11日目
「おはよう」
「おはよう、りさちゃん」
1日経って罪悪感は薄らいだ気がした。クラスメイトの目を見て挨拶できた。罪は垢となって流れたのかもしれない。またいつも通りの朝が来た。プリンも昨日買い足されていた。
体重は変わってはいなかったけど。
昼休み、青いバケツを持った田中くんに教室で声を掛けられた。
「今日の放課後、水槽の掃除をしよう」
そう言われて水槽に目をやると水が濁っていた。初めて見る光景だったのでそれが許容範囲なのか、それとも酷い有り様なのかは判断できなかったから、素直に田中くんの提案を受け入れる事にした。
放課後、わたしと田中くんだけになった教室で生き物がかりの活動は始まった。
あらかじめカルキ抜きと温度調整しておいたバケツの水の中に田中くんは小さな網を使って金魚達を移動していく。
夏祭りの金魚すくいでもあの網があれば簡単だろうな、とは思ったけど口に出すことはなかった。
金魚が不在となった水槽を水が溢れない様に2人で運ぶ。近づく距離。水槽越しではあるけど感じる田中くんの腕力。そして、微妙に合わない歩幅のせいで水が跳ね返りお互いにかかってしまった。
真水とは違い、少し魚臭い匂いが鼻を通過していく。あの時とは違い今回はわたしも濡れて罪悪感がやってくる事もなかった。
「田中くん、また髪にかかってるよ」
「高木さん笑わないで、水がまた跳ね返ってくる」
珍しく慌てる田中くんの様がまた笑いを誘う。
「高木さんっ」
「……はい」
怒られた。
水のみ場まで運んだ水槽を黙々と洗う田中くん。黙って見るわたし。
制服の捲って白い腕に通っているピンクの糸が、なんだか妖しく見えてきた。
ん。左腕の手首の下がやけに青くなっている。
「田中くん。ここどうかしたの」
わたしは自分の腕の内側を指差しながら尋ねた。
「……ぶつけたんだ」
彼はわたしの顔をちらりと見た後、そう呟いた。そして蛇口を捻り、流れる水量を増やす。さっきよりも水が飛び散る音がうるさくなった。
「痛くないの、大丈夫なの」
わたしは田中くんに近づき、怪我をしている彼に任せっきりな自分が情けなくなり、代わる意思を示した。
「……大丈夫。ごめんね」
彼は水槽から視線を逸らさず、手を休める事もなく、わたしに謝った。謝るのはわたしの方なのに。
彼は少しだけ蛇口を閉じた。それは本当にほんのわずかだった。
綺麗な水槽になり、金魚達を戻したが泳ぎはいつも通り。ゆらゆらと口をぱくぱくさせながら。




