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温度  作者: 折鋸倫太郎
――てない
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96/395

――てない その7

 夜の中

 ――ぽつりと、

 明るい空を見上げながら"摂"氏は、


 「ところで

  ――ここらで、

  ピアノを持っている家はありますか?」


 「何で?」


 答えずに、"摂"氏が月を見ていると、


 「どこも(どの家も)持ってると思うけど……

  ――ここら辺(に住む)のヒトなら」


 とのこと。

 そこで"摂"氏が、


 「ちょうど昨日、ここに来た時に『月光』の第三が聞こえたのですよね」


 「ああ

  ――それ、ウチの前だよ」


 ――そして、"ジュネス・ルィェ"が指します。


 視線が会いました。


 「知り合いですか?」


 「子供の頃は、な…」


 そして

 ――続いて


 「あの『月光』好きか?」


 断絶――

 そこで、"摂"氏は追い打ちをかけるかの様に、


 「好きかどうかは問題ではありません。

  わたしが弾くことの出来ないモノを

  ――澱みなく

  為すヒトを尊敬するだけです」


 「可愛げの無いヤツ」


 そして"ルィェ"

 ――視線を外したまま

 身体を捻り

 ――そっぽを向きました。


 「よくチラシが来るよ

  ――お友達を集めて、どっかで定期的に演奏会をやるんだってさ。

  まぁ、音楽だって

  ――学問だって、

  どこの分野も同じだよ…

  ――<実力>なんて関係ないんだ。

  問題は、誰が<お友達>で、だれだれ<センセイ>に師事しているか……」


 頷きも否定もせず、"摂"氏は相手の語りに耳を傾けていました。

 闇に包まれ、相手はひどく、孤独に見えます。

 そんな"ルィェ"は宙を睨みながら、続けます。


 「昔っからそうだ。

  いっつも大切なのは、<紹介>と<承認>。

  <実力>なんて

  ――世間では

  お友達同士がそれぞれに<お追従>を言い合って<共感>する際に必要な、

  ――無いモノを

  「在る!!」

  ――と言い張る為

  単に、こじつける為の

  都合の良い言葉、さ。

  その他大勢が出来ない事

  ――工夫

  ――改良

  ――発明

  そんなの、<実力>じゃないんだ。

  オレはずっと知らなかったんだよ

  ――最近になるまで………。

  実力って、

  <誰かが何か、特別な事が出来る>

  そんな<能力>の事を示すのだと思っていた

  ――でも、違ったんだ。

  <実力>とは<実績>の事。

  そして<実績>を作る上で、オレの考えていた<実力>というモノは、常に邪魔になるんだ

  ――そして<実績>を手に入れた者は、<実力>があるフリをする

  ――そして誰もが疑いもせずに

  ――それが<フリではない>と信じるんだ

  ――<共感>という、誰もが持っている、素晴らしい、特別な<能力>でな

  ――ふん」


 と鼻で笑って、〆ました。

  

 これを耳にした時、"摂"氏は"ルィェ"の意見に同意しませんでした

 ――まだ。


 "摂"氏は思ったのです。

 <<一体、何が、このヒトをこんな考えにさせてしまったのだろう…?

   何があったのだろう?>>


 ――結局、知る事は出来ませんでした

 ――ひねくれた原因は……

 ――それでも、理解は出来るようになりました

 ――"摂"氏は、その後、同じ状態になったから。


 "ルィェ"は続けます。


 「とにかく、実力のあるヤツは、世の中に、ごろごろいる……

  ――<実力>のあるヤツはごろごろいる」


 そう言って


 「オレ、寝るわ

  ――お休み」


 人差し指を

 す

 と上げて

 ――挨拶して

 から

 ――"ジュネス・ルィェ"は、背を向けました



 ――これこそ、"摂"氏が、生きた"ジュネス・ルィェ"をその目で見た、最後でした。



 この時点ではその事を知らず、"摂"氏は

 ――軽くお辞儀をしてから

 ――背に背を向けて

 歩き出します。


 すぐに折れて

 ――"ジュネス"邸<離れ>に、入ろうとします

 ――ドアを開ける頃はまだ、夜が明けていませんでした

 ――あまりにも、部屋の電気が眩しく、在りました。



 そして、着地するのです――砂利の上。

 幅跳びの選手しか、その時の様子を、極めて具体的に想像する事は出来ないでしょう――しかし、幅跳びの選手すら、その時の跳躍を実際に理解する事は出来ないでしょう。明らかに人間技ではないのですから。

 "摂"氏は不思議な面持ちで、振り返ります。

 砂利道は画一的なので、実際に跳んだ距離はわかりません――それに"摂"氏はその時、モノサシを持っていませんでしたから、実際に測ることも難しかったでしょう。

 それでも、少し離れ、煙を立てて、機械が止まっているのが見えました――土の上、砂利道に乗り上げる事なく。直線的突撃を続けていた、あのロードローラーに似た機械でした。そして、それまで前面しか見えなかったその機体の側面が見えました。

 機体前部についた大型ローラーの背後には、別の小さなローラー(もしくはタイヤ)の様なモノがあり、その上にコンパクトな四角い箱が乗っています。

 そして、その箱の天辺から、T字型の<何か>が飛び出ていて、宙をぐるぐる回っています――プロペラの様に。

 "摂"氏は様子を見ます――何も変化はありません。

 何も変化はありません。

 飽きた"摂"氏は、脇に広がる<土で出来た大地>を見ます――小人達が先程と変わらず、歯を担ぎながら歩いていました。先程より、遠ざかっています。すると、

 「リューメ!!!」

 と声がしました――拡声器を使ったような、機械的な、劈く類の声。

 "摂"氏は、声が発生したロードローラーを見やり、これが地獄の挨拶なのだろうか、と訝りながら、耳を掌で押さえていました。すると、

 「おい、そこのキミ!!! 身分証を見せろ!!!」



 ⇒「はじめての闘い その26」へ

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