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381.事案を再判定する。

ちょっとセンシティブな話題を含みます。医学だけど。

 さて、処理が後日になるの確定なお肉の行方は置いといて、次の一手を考える前に、やはり現状を整理して再判定しなくてはだめだろう。


 その過程で疑問が出たら、それこそ神殿長様か女神様に問い合わせる事になるだろうけど、この場所でなら問題なくそれができるわけで。


 まずは王の判定がひっくり返った件だ。

 王が呪詛を受けたのは推定では即位より前。


 そして流行り病で前王と当時の第二王子コルネリオが亡くなったのも、これは確実に同じ時期、即位の直前だ。

 で、コシュネリク殿下はその直後の生まれ。


 そして現王の最初の子であるアミーユ王女はこの時には既に生まれている。

 コシュネリク殿下の一つ上だからね。


 彼女だけ、王太子時代の子ということになる訳だ。


(流行り病での死、それ自体には、一切の不審点はありませんでした。

 ただ、その前後から現王との関係が薄らぎ、神殿と恐らくは意図的に疎遠になったのは確かです)

 女神様が直接注釈をくださる。


 ふむ。呪詛の事は気が付いていたかどうか怪しい感じかもしれないな。

 神殿から遠ざかったのは……今ならこれはそう、コルネリオの魂の存在を隠すのが主目的な気がするわね。


(死者の魂を生者が庇っている、というのですか)

 女神様の声が少し不機嫌を帯びる。

 そうね、世界の法則に反する事だから、不機嫌のポーズは取らざるを得ないよね。


 でも彼は何らかの理由でそうしないとならなくなった、のだと思う。

 恐らくその原因は……例によって前王だ。


 どうもこの前の王、ロベール四世が、ガチのろくでなしだった疑惑がですね。


(……ええ、ええ……あの男は、他に継げるものが居なかったのをいいことに、本当にやりたい放題の、神目線から見ても、とんでもないろくでなしでした。

 この王家にはたまに妙にはっちゃけた性格の、王にはとても向いていない人間が生まれる事はままあったとはいえ、あらゆる意味で歴代でも最悪クラスでしたね。

 それまでずっと王家の守護として仕えていた天馬が王家を見放したレベルですから)

 現王が家内への暴言暴虐の割に、国王としては非常に真っ当で誠実という評価を受けている理由はここにもある。


 要するに前王の治世が割とグダグダに、酷かったのだ。

 それを立て直し、真っ当路線に持ち直させた、これだけで現王の評価は上振れ上限に達したって訳です。


 愛妾たちの過半数は自ら望んで後宮入りしたんだそうですよ?

 入ってから現実にがっくり来た人も多分いたろうし、ウェンディ男爵夫人辺りになると、何やら事案の捜査の為に潜入した、の方が正しいらしいんだけど。


 そして真っ当路線に戻してからも、堅実な国内経営と無理をしない対外政策で、オラルディ国は国としては住みやすい、演劇振興による豊かな精神性の高揚と、それに付随した観光資源や演劇関連記念品事業なんかの新規業種立ち上げなんかで経済を回し、程々に豊かでレベルの高い生活水準の国としての地位を今ではほぼ不動のものにしている。


 中庸っていいよね、ってやつだ。

 というか、天馬たちってもともとオラルディ国の守護やってたのか。


(国の、ではありません。あくまで現王家の守護、でした。

 初代の守護騎士の時代から、人は代を重ね、騎士の血統は王家に吸収されて、単独の家としては絶えてしまいましたが、彼の天馬はずっとそこに居たのです)

 あ、伝承の天馬グリンディパイル、本馬《ほんにん》なんだ、豚まんの彼。

 天馬も寿命長いんだねえ。


(彼らは明確な寿命を持たないそうです。

 数を減らしてしまったのはひとえに古い時代のワイバーンとの縄張り競合と、度重なるヒポグリフの襲撃が原因ですね)

 流石にヒポグリフはあんな物騒な生態であったのなら、もっと早く討滅対象にすべきだった、と嘆く女神様。


 まだいるのかしらと思ったら、どうも魔の森近隣と、正確な場所は不明ながらもう一か所生息地が残っている、らしい。


 そして、魔の森の方の個体は既に討伐されていた。

 あの去年の春の転移スタンピードの時にハイウィンさんが自部族の所でも騒動があって出遅れたんだけど、それが実はヒポグリフ襲撃だったんだという。


 ちなみにヒポグリフ、グリフィンを性的な意味で襲ったところで交雑はできないらしいけどね。

 ヒポは一応曲がりなり程度には胎生といえなくはないけど、この世界のグリフィン、卵生だもんなー。


 なお襲った個体は、既に勝者であるグリフィン氏族の晩餐に供されて美味しく食い尽くされ済。

 まあ去年の話だもんね!


「しかし返り討ちにあったとはいえ、グリフィン族にまで襲い掛かるようじゃ、残りのヒポグリフも討伐しちゃった方がいい気がしますね……どうせ種として詰んでるんですし」

 周囲に迷惑をばら撒くようじゃ討伐もやむなしですよね?


「残り……魔の森近隣のものがグリフィン達に食われた話は我も聞いているが、最後の群れがどこにいるのか、我等すら知らぬのだが?」

 おおっと?真龍が居場所を知らない?


 もしかしてそれもう既に居なくなってるんじゃ?


(ないとは言い切れませんね……マティアに問い合わせておきますが、魔獣は管轄外と言っていたので余り期待しないでくださいね)

 どうやら女神様もヒポグリフ討伐自体には前向きなものの、確たる情報はお持ちでないらしい。


 マティア……マイサラスのサラス・マティア女神は動物全般を権能にお持ちだけど、外来魔獣は本来管轄外であるそうな。


 まあそれは判らなくもない。

 外来生物、この世界で見てても大分カオスに分類される奴、ちょいちょいいるもんね。


 いかん、お肉期待で思考がずれた。

 いやこっちも世界平和の為には必要案件なんだけど。


 ヒポグリフ、詳しく聞いたらやっぱり個体によっては人を好んで食う迷惑野郎だったし。


 流石に常習の人食い個体は討伐済みだし、そういう奴は食料にはせず海の藻屑、つまりフナムシ君やヒトデ君達のごはんにしたらしいけどね。


 話を戻す。ええと、ロベール四世、前王が諸悪の根源疑惑という話だったな?


 そう認識しなおしたところで、技能が反応する。

 反応したという事は、少なくともこの前王、まだ事態に関与している、ということですね?


 つまり、死んではいるけど、昇天もしてなきゃ地底落ちもしていない……。

 はいはいはいはい!はっきり技能が判定を下しました!


 討伐対象!前王!!!決定!!!


「前王の亡霊が最終目標ですね……ああ、成程……第一王女に憑いてたんだ……」

 きちんと把握できていなかった存在があたしの中で確定枠に入った瞬間に、色んな疑問点がずるずるっと連鎖的に解放されていく。


 いや、ほんとに我ながら未熟者が過ぎるわこれ……


 恐らく、第一王女は最早人の形を留めていない。

 ガワくらいは取り繕っているかもしれないけど。


 なので早晩、王宮のどこかで化け物騒動が発生するはずだ。

 でも本当の所を言うと、発生してからだと、後始末が面倒なんですよねえ……


 死人の発生が、避けられない。


「第一王女殿下に、前王陛下の亡霊、でございますか……?」

 ブランデル神殿長様がそう復唱して眉を寄せる。

 疑問の意味はあたしにも判るよ。


 本来、この世界の亡霊って異性には取り憑けないからね。


 ここで問題になってくるのが、現王にかかっている呪詛だ。

 男児を生まれさせない、というそれ。


 これが、単に出生時の性別だけをそれらしく見せかけるだけのものであったなら?


 遺伝子のエラーやホルモンバランスの異変や投薬の結果、そんな種々様々な原因の下、見た目の性別が判別しづらい子供が出生する事がある、という話を、元の世界での知識で、あたしは知っている。


 まあ元の世界じゃ出生前診断どころか、出生前に治療しちゃうのが普通だったので、治療例としての知識しかないけどね。


 ただ、そんな科学とか医学的な話とは関係なく、呪術というものはそれらの要因と似た働きをできるのではないか?という気がするんですよね。


「第一王女殿下の容貌とかは聞いた事ないんで知らないんですけど……」

 そう言ったら、神殿長様が部屋の外に何か言いに行き、数分もしない間に数枚の絵を持ってきてくれた。

 なんでもこの国の王族は、二年に一回、神殿に肖像画を奉納するんだそうだ。


 その割にコシュネリク殿下のはないな。

 いや今回の視察団の件まで王族として認められてすらいなかったんだから、あるはずなかった。

 持ってきてくれたのは王夫妻と正腹の王女たちかな。


 そして去年描かれたというそれらの、第一王女の肖像画は。


 横に描かれた椅子と比べた背は比較的高く、姿勢が悪く、猫背の痩せぎす。

 胸はぺったん、体形も正直に言って、女性らしさというものがないように見える。


 髪の色は極薄い紫色で表現されているけれど、実際にはもっとくすんだ色目であるらしい。

 やや尖った顎、狭い額、眼は化粧が少し濃いけど、一重かなあ?

 眉も目尻も下がっているのを、釣り目気味にしようとお化粧で頑張った形跡が見て取れる。


「……普通、王族の肖像画って、もうちょっと盛るんじゃないです?」

 思わずそんな言葉を口にしたレベルで、写実的が過ぎるし、絵の中の彼女は本当に面白くなさそうな顔で描かれていてですね。


「これも陛下のご要望だったのです。

 釣り書きでもないのに盛るな、と。

 事実だけを包み隠さず描け、と画家に命じたのだそうです」

 そして、ぶすくれた顔で描かれているのは、第一王女だけだった。


 他の王女たちは、概ね普通の顔や、小さい子なんかは普通の笑顔だ。

 いや、第二王女はちょっとめんどくさいなあって顔してるな。


 この画家の腕は結構いいなって思います、あたし。

元世界、割と少子化が深刻だったので<出生前遺伝子治療もお手の物になった理由

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