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第16話 正体


全ての始まりである不気味な楕円形の機械を目の当たりにして、僕ははやる気持ちを抑えられずにいた。


窓に近づき、食い入るようにその先の部屋、そしてカプセルを見つめる。しかし壁面を確認してみても白い部屋へと繋がるドアのようなものは無い。

あと一枚、あと一枚だけのドアを開ければ手が届くのに、それが無い。


「クソッ……!!

オヤピン、あの部屋へ入るドアは無いのか?さっきみたいに、指で操作出来るような壁はここには付いていないのか!?」


「えっ!?えーっと、セキュリティドアとパネルの事っスか?オヤピンはこの部屋までしか教えてもらってないっス。博士なら知ってるんだろうけど……」


「じゃあ、その博士って奴は一体どこにいるんだ?この部屋にいたはずじゃないのか?」


「博士は案内役をオヤピンにお願いして施設を放棄した後は、全くの行方知れずなんスよ。あれ以来、一回も顔を見てないんスから」


オヤピンは僕の目的がこの部屋ではないという事を感じ取り、無駄だと思いながらも壁面をさすってパスワードを打ち込むためのパネルを探し始める。


「だったら、この窓を破壊して侵入するしか無いな……!」


僕が拳を握りしめ、窓に向かって大きく振りかぶったその時だった。



「ちったァ静かにしてろ、ガキが!!!!」



突然、静かな室内に響き渡るサイコさんの怒鳴り声にビクッと僕の身体が痙攣し、硬直する。


「焦んなくてもあの部屋は逃げやしねーよ。

中に入る手が無いなら、まずこの施設の正体を探る方が先決だ。幸い、ここには研究資料が山ほど残されてるみたいだからね」


天井にまで届きそうな規模の計器類と配線の山。そこに繋がる複数のコンピュータを交互に操作しながら、サイコさんは眉間にシワを寄せて目を細める。

ディエゴさんは棚に並べられた資料やファイルを注意深く確認しつつ、コンピュータの画面を見る。



僕は、高ぶっていた気持ちと振りかぶった拳を急に恥ずかしく感じ、唇を噛みしめた。


サイコさん。

ディエゴさん。

そしてオヤピン。

みんなが僕のために協力してくれている。

だと言うのに、当の本人はただただ現実から逃げ回り、悪意に怯え、周りにすり寄って甘えてきただけだ。

そして自分でも想像していなかった力を持った途端、それに溺れ、無闇に振りかざそうとする。


だって、しょうがないじゃないか。

サイコさんのように知識も無ければ、お金の力で世の中を渡っていく事も出来ない。

ディエゴさんのように豊富な人生経験を積んでいるわけでもないし、テンテットのような帰るべき場所も無い。

オヤピンのように昔からの頼れる仲間などいない。もちろん周りの信頼や統率力など、あるはずもない。


僕は自分の境遇を理由に、居心地の良い『不安』や『絶望』という言葉に身を置いて、施される恵みにただ浸っていたいだけだったのだ。

記憶が無いんだからしょうがないじゃないか、と心のどこかで言い聞かせて。



「すみませんでした……」


あまりの情けなさに三人の顔すら見る事が出来ず、僕は下を向いて謝るしかなかった。




やがてオヤピンも見えないドアを探すのを諦めたらしく、床にうずくまる僕に寄り添うように座る。


「勇者様、だいじょうぶ?」


「……さっきはごめん。僕はきっと、君の思うような立派な勇者様なんかじゃないよ」


「最初から立派な勇者なんて、ゲームの世界にもそうそういないっスよ?いろんな苦境を乗り越えながら、だんだんと心と身体を鍛えられて成長していくもんなんス」


「そうだよな。仲間に助けてもらってばっかりじゃ、強くなれないよな」


「ん〜、それはちょっと違うと思うっス。大事なのは、自分に何が出来て何が出来ないかをよく理解する事っス。早い話が"役割分担"っスよ。

魔法に弱い魔物は、魔法使いに任せる!

物理攻撃に弱い魔物は、戦士に任せる!

ただし、それをハナクソほじって眺めてるだけじゃ本物の勇者にはなれないんスよ。

勇者というのは常に仲間の事を想って行動しなければならないんス!」


『自分に何が出来て、何が出来ないか』


今更ながら僕は思った。

あの時。僕達が老婆に襲われたあの時。

既にサイコさんに見透かされていたのではないか?

これから先、仲間に頼りきりにならないように僕を導こうとしてくれていたのではないか?


『考える事だけは、やめるなよ』


先ほどの僕の、自分の事だけを思って取った行為は、きっとサイコさんの思う"考える事"ではないのだ。サイコさんが何回も教えようとしてくれた事を、僕はようやく理解出来たような気がした。



「あっ……そうだ!」


急に何かを思い立ったかのようにオヤピンは立ち上がって歩き出す。そして部屋の隅にある埃をかぶった布に手をかけて、バッと勢い良くめくり上げた。


布の下からは、この部屋には似つかわしくないほどの古びたブラウン管テレビが現れた。そこに繋がっているのは、こちらも黄ばんでかなり年季の入った小型の機械だった。

それらは同じ部屋の中にある計器類と同じ無機質な機械であるはずなのに、不思議と温かみを感じる。


「これは?」


「テレビゲームっスよ。博士は研究の合間によくこのゲームで遊んでたんス。あっちも時間かかりそうだし、ボーっとしてても何にもならないでしょ?」


「ゲームって、今はそんな事してる場合じゃ……」


テレビの対角線上にあるコンピュータを無心で操作するサイコさんをちらりと見てみる。

こちらの言動に気づいているかは判断出来ないが、顔は画面を向いたままだ。


「意外とゲームに教えられる事もたくさんあるんスよ?勇者様にとって、これからの人生に役立つ何かが得られるかも知れないしさ!

それに、さっきも言ったけどこれも立派な役割分担っスよ。どうしても自分に出来ない事は仲間に任せても良いんス。

『頼る』んじゃなくて、『任せる』んスよ。


さーてさて!まだ動くかな〜?オヤピンもこの部屋に遊びに来た時にデータ作らせてもらってたんスよね〜」


オヤピンがゲーム機のスイッチを入れると、やがてテレビ画面に色彩豊かなドットで描かれた景色がいっぱいに広がった。

オヤピンが慣れた様子でコントローラーを操作すると、メニュー画面に切り替わる。


【キョウ LV99】

【キョウ LV22】

【オヤピン LV62】


という項目の中から1番下のデータを選択し、ゲームを開始する。


「キョウ、という名前はこのキャラクターの名前なのか?」


「大昔のゲームだから主人公の名前かどうかは分かんないっス。キャラ名を変えられるゲームの場合は、オヤピンみたいに自分の名前を付ける人も結構いたみたいっスからね」


「じゃあ博士自身の名前の可能性もあるって事か」


「そーゆー事っス。実はオヤピンも博士の名前は知らないんス。博士は『博士』っス!」


『キョウ』という名前の付けられたデータに何か引っかかるような感覚を覚えつつも、僕はそのゲーム画面を黙々と眺めていた。


ゲーム内のキャラクター達は綺麗な街並みを隅々まで歩いて回り、明るい町人達と会話を楽しんでいる。

フィールドに出てすぐに戦闘画面に切り替わると、剣を持った騎士のキャラクターが岩のようなモンスターに斬りかかる。

すると、小さな数字が飛び出す(オヤピン曰く、この数字は敵に与えたダメージの量なのだという)。その敵に魔法使いのキャラクターが水しぶきのような魔法を唱えると、騎士が攻撃した時よりも桁が二つも多くなってダメージを与えていた。

洞窟のような場所では、それぞれのキャラクターに割り当てられた特殊なスキルを使って、足場を作ったり仕掛けを解除して進んで行く。

やがて最奥にいたボスらしき巨大なモンスターに向かって騎士が剣を振りかざすと、無数の雷や地割れなどの派手な演出の後にそれが炸裂し、一瞬にしてそのモンスターは消え去る。


「博士は口癖のようによく言ってたんス。

"僕は、ゲームの中に出てくる勇者というものを心から尊敬している。彼らは世界を塗り替えるような力を持ちながら、決して悪の道に走るような事はしない。たとえ自分のために力を使うような事があっても、結局それは巡り巡って世界を救う事に繋がるんだ。運命が、そうさせるんだ。

僕は、この勇者のように世界を救う人間になりたいと思っている"

ってね。今にして思えば悶絶レベルの痛々しい夢っスけど、もしかしたら博士は本気でそう思ってたのかも……」


データが保存されたのを確認してコントローラーを置き、ゲームの電源を消すと同時にオヤピンは語り終える。


「博士の"世界を救う勇者になりたい"という夢は、何らかの問題で実現出来なかったという事になるのか?」


「……博士の好きだった『RPG』っていうジャンルでは、さっきも言った役割分担が特に大事になるゲームと言っても過言ではないんス。

推測の域は出ないけど……博士は勇者様の素質や人柄を見て、もしかしたら"自分よりも適任だ"と、そう思ったのかも知れないっスね」


オヤピンはテレビとゲーム機に再び布をかけ、それを名残惜しそうに優しく撫でる。




「残念ながら、そんなに美しいストーリーではなさそうだぞ」


振り返ってみると、コンピュータの解析を終えたサイコさんがイスをこちらに向けて眉間に指を当てている。

目の疲れに耐えるように強めの瞬きを繰り返しながら僕に手招きをし、画面を見るように促す。


「これは……何ですか?」


コンピュータの画面には何色もの無数の線で繋がれた、人間の脳のような形が描かれた画像が二つ表示されていた。


「これは、神経回路の地図。いわば、あんたの脳の配線図だよ。何十年も昔のやつだけどね。

コンピュータの内部データをざっと調べてみたところ、どうやら『組織』から流用した科学技術を自分の都合のいいように作り替えて実験してたみたいだな」


サイコさんは円を描くような動きでマウスを操作し、画面の矢印で右の脳を囲う。

そして矢印が左の脳に移動するのと同時にこう言った。


「で、問題はこっちの……アイツの配線図」


「"アイツ"?」


「チッ、口にするのも胸クソ悪い。ディエゴ、頼む」




ディエゴさんは一枚の書類を中央のテーブルに差し出し、どことなくそれを指差してその名を語る。



「彼の名は『水鏡みかがみキョウスケ』。

その名の通りこの研究所の所長だった人物で、『組織』においてはサイコさんの直属の上司だったそうです。


そして、おそらくこの人物が……ルカ君。

君の人格と記憶を奪った張本人だと考えられます」








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