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10日目


 日付をまたいでもなかなか寝付けずにいた。




 夜、下の階で両親の生活音が聞こえる中でする『それ』は初めて体験する背徳感でそれなりに楽しめたが、行為自体にはなんら快感は得られず、酷く虚しい余韻だけが部屋を満たしていた。



 何日か前には血を出した。昨日は汗を限界まで出した。まだ出せない物があるのだとさっき理解した。



 時刻は午前1時前。



 満たす事ができなかった欲を冷蔵庫に入っていたプリンで満たす事にした。



 静まりかえった階段を降りて夜目がきかない中、おそるおそる冷蔵庫の前までたどり着いた。扉を開けると淡い光が眩しく、一瞬視界が白くなった。




 無い。



 プリンも無い。なんか最近、こんなんばっかりだ。



 わたしは足音を気にせず歩き、部屋に戻った。




 ベッドの上に置いてあるクッションを意味もなく叩きつけてしまう。だめだ。寝よう。




 わたしの女の部分が衣服に擦れ、遅れてきた快感に余計腹が立ってきた。自分の身体なのに、思い通りにいかない。わたしは意地になって抵抗する事にした。心と身体が別れていく気がする。自分の身体なのに客観的に観ている感覚が面白くなり、目は更に冴えてきた。




 見慣れた部屋で、汗が染み込んだ寝具の中で、わたしは初めて自分の中に別の意志があるような感覚に囚われた。




 いやらしく感じる心と嫌だと感じる身体。それらを認めれば認めるほど、その先の感覚に興味が湧いてしまう。




 片方の指先は優しく、もう片方は力強く。もう知識なんて関係なかった。だってこの行為はわたしがしているわけじゃないから。




 頭の中がぐるぐる回り気持ち悪くなってくる。理性が痛みに変わっているのか。徐々にどうでも良くなってきた。まだ見たことない、でもすぐ先にある確かな感覚を手にしたくなってきた。




 壁に反射してくる声に惑いながらも、それも材料になっていた。


 (この声は、……わたし。こんな声出るんだ)




 しばらくしてわたしは果てた。そして、お母さんの気持ちがほんの少しだけ、分かった気がした。少しだけ。





 設定したアラームよりだいぶ早く起きたわたしは、シャワーを浴びた。自分がひどく穢れた気がした。同時に妙な達成感に包まれていたのも確かだけど。



 朝食の時に両親と顔を合わせた時はなぜか恥ずかしかった。短い時間で終わらせ早めに家を出た。



 目に写る物全てに申し訳なく思えた。塀の上にいる猫。アスファルトの裂け目から顔を出しているタンポポ。わたしが横断歩道を歩くために停まってくれている車の運転手。



 教室でもそうだった。穢れた手でご飯を触ってしまった金魚達に。落ちた消しゴムを拾ってしまった前の席の男子に。プリントを渡した後ろの女子に。




 いけない、汚れた事だと自分に言い聞かせれば言い聞かせるほど、別の感情がノックしてくる。



 中に入れて、と。




 わたしは上手い言い訳が思いつかなかった。考えるふりをしていただけなのかもしれない。最初から扉に鍵はなかった。中にいるわたしはドアノブに手をかけていた。酷く綺麗な手で。




 扉を開けた先には誰もいなかった。ノックした主は今日はいなかった。少しガッカリしながらも安堵したわたしは、夕飯を終えた後すぐに眠る事にした。

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