あんなクソ国に囚われなくて君的にはラッキーだったし、それなら空間適性なくてもお釣りがくるかあ。
でもあれだな、その状況で翻訳機能が生きててよかったね!)
そ・れ・な!流石に言語習得が一から、だったら割とハードモードだったと思うわ。
というかですね、もし言語翻訳がなかったら、最初に叫んだエマージェンシーコールがハイウィンさんに理解されてなかった可能性。
ガチで開幕で魔の森に墜落して死んでた可能性がですね。ぶるぶる。
ランディ様から無言でナニソレマジデコワイ、という感想のような気配だけ漏れてきた。
器用な事をするな?
まああの時の状況を思い返すに、翻訳機能はいの一番に付けられるっぽいんだよね。
でないと、あのシステムボイス的な何かの言ってた事が理解できてるはずが、ないからね。
(え、召喚時のシステム音声覚えてるんだ。
あとでこっそり教えてくれると嬉しいな。我々にもあれは割と謎なんだ。
北の国以外の召喚者になら何人か接触したけど、それを聞いてない人も多いし、聞いた人もあまり覚えてる人っていなくってさ)
ランディ様の言葉にちょっと引っかかる。北の国の召喚者には遭ったことが、ない?
(だってあの国は、っとこの話も、あとでね)
目的地、イードさんの研究室だった部屋に辿り着いてしまったので、話は一旦おしまいだ。
ああ、あの子に気が付いてなかった件、多分それも監視者つきだからそういうフリだったのかな?
という訳で、まさかの真龍族登場。当初予定ではそうじゃなかった。
なおこの世界の超級って人族的には人の枠を踏み越える手前くらいのイメージです。
2025/12/11 そういや変装解いてから名前呼んでちゃだめだな、と修正。※結果は変わらない




