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379.王様の無茶振り?

ここの王様無茶振りしかしてない?それはそう。

「……本気でしょうか」

 半刻程経ってから、届けられた命令書を手に、眉を寄せるコシュネリク殿下。

 そうね、あたしもそう思う。


 というか、本当に予想通りの結果で、笑いも出ない。


 ええ、天馬捕獲の命令書が、さっき届きました。

 しかもお供は兵士一分隊十名のみだそうです。

 王族護衛の最低限じゃないか。本気でやる気ないな?あっても困るけど。


 いや、天馬が相手なら武力より機動力だから少数精鋭で合ってる、のか?


「まあ想定通りですが、正直に言えばあんまりいい命令じゃないですね。

 事態の根本的解決ができなくなる可能性が高いです」

 想定通りであることは一旦強調しておく。


 あたし自身に対する風評被害は無視してでも、そろそろのりこめー!してライゼル勢の影響をぶっ飛ばさないと、この王宮そのものが人的かつ瘴気汚染被害で使い物にならなくなる気がするんだよなあ……

 後者はあたしの魔力相殺か神殿勢の浄化でどうにかできるだろうとはいえ、前者がなあ。


 かといって、王の命もなしに勝手に宮殿の御前に上がれる立場の人間は、実は現在この国には居ない。

 強いて言えば神殿長様だけど、あの人割といい御歳だから、あんまり無茶はさせちゃいけないよね。


「つまり、周囲がそれを狙って発したものである可能性が高いのですかな?」

 その指令を持って来たのは前公爵閣下だ。

 どうせこの後会うのだろうから其方が持っていけ、と、雑に手渡されたそうだ。


 そういう所は妙に気が回るんだな、ここの王様。


 考えも纏まらないし、せっかくなので、貴重な直筆の、いわば勅令書を見せて頂くことにしたのだけれど。


 ……王様、それは、無茶だと思います。


 彼の直筆の文章には、この手の話にはよくあるパターンだけれど、所々、筆が妙に乱れている部分がある。


 今回の場合、それの発生している位置やその文字自体に解読できるような意味はない、只のブラフなのだけれど……


 こっちはこっちでどうにかしてしまうから、お前は退避していろ。


 そんな感情が、綺麗に載せてある。

 これ、はなから神殿が殿下のバックについているの前提で書いてるのね。


 こういう筆跡から感情を読み取る、っていう世間ではレアに分類される技能持ちが、神殿においては、実はそれなりにいる。

 何故ならあたしも技能として取得していて、今正に使っているこれは、所謂巫覡専用技能のひとつだからだ。


「……王陛下には神殿関係の付き人など、おられるのでしょうか」

 王弟殿下の件を考えるとありえないとは思うんだけど、そう尋ねる。


「いや、おらぬな。陛下は、即位前より神殿とは距離を置く方であった」

 そういや呪詛の解呪を嫌がって逃げるようなキャラだった。愚問だったわね。


 ……キャラ、キャラか……わざと、そうしている?何のために?

 だめだな、情報が足りない。


「あ、そういえばそうでした。

 ともかく、これですね……取りあえず今は都から出ておいて、頃合いになったら天馬でそれらしく登場しとけ、って。

 あたしには、そう読めるんですよね……」

 正直にそこは伝えておく。


 王その人に関して、確信が一つだけあるとしたら、王は既にコシュネリク殿下が『天馬の騎士』である事自体は、知っている、そこだからだ。


「それらしく、登場、ですか……?」

「……それはつまり、闇を払う、伝承通りの天馬の騎士たれ、という事、に……?」

 不思議そうな顔のコシュネリク殿下、渋い顔の前公爵閣下。


 閣下の言う伝承は初期王家の時代の天馬の騎士の話ですね。


「そこまで踏み込んだ内容ではないですが、まあ最終的にはそれもあり、なんでしょう」

 少なくとも、マイナスの思考や、歪んだ悪意は、一切感じ取れない。


 あくまでも、彼はコシュネリク殿下の為に、この勅令を出したのだ。


 ここにきて壮大な想定外だぞ、これ?

 前提が、まるっと全部、ひっくり返ったよ?


「ともあれ、勅令が出た以上は従うべきではあるのですが……」

 あたしをどうするか、と、呑み込んだ言葉尻が言外に告げて来る。


「仕方ないので、あたしは一度神殿にお邪魔しようかと思っています」

 流石に天馬探索行には同行できない。


 何故なら、実はこの勅令が出た時点で、コシュネリク殿下の身の安全が技能判定でも確定してしまったのだ。

 彼には、あたしがわざわざくっついて周辺を監視していなくても、もう何の心配も要らない。


 彼が危険に晒される要素は、対象をギリギリ絞り切れなかったんだけど、『国王または第一王女と直接対面する事』だったのよ。


 この勅令は、そのどちらもあり得なくしてしまった。

 だからもう彼にあたしが危惧するタイプの危険が及ぶことはないし、それ以外は彼自身の能力で充分回避できる事案しか残っていない、と、あたしは断言できてしまうのよね。


 この世界の王族っていうのは、基本的に何らかの専門的な、職として上位でやっていけるタイプの嗜みを最低一つ、大抵複数求められる。


 女性の場合は国によるけど、男性はコレに関してはほぼどの国でも絶対だ。

 まあハルマナート国だけは、男子は軍人専業でいいならそれでいいし、それ以外が希望なら軍務やりながらなら好きな事してていいよ、とかいうユルさだけど、あれはあの一族が特殊なだけですハイ。


 逆を言えば、一般国家の王族って、あの一族のような特殊性なしに、そういうラインを要求されるっていう、裏を返せばキツい話ではあるんだけどね。


 当然コシュネリク殿下を育てた前公爵閣下もそこは考慮していて、武芸は一通り、人並み以上に動ける、という事だし、頭の方も例の戦略ゲームでかなりいい線いってた以上、通り一遍よりは上をいっている、と思う。まあ後者は推測なわけだけど。


 だもんで、実は王が提示したこの辞令は、ある意味願ったりかなったりではあるのだ。

 あたしがターゲットに接近できなくなるっていうデメリット以外はね!


 そしてあたしは後宮側から策を弄して入り込むなんてことは絶対にしてはいけない。

 裁定者としては、そういう裏道はそもそもからして使用禁止なのだ。


 真面目に誠実にかつ真っ当に、なのよ。

 めんどくさいな、と思ってはいけない。

 実際それが一番トラブルを少なくして任務を完遂するコツでもあるんだから。


 なので、この場合の選択肢は一旦神殿に下がって神殿長の、というより国神様の御威光を借りる機会を狙いつつ、ランディさんと合流する、それ一択なのです。


「恐らくそれしかございますまいなあ。

 では御令嬢には車を手配致しましょう。

 殿下にはうちの配下からも幾人かお付けすべきですな」

 前公爵閣下もその意見に同意してくださったので、なんとかこの離宮からは帰れそうだ。


 ベルタルダ伯爵夫人の古傷も気になるところではあるのだけれど、彼女は特に治療は希望していないのだそうだし。


 なんか話によると、名誉の負傷、なのだそうで、彼女自身がその傷そのものを誇りにしている、のだそうだ。


 コシュネリク殿下はこのままこの離宮で連れて行くべき部隊と合流して出立する、というので一旦お別れすることになった。


 契約の方も今日付けで解約ですね。

 結局契約に沿った行動しないまま終わった気がするな……いや、第二王女の治療はしたから一応契約通りではあるな?


 あの契約、王宮で発生した可能性のある問題に治癒師として対応する、って文面だったはずだから、セーフだ。


 料金もちゃんと発生していて、これはコシュネリク殿下個人の予算から出してくれるんだそうだ。


 ベルタルダ伯爵夫人の養子として、一応捨扶持程度の歳費は出ているんだそうだけど、現状そちらは殆ど手を付けていないという話だった。

 完全に前公爵閣下の傘の下にいる感じなのかなあ?


 と思ってたら、なんか筆名で脚本家をやっていて、がっつり貯蓄ができる程度に売れてるらしいよ。

 能ある鷹過ぎませんか貴方???この演劇の国らしい話ではあるけれど!


 半時もしないうちに車が用意され、ベルタルダ伯爵夫人にもご挨拶をして、カスミさんとふたりで乗り込むと、離宮を離れ、最初の通用門から王宮の外に出る。


 今回は待ち構える者もなく、さっくりあっさりだ。


 ほぼ同じ時間に、こちらは正門から、コシュネリク殿下と天馬捜索部隊が鳴り物入りで出立していったから、あちらも当面は安心だ。


 捜索部隊といっても、実際にはコシュネリク殿下が召喚すれば最低一頭の天馬はやってくるわけだから、ほぼ成功が約束されちゃってる『捜索』ですからね!


 振り返って覗いてみたけど、王宮方面は不気味さも意外となく、随分とひっそりとしている。


 ホント今一体どうなってるんだろうね、あの中。

まさか本命に辿り着かずに退出するとか想定外。

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