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第22話 道しるべ


「一緒に行けないって……まさか、ちょ、えぇ!?」


「おいおい、いくらなんでも慌て過ぎだろー。あっ!もしかして、アタシと離れたくなくなっちゃった?」


突然の別れの一言に、僕は思うように言葉が出てこなくなってしまった。

そんな僕をからかうようにサイコさんはセクシーなポーズを決めて、わざとらしくはぐらかす。


「あんたはようやく、これからの生き方を自分で考えて、自分で決める事が出来たんだ。それに言ったろ?全力でバックアップするってさ!」



"だったらなぜ、一緒に着いてきてくれないんですか?"

そう言いかけて、僕はその言葉を喉に押し込む。

思い出せ、あの言葉を。



「離ればなれになっても……たとえ離れた場所にいても、サイコさんはサイコさんなりのやり方でこれからも僕に協力してくれる、と思っていて良いんですよね?」


そう。甘えてはいけない。


常に他人の助けを借りて生きてゆけるような甘い世界ではない。

常に他人の助けを借りて生きてゆける、と思うような人間になってはいけない。


「おっ!ルカ君、ようやく自分で歩く気になってきたようだねぇ。

まぁ、つまりはそういう事だ。あんたはあんたで、今出来る事を精一杯やる!アタシは世界中にいる仲間と協力して、あらゆる手段を使ってあんたの行く道を示してやる!」


「役割分担、ですね……」


「そう!固まって行動してたらどうしても効率が悪くなっちゃうからね。

言っとくけど、アタシがいなくなっても、途中で旅を諦めたりすんじゃねーぞー?そんな事したら世界の果てからでもあんたを追っかけて、ぶん殴ってやるからね!」


「は、はいっ!」


「よぅし、良い返事だ!

そうと決まれば、こんな所からはとっとと退散だな。テンテットに戻って、お互い出発の準備をしなきゃね!」



推定で6、70年は生きてきた事を考えれば当然なのだが、サイコさんは、これまでいくつもの別れを繰り返してきたのだろう。名残惜しいといったような素振りは見られない。だが、それもそのはず。思えば、サイコさんと初めて出会ったあの夜からたったの2、3日しか経っていない。彼女とは未だ、ほとんど他人と言っても差し支えない関係なのだ。

それを理解していても、やはり僕としては少しばかり寂しい気持ちになる。


と、突然。


「ッ!!!」





ふわり、


と、僕の目の前で美しい銀髪が蛍光灯の光を反射させてキラキラと輝き、スローモーションのようにゆっくりと流れる。


細く柔らかな腕に首元を包まれ、身体は白衣の中に呑まれてゆく。



僕は、サイコさんに抱きしめられていた。



「サ、サ、サイコさん……!?」


高まって激しく波打つ鼓動と、その向こう側、ゆっくりとした優しい鼓動が、僕の胸で入り混じる。



「ルカ、ごめんね。

『定義』の確立、世界の崩壊、その原因を作ってしまったのは、他ならぬアタシ自身だ。あんたとアタシが出会わなければ、きっとこんな世界にはならなかった。あんたはあの村で、普通の男の子として生きていたかっただけなのにね」


「で、でも、僕は記憶の中で兵士達を……」


「あれは仕方の無い事だ。あんたはただ、毎日のように押し寄せる兵士達から村を守っていただけなんだからさ。少なくともあの村の人達は、あんたに感謝していたよ?」


「…………」


「アタシは責任を取る必要がある。

あんたが"記憶と人格を取り戻し、普通の人間として生きたい"と願うなら、アタシはバイトウィルスにまみれたこの世界、全てを敵に回しても構わない」



僕は、大切な事を忘れていた。

水鏡に奪われた僕の記憶の中には、研究所でサイコさんと過ごした日々の思い出も含まれているのだ。

映像の中で少年は言っていた。

研究所の中で、映画、音楽、絵画など様々な人類の美しい文化に触れ、人間としての感情を思い起こさせてくれた、と。

そして、それは全てサイコさんが教えてくれた事だ、とも。




「サイコさん、僕はあなたと出会わなければよかったなんて思いませんよ?

もしもサイコさんが村から連れ出してくれなければ、僕は今もあのジャングルで兵士達を殺し続けていたと思うんです。いくら村人達の命を守っていたとはいえ、間違ってもそんな人間を神の子だ、なんて呼んじゃいけないんだ。


だから、あなたが謝る必要なんて無いんです」


「ルカ……」


「バイトウィルスを世界中にばら撒いたのは水鏡キョウスケの仕業、世界を崩壊させてしまったのは『定義』の力に溺れてしまった人間達の仕業。

たとえそれを生み出すきっかけがサイコさんだったとしても、その力を使う者達にこそ責任がある。

だから、サイコさんがそこまで背負い込む事無いんじゃないですか?」



「……そっか。うん。


ありがと。


そう言ってもらえると、ちょっとだけ気が楽になるよ!」



ふふっ、という小さな笑みが耳元で聞こえたかと思うと、


「よしっ!!!!」


と言って勢いよく背筋を伸ばし、何か吹っ切れた様な表情で僕に仁王立ちを見せつける。



「野郎ども!さっさとバーに戻る準備をするよ!!

ルカ!あんたは旅の支度が出来たら、さっき渡した住所に従ってアタシの"師匠"に会いに行け!お眼鏡に叶えば修行をつけてくれるハズだ!!


ディエゴ!ガンケース貸せ!そん中に、ここにあるありったけの研究資料をぶち込んで帰るからね!!


オヤピン!あんたはいい加減ゲームやめな!!」



「「「は、はいッ!!」」」



三人仲良く返事が揃ったところで、僕達はテンテットに戻る支度を始める。

資料を詰め込む間に頭をよぎるのは、やはり住所に書かれている"場所"と、サイコさんが"師匠"と呼ぶ人物の事だ。具体性も無く、どこか含みのある言い方をされてしまうと、どうしても良からぬ想像をしてしまう。

やはり、サイコさんに詳しく聞いてみるべきか……



「コラ、ネコ娘!!早く終わらせろって!早くしないと置いてくよ!」


「あ、ちょちょ、置いてかないで!セーブ、セーブ……」


(オヤピン置いてったら僕達、入り口まで戻れませんよね?)


(基本的にサイコさんは勢いで物を言う人間ですからねぇ。ま、いいでしょ。二人とも気づいていない様子ですし)


「……っよし!じゃあまた入り口まで案内するっスよ〜!」


僕の疑問は、ディエゴさんとのひそひそ話と皆とのやりとりで遮られてどこかへ追いやられてしまった。

だが、それでいい。

あれこれ考えすぎるのは水鏡の、僕の、悪い癖だ。




研究室を出る直前、僕は後ろを振り返ってあのカプセルを見る。


「…………」


「勇者様?早くしないと置いてくっスよ〜!」




今は前に進もう。


僕の記憶を取り戻す旅は、まだ始まってすらいないのだから。



「ああ、今行くよ!」



僕は向き直り、三人の後を追って走り出した。


























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