第14話 勇者様!?
2時間遅れの投稿になってしまいました。
明日からGWですが自分は特に予定ありません(笑)
先日、ユニークユーザー200人を突破させていただきました!読んでいただいている事を噛みしめながら、より良い物語を作っていきたいと思っています!
それでは、良いGWを!
「もう追っ手が!?」
サイコさんの言葉を合図に振り返ると、廃墟の暗がりから何かが猛スピードでこちらに接近して来ていた。
僕の目に一瞬写ったのは、四つん這いで地を蹴りながら向かって来る奇妙な物体だった。だが犬や猫にしては大きい。
サイコさんが僕とディエゴさんの前に身を乗り出して身構えようとするが、その物体のあまりのスピードに応戦する隙は到底無かった。
「ダメぇぇーーーー!!」
「ぐあっ!!」
その物体は力任せにサイコさんへ体当たりを食らわせ、巻き込まれた僕達もろともドアごと研究所内部に吹っ飛ばされる。大きな破壊音と共にロビーには土煙が立ち込め、視界が効かず何も見えない状態になってしまった。一つだけ分かる事は僕が2人と離れた所に吹っ飛ばされてしまった事だけだ。
空腹と疲労で鉛のように重くなってしまった身体を、近くの椅子にもたれながら無理やり起こして辺りを警戒する。
全容は把握できないが、暗いロビー内には病院の待合室に設置されているような長椅子が乱雑に並べられているのが見える。どうやら僕は入り口近くにある長椅子の一つに叩きつけられたようだ。
さらにその奥、土煙の向こうからは2人の短いうめき声が交互に響く。同時にガラスの割れるような鋭い音。花火のように撒き散らされる書類。直後に反撃を試みるサイコさんの炎が見え、ディエゴさんのものと思われる銃声がいくつか聞こえたかと思うと、また新たな土煙が作られる。
2人が何者かに襲われているのは明白だった。
すると突然、もたれかかっていたイスの後方、僕の背後の位置からストン、と小さな着地音が聞こえた。僕が振り向いたと同時に頬の辺りを何かがかすめ、それはまた土煙の向こうに消えてゆく。
「痛ッ……!」
程なく感じる鋭い痛みに顔が歪む。鋭利な刃物で裂かれた時のような痛みと傷跡だ。血がポタポタと流れ落ち、拭った手の甲を赤く染める。
「出て行け!出て行け!!」
その物体はロビーの中をなおも駆け巡り、2人に攻撃し続ける。
「ディエゴ、ルカ、上手く避けろよ!オラぁ!!」
痺れを切らしたかのような怒声の後、サイコさんの身体から業火が噴き出し、シルエットのように煙の中に映し出される。
僕は咄嗟に長椅子の背もたれの影に身を隠した。まるで敵の銃撃を避ける兵士のような気分だ。
「ちょいと。ルカ君、ルカ君」
炎と煙を巻き込んだ熱風に身を縮ませていると、すぐ近くの長椅子の影からディエゴさんの姿が見えた。ディエゴさんも一瞬の隙を利用して素早く後退して来ていたようだ。
よたよたと、僕は四つん這いになってディエゴさんの隠れる長椅子に移動する。
ディエゴさんの身体にはおびただしい数の裂傷の跡が付いていた。汚れ一つ無かった衣服はボロボロに裂かれ、傷は深くないようだが痛ましい出血の跡が赤黒く滲んでいる。
そんな傷跡を気に留める事もなくディエゴさんは平然と拳銃に手をかけ、敵の動きに警戒しながら僕に語りかける。
「無事で良かった。しかし、こんなに血を流したのは『感染戦争』以来ですかねぇ。まぁ、こんな傷などあの時に比べたらかすり傷程度ですがね」
『感染戦争』。
今朝、サイコさんとの会話の中に出てきた数十年前の戦争の事を言っているのだろうか?
「ところでルカ君、私の血には触らないように注意して下さいね」
「血?なぜですか?」
「今、この銃に装填されている弾薬には特殊な性質を持つ私の血液が練り込まれています。弾薬に限らず、何かの拍子で私の血液があなたの体内に侵入すると、さきほどのように動けなくなってしまいますよ?」
「ひえっ!?」
「ふふ、そんなに身構えなさんな。熱風が土煙を晴らしてくれたおかげで敵の姿が捕捉出来ました。大捕物は、これにて終了です」
瞬間、勢いよく長椅子から身を乗り出したディエゴさんは拳銃を構えて即座に発砲する。
「ぎゃんっ!?」
天井付近にしがみついて炎の熱風を回避していたその物体は、ディエゴさんの銃撃を受けて床に叩きつけられる。ぶるぶると小刻みに震えるそれにサイコさんは近づいてゆく。
勢いを収め、ゆらゆらと揺れるサイコさんの炎に照らされたその物体は。
「やっぱりテメェだったのか、このチビ!」
自称、『大凶区区長』。
僕達を強制的に奇妙なゲームに参加させ、興ざめと言っては鮮やかに敵前逃亡をサイコさんに食らわせた、オヤピンという少女がそこに横たわっていた。
「なん、なんこれ……動けないっ……」
「私の銃弾で少しだけ麻痺させていただきましたよ、子猫ちゃん。こうもちょこまか動き回られては敵いませんからな」
何をされたのか分からない、といった表情で必死に身体を動かそうとしているが無駄な事だ。僕自身もその効力は身をもって知っているのだから。
反撃の心配が無くなったところで僕もその少女に近づき、しゃがみ込む。
「聞きたい事がある。
君は一体、ここで何を守っているんだ?この研究所について何か知っている事があったら教えて欲しい。僕達は君と戦うためにここに来たわけじゃないんだ」
「そ、んなの、信用できる訳ない……」
「本当だ、信じてくれ。僕達は『白い部屋』への手がかりを求めてここに来ただけなんだ!」
「『白い部屋』!?」
少女の身体がピクリと反応し、僕を凝視する。
「ああ、そうだ。奇妙な丸いカプセルが置いてあるだけの、一面真っ白な部屋だ。僕がその中から目覚めた時、一切の記憶を無くしてしまっていたようなんだ。僕はその記憶を取り戻すためにもう一度そこへ行かなきゃならない」
「ルカ、しゃべり過ぎだ」
サイコさんの注意に僕は口をつぐみ、少女の反応を待った。しかしここまで話さなければ、彼女も僕達の明確な目的を把握しづらいと思ったのだ。その上、またディエゴさんの拷問を目の当たりにするのは正直言って避けたいところでもある。
少女は僕の言葉の真意を確かめるように眼をきょろきょろさせ、はっと息を飲んだ。
「も、もしや、あなたが"勇者様"!?」
「あ、え?勇者!?」
突拍子も無い言葉に僕は面食らってしまう。しかしそんな事はおかまい無しといった様子で少女は眼を爛々と輝かせる。
「間違い無いっス!あの部屋の事も、カプセルの事も、博士とオヤピンの2人だけしか知らないはず!昔、博士がこう言ってたんス!
"いつかあの部屋を訪ねて1人の少年が訪れる時が来る……そして、その少年こそがこの世界を救ってくれる勇者様だ"って!!」
勇者、という言葉の意味は僕にも分かっている。分かっているからこそ信じられないのだ。博士という人物は、何をもって僕を勇者と呼んでいたのか?そして僕との関係は?記憶を無くす前の僕が、まるで勇者のような立ち振る舞いをしていたとでもいうのだろうか?
皮肉な事だが、白い部屋の情報、そして勇者という言葉の真意を確かめるためには、彼女に僕が本物の勇者だという事を信じ込ませなければならない。
「そ、そう!たった今思い出した!なんか昔、勇者様とかなんとか呼ばれてたりなんかしてた、かも……」
「やっぱりあなたは本物の勇者様だったんスね!!」
少女は床に這いつくばったまま鼻息を荒くして喜ぶ。
「なーんか、話が変な方向に進んでないか?ディエゴさんよ」
「ふふふ……とはいえ、ここはルカ君の作戦に乗ろうではありませんか。思わぬ収穫があるかも知れませんよ?」
背後でヒソヒソと話す2人の声を聞こえなかった事にして、僕は思い切ってウソを通す事にした。
「さぁ、知っているんだろう?『白い部屋』の在り処を!今、僕はここに帰って来たぞ!案内してくれたまえ。オ、オヤ、オヤピンよ!!」
「おお、オヤピンはこの時を待っていたのです!勇者様、是非ともこのオヤピンが案内させていただきます!お供させて下さいっス!!」
ディエゴさんは笑いをこらえながら少女に注射器を打ち、動けるのを待った。
数分後、身体の自由を取り戻した彼女はガバッと起き上がり研究所の奥を指差して叫ぶ。
「たった今からあなたはオヤピンのご主人様っス!そこの魔法使い!ガンマン!あんたらお供も特別に同行を許すっス!」
「なんでアタシがこいつのお供なんだよ」
「はーっはっは!良いではありませんか。ねぇ、勇者様」
子供の遊びに付き合う親のような2人の表情が見える。ここまで来てしまったら仕方がない、『白い部屋』を見つけるまでの辛抱だ!僕は腹をくくった。
「さ、さぁ2人共、ついて参れ!
いざ、『白い部屋』へ!!」




