69.噂の超級召喚師エルフ。
噂をすればなんとやら、なのです。
洗濯ものの良く似合う好天。
帰宅翌日も大変いい天気です。
お洗濯の仕方を習いがてらお手伝いして、物干し紐に全部干し終わったところですね。
「ここのお洗濯は蜘蛛絹の品が多いから、楽でいいですねえ」
ジェニアさんはにこにこしながら、空になった籠を重ねている。
イードさんの衣服も大半は蜘蛛絹製品だそうで。
うん、隠棲するみたいに国境で雑な生活してても流石に王子様だった。
「そうですねえ。初めて着た日に酷い汚れが付いちゃったのに、乾いたらぽろっと落ちたので、びっくりしちゃいました」
丁度その日に、飛ばされてきた方のスタンピードで血塗れ泥まみれの大騒動だったからね……
何もかもが初体験で、びっくりしたり怖がったりする暇もなく走り回ってた気がする。
「そうそう、水は含むのに汚れは撥ねるんですよねえ。
もっとお手頃な値段だったらって時々思っちゃいます。でも生産者の方が数が少なくって、難しいんですって」
そういや蜘蛛絹っていうんだから、蜘蛛の糸系統なわけよね?生産者?
思わず不思議そうな顔をしていたらしい。ジェニアさんがふふ、と悪戯っぽく笑う。
「アルケニアという蜘蛛と人を足したような方々が生産されてるんですって。亜人でもないし、幻獣や聖獣でもない、不思議な方たちだそうですよ」
アルケニア?ああ、アルケニー、アラクネーの別読み、かな?
《アルケニアは外来の希少種族ですね。この間の妖異のアラクネーとは姿からして別物ですわ》
ああ、なるほど。いつもの召喚外来種か。
シエラが以前図鑑で見たという絵姿と解説を見せてもらう。
なるほど、アラクネーより明確に人の身体っぽい部分が多い。
アラクネーは手がなくて足八本にヒトの胸と頭、だったけど、アルケニアは足八本に人間型の腰から上、そしてヒト型の腕が二対ついている。
但し顔立ちは人のそれと同じような輪郭に、蜘蛛のような複眼が四つ、小さいのがふたつ、全部で六つあるんだって。
そして自分の紡ぐ糸は粘着性の有無やら、強度やら割と自在に操れるので、家も衣服も狩りも、生活の全てをその糸で賄っているそうだ。
絵姿、ぴょこんと頭から飛び出した触角みたいな何かが、ちょっとかわいい。
全身ふわもこの毛が覆っているので、衣服は人族の真似をして、雰囲気で着ているだけなんだそうだけど。というか、人型の上半身含めて一種の擬態なんじゃないかな?
そんな風に雑談しながら、後片付けをしていたら、てててっ、と麒麟の子が走ってきた。
「おきゃくさーん!」
相変わらずちょっと言葉はつたないけど、よくしゃべるようになった。
なんかカルセスト王子に妙に懐いてるそうで、彼が来ると真っ先にダッシュで迎えに行くんですって。
そういえばカルセスト王子自身も、連れて帰る途中くらいから、この子には妙に親切になってたなあ。
来客の内容までは教えてくれないので、ありがとうね、と頭をちょっと撫でてから、ジェニアさんと門のほうへ。
おおう?なんか見事な白髪白髯の長身細身の、大変姿勢の良い御爺様、いやおじさま?がすっくりと立っている。
あ、耳がちょっとだけとんがってる。エルフ族の人かしら。属性は風と水と、それらより強い光。
「まあまあ!フェアネスシュリーク様ではございませんか、ようこそいらっしゃいませ!モンテイード様はこの時間でしたら何時もの部屋におりますよ」
ぱっと明るい顔になったジェニアさんが早速挨拶している。
なんと、この方が超級召喚師、フェアネスシュリーク様か。
「やあジェニア、こちらに来てると聞いて立ち寄ってみたけど、元気そうでなによりだ。ああ、今日は別にイードに用があって来たんじゃないんだけどね!
そちらのお嬢さんはお初にお目にかかりますね、こんにちは。
どうやら僕の事は知っていそうだけど、『緑洋の』フェアネスシュリークと申します。
一介の召喚師で、一応イードの師匠ってことになってますよ」
気さく、というか大変若々しい声で、朗らかにそう名乗ってくれるフェアネスシュリーク様。
「はじめまして、カーラと申します。諸事情で最近この城塞でお世話になっています。
召喚術を今イードさんに習ってるところです」
このくらいの挨拶でいいだろうか。
いやでもこの言い方はだめじゃないか?手遅れだけど。
「ほうほう!……いやだがイードに春が来たって訳じゃなさそうだねえ、残念。
まあ、せっかく来たし、イードの顔も見ておこうかな」
幸い一切誤解することなく、フェアネスシュリーク様はあたしの言葉に事実しかないし、それ以上の感情はなさそう、なとこまで把握してくれたようだ。
そして、気のせいか、この方もイードさん同様、他人にあまり興味を持たないタイプな気がしてきた。
従前からの知り合いであるジェニアさんのことは、ある程度気にしている様子ではあるけど、あたしには現状ほぼ無関心ね。
《あー……超級召喚師の皆様全員に共通の特徴、らしいですね……同族より召喚獣と一緒のほうが楽しいからって理由でのめり込んだ方ばかりだそうですし……
モンテイード様に関しては、召喚獣そのものより、術式の改良にのめり込んでいる節がありますけど……》
だよね。
前から城塞にいる聖獣さんや幻獣さん達にも聞いたけど、イードさん、普段はあまり召喚獣呼ばないようだし。改良の成果を確認するときくらいだそうだ。
というか、他の召喚師さんもだいたいこんな感じなのか。って真龍族の召喚師さんいるっていったよね?その方もそうなの?
《だそうですよ。真龍族で唯一、龍の島に住んでない、住所不定の方だそうですよ。
恐らく他種族に化身して人族社会にでも紛れ込んでいるだろう、という話ですけど。
お名前も伝わってきておりません》
まあ真龍族の名前なんて殆ど知られていないそうだから、そっちはよくあることらしい。
《それにしても、フェアネスシュリーク様、光属性をお持ちなのですね。エルフ族って意外と光持ちはいないそうなんですけど》
へえ?意外といない、程度なら、まあいることはいるのよね?
《そうですね。そう言われてみると、エルフ族の聖女様がかつてひとりだけおいででしたから、光を持つと強く出る傾向があるのかもしれませんね》
ほほーう。
なお聖女が出たことがないのは魔力の少ない、なので魔力適性も低いコボルト族とゴブリン族、あと、種族的に闇持ちばかりで光が一切出ないドワーフ族、それに水属性がないと生活もままならない魚人族、だそうだ。魚の人もいるんだ。
翼人というカテゴリの人たちもいるけど、翼を持つ人型種族を一からげにしているだけなうえに、みんな外来種だから聖女は出そうにない、とかなんとか。
異世界人はまあ交雑可能なんで出る可能性は一応あるそうな。
これまた一人だけ、最初の聖女様が異世界人だったそうだ。
……あれ?真龍は……いや、広い意味での人族じゃないからないのか。
《それがですね、一人だけ、真龍族の聖女様、おられたんですよ。事故で異世界に飛ばされてそちらで亡くなられてしまったそうですけど》
わあ。真龍族って寿命がないっていうから、長期間聖女やれそう感はあるけど、あの種族で光特大以上はともかく、攻撃魔法なしって可能なの?
《ブレスはカウント外だそうですので、ぎりぎりセーフなのでは、というのが通説ですね。あの種族が持てないのは闇属性だけらしいので》
ダークやシャドウなドラゴンはいないそうだ。
龍の王族も血筋的には真龍と別だけど、闇属性持ちは基本いない。
今の所唯一の例外が、全部大で持ってるけど相殺で能力などには一切反映されてなくて、ぱっと見じゃ判らないイードさん。
龍の王族で黒いドラゴンはマグナスレイン様がいるけど、あれも髪の毛と同じで、魔力で染まって黒くなってるだけらしい。
生まれた時から黒いから、染まる前の色は不明だそうだけど。
そうすると魔力で髪や鱗が染まるのって、種族差がありそうだねえ。人と同じ基準で染まるんだと、龍の王族の皆さんはともかく、真龍族の方が皆真っ黒になりそう。
《そう言われてみればそうですわね?真龍族の方の色などということは、考えたこともなかったですが》
シエラも流石に真龍族の知り合いはいないそうなので、まあ検討課題かな……
まあ龍の王族で染まってるのがマグナスレイン様だけなのが、そこらへんでちょっと辻褄があうかなって思っただけなのよね。
《そういえば、フェアネスシュリーク様の御髪と髭も、あれは属性が出ている色ですね。結構なお年ですけど、エルフ族は老化が遅いので、老人の姿の方ってまずいませんもの》
そこらへんはお約束なのね。
確かに白い髪と髭の割に、壮年かな?くらいの雰囲気だったものね。
本人の説明より状況説明のほうが多くなってしまった。
龍の聖女ちゃんはこの世界から逆に召喚されて攫われた唯一例であります。




