380.神殿に転進しました。
食い気に勝てないのは仕様です。
オラルディ国の主神殿は、大抵の国と大差ない感じの場所にある。
王宮にほど近い、でも隣接まではしていない、そんな立地だ。
あたしが知っている中では、ヘッセン国が一番距離感が近いんじゃないかな?
あそこも敷地の隣接という形でいえば歩いて数分くらいの場所だった。
というか、過半数の国の主神殿は、王宮に隣接しているか、極近い立地にあるかの二択だ。
例外は徒歩で一~二時間程離れた場所だったという旧アスガイア、走鳥ですらほぼ丸一日分というどこよりも離れた場所だったサンファン、そして街単位で離れているけど、幻獣車直行便でなら一時間もかからないマッサイトだ。
あとそもそも神殿が存在しないハルマナート国ね。
前公爵閣下が出してくれた地味な、大蜥蜴さんが牽く車で、ゆるゆると目立たないよう裏門から神殿敷地に入る。
表から車で乗り付けていいのは奉納公演をする役者さんだけだそうだし、そもそもあたしは参拝しに来たのとは違うからね、表に用事はないのです。
出入り口では既に話が通っているのか、下車後も案内の人が付いてくれて、すいすいと奥に通されるあたしとカスミさん。
「来たか。保護した娘はまだ眠っているよ。
其方が治療したとはいえ、身体的に、だけでなく相当に無理をしていたようだな」
奥まった一室で顔を合わせるなり、挨拶ではなく状況報告をしてくれるランディさん、いつもながらぐう有能。
「そうですね、直接的には、恐らく混入物を警戒して、食事をあまり摂れていなかったのが主原因だと思うんですけど。
治療といっても昨日は〈回復〉を軽めにかけただけですし」
これは昨夜のうちに本人から、彼女自身について僅かに確認した事項の一つだ。
実は第一王女派閥が、王宮内でかなり派手に薬物汚染をやらかしていて、そのターゲットは王とその一族及び側近たち。
当然この中には第二王女も含まれていた。
流石に普段から離宮に引っ込んでいる妾腹の王女たちにまでは及んでいなかったようだけど、王妃様やルシール様界隈は本当に神経をすり減らす日々を続けていたらしい。
第二王女自身も、引っかかったふりをしつつ依存していない状態を維持するのに随分と苦心したという。
そりゃそうだ。思考を減衰させ、依存性を持つ薬剤に引っかかったふりって、相当難しいよ。
それでも彼女はやり遂げたのだけど。
演劇の国だけあって、王族も立派な役者揃いだった、ということか。
そう、役者揃い、だ。
まだ顔も見ていない彼の王には、本当に、完全にしてやられた。
あの勅令を見るまで、あたしは完全に、王を裁かれる側だと思い込んでいたのだから。
実際は、そうではない。
彼は、下手をすると即位の前から、恐らくずっと、内向きに対する愚王、というものを演じ続けていたのだろう。
理由が相変わらずさっぱり判らないから、これも正しいかどうかは、実のところあやふやではあるのだけど。
それでも、最初の印象は捨てねばならない、技能はそう再判定を下した。
ああもう、全部考察しなおしだよ!……そんな時間、ホントにあるんだろうか。
「カーラ様、ようこそ当神殿にお越しいただきました。
何か必要な事がございましたらなんでもお申し付けくださいね」
そこにやってきたブランデル神殿長様がそう挨拶してくださったので、一旦こちらも挨拶する事にする。
「有難うございます神殿長様。
プレミエさんはそのまま殿下に同行されたようですが問題はないのですか?」
いちおうそこだけまず確認するか。
視察団の件の直後、神殿側でも内々でガサ入れと浄化ばら撒き祭りをやって、ライゼル勢絡みの人間とその影響は一掃されているというから、恐らく第二王女の安全は取りあえず担保されているはずだし。
「ええ、それ自体は織り込み済みです。
プレミエは当神殿でも指折りの護法師でございます。
魔力がやや高すぎるため、普段の儀式にはあまり参加しておりませんが、結界術の発動速度と強度には定評がございますよ」
へえ、神殿でもあたしみたいなタイプの護法師さん、いるんだ。
(流石に君と同レベルの者は居らんだろうがね、ここの術師は比較的錬度が高いのも確かだ)
ひっそりとランディさんから念話の念押しが入る。
流石にあたしレベルがごろごろしてるとは思ってませんよ!
自分がイレギュラーだって自覚はありますってば。
取りあえずお茶とお菓子を出して頂いたので、つまみながら少し現状を伺う。
女神様も神殿長様も今日はこれといって予定はない、のだそうだ。
実態としては経過を監視しながらの待機だけどね。
ヒポグリフは消えちゃいましたからねえ、というある意味呑気なお言葉が神殿長様から出てきましたけど、神殿長様はあたしとランディさんがやったことを把握していて、その上での発言、のはずだ。
ちなみに表向きは、超級召喚師ランディ師が偶然通りかかったので、依頼したら退治してくれた、報酬は現物支給で済んだ、という筋書きになるそうだ。
便利だな超級召喚師。
「実際あの図体を地面に落とすことなく回収したのは我であるし、肉を補充したかったのも事実である故、問題なかろう。魔獣の相場などあってないようなものだがな」
と鷹揚に頷くランディさん。
あたしもヒポグリフ解体なんてしたことないし、当然できないのでそこはまるっとお任せするわけなので頷く。
歩留まりどのくらいかとか全然知らないけど、どう見たって一人で食べきれる量でもないはずだし。
「そういえば、解体って格納の中でやっちゃうんです?」
せっかくなので以前から少し気になっていたことを聞いてみる。
「小娘どもの収納魔法はそれも可能らしいが、流石に我らの格納魔法はそうはいかぬな。
一度島に持ち帰ってからの解体になるから、少し時間がかかる……
いや、いっそ小娘に試しにやらせるのも、アリか……?
だがそちらもすぐには無理だな……?」
ランディさんが悪いことを思いついたっぽい顔で考え込む。
まああたしはきちんと食肉としてお裾分けが頂ければその件はどっちに転んだって問題ない。
「解、体……?ヒポグリフ、の話、なのですか……?」
聞いていた神殿長様が不意打ちでヘンチャナ茶を呑んだみたいな顔になりました。
魔獣解体を、そこらで捕まえた野兎や鹿の解体と同レベルで語る我々、どうやら傍から見ていると不穏であるらしい?
いや、不穏というより、単に想定外、か。
「あの見てくれと如何にもな性根の悪さの割に味は上等なのだよ。
小骨が少ないし内臓構造もシンプル故、食肉としての歩留まりも良い。
流石に内臓は一切食えぬがな」
「お肉、少し分けて貰った事があるんですけど、美味しいんですよ」
思わず二人で声を揃えて、ではないものの、美味を強調してしまう。
我々は旨い物には目がない同盟!会員はあたしとランディさんと三人組だ!
【そういえば、以前串焼きでちょいと貰った、大層旨い肉がそうだと言っておったかの?
現物と結びついておらなんだが、随分でっかいものの肉だったのじゃなあ】
そしてマルジンさんまで反応した。
そういや出会って間もない頃に串焼きあげたもんね。
確かにその時ヒポ肉だってランディさんが説明してた記憶もある。
さっき生きたヒポグリフと初遭遇した時には記憶から抜けてたというより、サイズ的に連想が繋がってなかった感じなのね。
「ああ、そうだったな。新しく仕入れる事ができたから、この後解体と熟成が済んだら、また馳走しよう」
ランディさんからそう言われて、マルジンさんもすっかりご機嫌だ。
この世界に来てあたし達と知り合ってまだどれ程も経ってないけど、マルジンさんほんと働き者で助かってるしね、是非美味しいものを食べて貰いたい。
「は、はあ……」
どうも神殿長様はあたし達のノリについてこれていない様子だ。
まあいくらチンピラやくざ以下の語彙力の迷惑生物とはいえ、人語を解する生物を食べるって微妙に感じる人もいるよなあ、きっと。
人ではないけど、今はコルモシオン族になった賢い狼ズもそんな話をしてくれたことあったもんね。
あたしの場合、あのヒポグリフについてはもう最初から、頭の中では食材枠だったけど……旨いのと、完全悪役ムーブが悪い。
「其方等の国では、かつては特に天馬を大事にしていたと聞く。
その天馬の不倶戴天の天敵であり、おまけに天馬の滅亡を促進するような輩だったのだから、駆除して無駄なく食うくらいでちょうどよかろうよ」
ランディさんはそう言うけど、その理屈だとこの国の人にもある程度ヒポ肉振舞う流れになりませんかね?
いやまあ量はありそうだから、そこまで気にしなくてもいいか……
寿命があるのかどうかレベルで長命な生き物だからどうにか生き延びてる状態<天馬
いちおう残り十頭くらいはいる、らしいのだがグリンの言い分を聞く限り恐らく全て雄。




