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温度  作者: 折鋸倫太郎
――てない
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95/395

――てない その6

 夜は、まだまだ明けません

 ――休日は明けてから大分経っているにも関わらず。


 [――少なくとも、その筈……]



 先に視線を外したのは、"摂"氏の方でした。

 周囲を見回しながら、


 「いま、何時でしょう?」


 「知らね」


 ――が、答え。


 這って、文字通り、庭を

 <暗中模索>

 ――二人がそれまで行ってきたのは<飛躍>……

 しようとした"摂"氏は

 ――その時

 口の中に何か

 <異物>

 を感じました

 ――だから、身体の動きを止めました。


 感じた途端

 「ガリ」っ

 と上と下の歯の間で、擦れ

 ――割れた感触。

 それも、歯

 ――そのものではなく

 ――砂の様な

 ――歯石の様な

 ――胡麻の様な

 ――得体のしれない

 カス。


 そして、"摂"氏は味を感じます

 ――カス

 ――その亀裂から

 ――口の中で広がる



 ――ミートパイ。



 そうです

 ――"ジュネス・ドレ"が前晩、夜食に勧めてくれたあの<ミートパイ>によく似た味でした

 ――それもパイ生地の部分の無い

 ――<ゼリー>だけの

 ――甘さ

 ――否、新たに

 ――苦みが間を縫う様に

 ――走っています

 ――そしてその、<触感>。


 そして

 ――連想故か

 "摂"氏は気付くのです

 ――唾液の量が、妙に多い事。


 飲み込んでも、飲み込んでも

 ――ミートパイに似た味が溢れてくるのです。

 それも奥からではなく

 ――口の中で。


 "摂"氏の眉根が遜ったのでしょう――

 傍で体育座りをする"ジュネス・ルィェ"が、


 「どうした?」


 と尋ねてきました。


 「何でもありません――」


 と、ジェスチャー付きで、"摂"氏。


 口の中で、ミートパイのジェルの味のする液体が少し溜まってから

 ――正体を見極めようと

 "摂"氏は唾を吐きました

 ――掌を椀にして、受け止めました。


 血でした。


 月明かり

 ――ではなく

 "ジュネス邸"<離れ>

 ――その窓

 から漏れる電気の淡い

 ――が、しっかりした

 光によって、色を見極める事が出来たのです。


 「どうした?」


 そして、"ルィェ"が身体を起こし

 ――近づこうとしました。


 「口の中が切れたみたいです……」


 そして、"摂"氏は色づいた掌を

 地に

 ――戦闘によって芝の荒れたその場所に

 押し付け

 ――草にまぎれる様に擦り

 

 ――笑いかけました。  


 そうです

 ――笑ったのではなく、<笑いかけた>のです。




 [それまで、"摂"氏はずっと、<暴力>を軽蔑していました

  ――理由なく、論理的に。


  そして、世間にある

  「男は拳で語り合う」

  という主張に、眉を顰めていました。


  如何なる暴力も

  ――<接触>すら……

  ――程度によっては………。


  その性格は、変わりませんでした

  ――死ぬまで。


  だから、そんな"摂"氏ならその時、

  ――笑いかける代わりに……

  <男>とは何か

  ――を定義づけながら、

  暴力によって現実に起こりうる弊害

  ――などを統計学を用いて論じたてて、

  "ジュネス・ルィェ"を、責め立てる事が出来たでしょう


  ――しかし、"摂"氏は、そんな事をしませんでした。


 [["摂"氏は、過去に言っていました――


  「どうも、<暴力>には、種類がある様です」


  ――その具体的分析と研究は、<暴力学者>の登場を待って下さい……

  ――"摂"氏は、<それ>ではなかったので………]]]




 勿論、そんな"摂"氏に<笑いかけられた>"ルィェ"が何を返したかは、誰にでも予想がつくことです

 ――そしてそれは正解の筈です。

 答えは――


 ○○○


 です

 ――それは擬態語です。




 暫くしてから、

 二人は共同作業を止め

 ――間合いを取ったまま

 ――立ち上がると、


 月が、空に、見えました。



 「では手術を開始する」

 <<何故?>>と"摂"氏は思いますが、どうする事も出来ません。

 すぐに

 「麻酔をしておこうな……」

 と言われても、やはりどうする事も出来ません。が、<<死んだのに麻酔も糞もないだろう>>とだけ、"摂"氏は思う事が出来ました。そして、思う事は何の役にも立ちません。

 引きちぎる音がします。身体に揺れが伝わる気がします。

 気がします。

 見えません。

 痛みはありません。

 ちぎりが続きます。

 引きちぎる度に、千切った物を<何か>に乗せる音がします。肉屋で(グラムで)霜降り肉を買う時、はかりに乗せた時に発生する、あの「うにゃ」の類の、粘りついた音です。

 止みました。

 続いて、「トントントントン」と包丁が、まな板を叩く音がします。

 そして、ビニール袋を丸めた時の「シワシワ」な音がやって来るのです。



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