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第13話 力の片鱗

ディエゴさんの巧みな話術のおかげもあり、僕達は『白い部屋」への手がかりを求めて研究所へ向かう事になった。

サイコさんはロープの端を持ち、縛られたままのガリガリ男を背中に背負って歩く。ミノムシのようにぶらぶらと揺れるガリガリ男に、後ろ向きのまま案内できるのか?とディエゴさんが問いただしたが、問題はないと言う。おそらく"地元"ならではの土地勘と、周辺にばら撒いた百眼ひゃくめの能力のおかげだろう。


「まずはそこの"ビクトリアウォッチタワー"を抜けて、しばらく直進でやんす」


「けっ!飾りも名前も悪趣味極まりねーな」


「お、親分のネーミングセンスは常人には理解できないんでやんすよ!

次はそこの交差点を左に。へし折れた信号機が見えたら、さらに左折でやんす」



「姿が見えませんが……散り散りに逃げたあなたの仲間達は何をしているんです?」


「親分は"撤退"と命令しやした。だからそれに従ってどこかに身を隠しているんでやしょうね。この街の人間は攻撃するのも作戦を実行するのも、全ては親分の指示を待ってからでやんす」


「あの夜、僕を攻撃したのはあいつの命令だったのか?」


「攻撃の命令ではないんでやんす。あっしらは"侵入者は捕らえて親分に引き渡す"という命令に従っていただけでやんす」



「この信号機を左折、と。で、次は?」


「直進でやんす。突き当たりにある大きな建物が、研究所でやんす」


「ここからじゃ暗くてよく見えませんね……ルカ君、周囲の景色に見覚えは?」


「うーん、あるような、無いような……

でもここからじゃ2区の夜景は全く見えないので、多分違うんじゃないかと」



「さぁ、ここが研究所の入口っすよ!ここまで案内したんだから早く解放して下せぇ!親分に見つかったら何されるか分かったもんじゃねーや!!」


かつて多くの人で賑わっていたであろう繁華街の廃墟を、ガリガリ男の案内を頼りに歩き続け、サイコさん、ディエゴさん、そして僕の3人はついに研究所の入口にたどり着いた。入口のドアは瓦礫やバリケード、自動車の残骸などが積み上げられていて厳重に固められている。

そんな事よりも僕達の頭に浮かんだ言葉は、3人とも似たようなものだった。


「近っけぇなぁオイ」


「歩き始めて1時間も経ってませんよ……」


「灯台下暗し、とはまさにこの事ですなぁ」


大凶区のどこかにある、とは思っていたがまさかこんなに早く着く事になるとは誰も思っていなかったようだ。

頭の中で想像すると、『?(クエスチョンマーク)』を直角にしたような形で街の中を歩いて来たようだ。ちょうど『・』の部分が僕とサイコさんで入り込んだ大凶区への侵入口の位置になる。


「それにしても懐かしいねぇ。勘が鈍い人間に限って、嫌な予感ってのは当たるんだよな」


「サイコさん、この建物知ってるんですか?」


「知ってるも何もアタシ、昔ここで働いてたから」


「えぇ!?」


「ここの社名石を見てみな」


驚く僕を尻目に、サイコさんは入口付近にあるヒビ割れた石の塊を指差す。

そこには『水鏡製薬株式会社』と大きく彫られていた。


「みずかがみ……みかがみ……?」


水鏡すいきょう、ね。"スイキョーのお薬"といえば当時世間を軽く賑わせたもんよ」


「いやぁ懐かしい。私もそのCM、見た覚えがありますよ。たしか水鏡製薬は抗加齢医学、アンチエイジングを専門に研究していた会社でしたよね?」


「表向きはな。ご想像の通り、ここは『定義』の研究に加担していた会社の一つだよ。となると、博士ってヤツはやっぱり……うぉっ!?」


言い終わる前にガリガリ男が暴れ出し、つられてサイコさんの身体もぐらぐらと左右に揺れる。


「何が何だか分かりやせんけど、とにかくあっしは正直に案内したんだ!これ以上の協力はしやせんからね!」


「そうですなぁ……サイコさん、そろそろ彼を解放してあげましょう。人質どころか、利用価値ももはや無くなりましたから。

それに『白い部屋』の存在が彼らに知られたら後々面倒な事になりそうですし」


そっと耳打ちするディエゴさんの提案に頷き、サイコさんがロープを離すと、ガリガリ男は縛られたままの身体でピョンピョンと跳ねながら路地裏に消えた。


「ふぅ、やっと身体が軽くなった。後はこの瓦礫をなんとかしなきゃだけど……ルカ、できる?」


「ぼ、僕ですか!?」


「だってこの中で一番力持ちなのはあんたじゃん。さっきあいつらと闘った時の事を思い出せばできるって!いい?頭の中で考えればいいの。

"俺は強い!思いっきり力を込めれば、こんな瓦礫なんか発泡スチロール同然だ!うぉぉぉぉ〜〜!!"ってさ。簡単、簡単!」


「そんな無茶な……」


「アタシはさっきの闘いを見て、あんたにかつてあった『定義』の力の片鱗を見た。"元々あった力を使おうとする"んじゃなくて"今の自分の力を信じて思い込む"だけなんだよ。それだけでバイトウィルスは、反応するはず!」


鼻を鳴らし、興奮気味のサイコさんを目の当たりにしてディエゴさんが立ちはだかる。


「私は反対ですな。おそらく今の彼は自分の力を制御しきれていない状態だ。あの時、私が止めに入らなかったら一体どうなっていたと思っているんです?今はあなたの研究心を満たしている場合ではない!」


「記憶を無くした状態でも能力が発揮できるなんて、聞いた事も無い奇跡的な出来事なんだぞ!?」


「そんな事、この状況で立証させようとして何になるんです!」


「り、立証はついでだよ!どの道、あの瓦礫を撤去しない事には中に入れないんだからさー!」


「そもそも、ここからしか出入り口が無いなんて事はあり得ない!あなた、ここで働いてたんなら他の出入り口くらい覚えていないんですか!?」


「あったとしても使った事なんか無いから分かんねーよ!そもそも退社する時に裏口から出てくバカがどこにいんだよ!!」


僕は2人を止める準備に入った。


「貴様の物差しで物事を決めつけるな!裏口から出入りする社員だって少なからず存在していたはずだ!!」


「だったら1人で裏口でもなんでも探しに行けばいいだろ!そんな事してる暇があるんだったら、瓦礫なり壁なりブチ壊して中に入った方がよっぽど速いと思うけどなぁ!!」


「こんな老朽化した建物の壁を壊したら倒壊するに決まっているだろう!そんな事も分からないのか!!」


「それもそうだな!全く、建物も人間も老朽化したヤツは扱い辛ぇなぁ!!」


「なんだと貴様ぁ!!」



「まぁまぁまぁまぁまぁまぁ!!!!」


予想通りの大ゲンカが始まり、今にも掴みかかろうとするディエゴさんに割って入り落ち着かせようとする。本当はこの2人、かなり仲が悪いんじゃないだろうか……


「ディエゴさんの言う事に賛成したい気持ちは、僕にもあります!僕の事を思ってくれているのもすごく有難いと思っています。

でも今はサイコさんの言う通り、僕が力を上手く使えれば大きな音を立てずに瓦礫を撤去できます!」


「もう既にでかい音立ててるけどなぁ!」


「貴様の声が大きいだけだ!」


「あぁ、もう!!」


駄目だ。黙らせるにはこれしか無い。

僕は言い合う2人を置いて、ドアの前の瓦礫に進む。




僕は、強い!

思いっきり力を込めれば、こんな瓦礫なんか発泡スチロール同然だ!


しかしあの2人、

こんな状況で大声出して、

子供みたいなケンカして、

止めに入る僕の苦労も知らないで……!!



「こんにゃろうがぁぁぁぁぁ〜〜!!!!!!」


「「!!??」」



全身全霊、ありったけの力と怒りを込めて、僕は積み上げられていた軽自動車を持ち上げた。サイコさんとディエゴさんはお互いの襟を掴んだまま、こちらを向いて固まっている。


「ぬぅぅぅ……ほら、これでいいんでしょ?」


僕は極力音を立てないように軽自動車を脇に置き、力を制御出来ている事をアピールした。現在の僕の頭の中は、異形との戦闘時のようなものとは違う。ただただこの2人に対する怒り、それだけだ。


「す、凄い!凄いよルカ!!やっぱりあんたは天才だよ!!」


「ルカ君、力は制御出来ているのですか!?もやがかった感覚と破壊衝動はありませんか!?」


「うるさい!!あんた達は黙って見てろ!!」


「「は……は〜い」」



怒りに任せた撤去作業の最中、ディエゴさんはガンケースを開いてスナイパーライフルを組み立て始めた。どうやら僕が我を失った時にまた動きを封じるつもりらしい。一瞬見えた赤黒い銃弾に、きっと何か特殊な成分が入っているのだろう。


そんなディエゴさんの心配をよそに、瓦礫の撤去は問題なく終わりを迎えた。


「ふぅぅぅぅ……終わりましたよ」


「お疲れさん!親方!」


バイトウィルスの新たな可能性を見たサイコさんは、嬉しそうに僕に駆け寄り肩を叩く。対してディエゴさんは緊張を解くようにスナイパーライフルを下に構え、大きなため息をつく。


「つ、疲れた……お腹が減って死にそうです」


『定義』の力を使ったせいだろうか、初めて目覚めた時のような空腹感が僕を襲い始めていた。


「力を使った後は腹が減るもんだ。アタシはもう酒しか残ってないけど、飲む?」


「いらないです……」


ふらふらになったところをディエゴさんに手助けしてもらい、肩を借りる。


「申し訳ありませんでした。もっとあなたを信じておけば良かったのですね」


「いえ、ディエゴさんの言う事はいつも正しいです。少なくともサイコさんよりはね」


「ふふふ、お褒めの言葉として受け取っておきましょう」





目の前には大きなドアがある。


一体、何枚のドアをくぐれば真実に辿り着けるのだろうか。強烈な空腹感と戦いつつ、僕はそんな事を思っていた。




「それでは、入りますよ」


ディエゴさんが入り口のドアに手をかけようとしたその時だった。



「そこだけはダメぇぇぇぇーーーーッ!!!!」






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