――てない その3 ―ほい その2―
<鯉の滝昇り>は、ひとつの言葉
――ではなく、
――<ひとつの文><ひとつのパラグラフ(段落)>という
文章の<ひとつの纏まり(テキスト)>を、
或効果(個や部分を際立たせる、等)
を発生させる為、いくつかに分割し
――改行を繰り返しながらも、
本来のままの形(外形)でなるべく残そう
――とする
そんな試みです。
[どうしても、<纏まり>を構成する<言葉>や<文>を頻繁に切って改行すると、最初から最後まで貫かれている文章の流れが滞ってしまう、もしくは文章のリズムが崩れてしまう事があるのですが、<鯉の滝昇り>は改行をしながらも、文の流れやリズムが最低限、残る様にする技巧なのです]
[――因みに、この話は、わざと流れが滞る様に書かれています……
――敢えて……
――という訳で、流行が滞っています……
――『はじめての闘い』や『――てない』を書く為に使用しているこの文章作成技術を、"ファランクス型・水切り"としておきましょう]
「そもそも、なんでそんな技術が必要なのか?」
「<普通モード>でイイじゃねぇか?」
そんな意見があるかもしれません
――そして、その通りなのでしょう
――<普通モード>なら、そのままで、文章に流れがありますから。
しかし、<普通モード>にも、<欠点>があるのです
――そしてそれは、文章量が多ければ多いほど、際立ってくるモノです。
或情報が提示された時、誰もが瞬時にその情報すべてを完璧に把握する訳ではありません。
文字で出来た大きな塊を見た時、ヒトは、
――その構成要素である一語一語を精査するより
全体を見て、<概括を以って>対象を理解する
――そんな気になる
事があります
――<普通モード>は、言葉で<文>を作る時、一語一語を
――①平等に
――②並列させて
――設置する為に
――情報伝達に於いて
――情報発信者である作者の意図が明らかになりづらい
――伝達具合は、受領者である読者の勝手に委ねざるを得ない
――と考える事が出来ます。
(つまり、読者の概括的理解と、情報伝達における重要項目に食い違いが起こることがあります)
[それを
――敢えて
楽しむ読者もいるのでしょうけど……]
例:むかしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんがいましたが、おじいさんもおばあさんも、まだおじいさんやおばあさんと呼ばれるべき年齢ではありませんでしたし、おじいさんもおばあさんもおじいさんとおばあさんと呼ばれることを好みませんでした。それでも世間が<おじいさん>と<おばあさん>と呼ぶ基準となる白髪が、おじいさんとおばあさんの頭にはありましたし、それを見て、他人に気を使うことを知らない近所の子供が
「おじいさん、おばあさん、お元気ですか?」
とおじいさんとおばあさんに向かって実際に叫んだ事もありましたからけっきょく、おじいさんとおばあさんなのでしょう。そんなおじいさんとおばあさんは山と川ではなく、都会へ仕事に出かけることが日課でした。そしておじいさんとおばあさんは都会へ仕事へ出かける毎日を続けて、もっとおじいさんとおばあさんになりました。そのうちむなしくなって、おじいさんとおばあさんはグレ始めました。それでもグレたおじいさんとおばあさんが出来る事は数少ないですし、グレるには体力がいることに気付き、そのうち止めました。そしてそのあとは、最後まで幸せに暮らしました。そして、最後に、死にました。
上記例を多くの読者は読んでから、簡単に理解するのです
「おじいさんとおばあさんがいて、死んだ」
話だと。
[これまでたくさん会ってきました
――「描写部分は読まない」「会話だけ読む」
――と誇らしげに主張し、物語のあらすじだけで議論を進めるヒト。
そういうヒトは、上記例に挙げられた情報の纏まりから、
「おじいさんとおばあさんが元気な話」
とだけ理解するのでしょう……]
しかし、そんな簡単な説明で十分なら、作者は最初から、
「おじいさんとおばあさんがいて、死にました」
と一行だけ書き、<例>の様には書かない筈なのです。
つまり、<普通モード>で書かれた大きなテキストの纏まりは、一度簡単に要約されて誰かに理解されると、要約された(小さくされた)情報それ以外が(大部分)、排除されてしまうという事です。
[勿論、忘れる、という事
――不必要だと判断された情報を排除するプロセス
は、人間に必要なのでしょう
――知りませんけどね。
しかし、問題は、
<自動的に排除されたその情報が、本当に、情報の全体を理解する上で不必要であったのか?>
ということです]
これはテキスト運用動力が、
①結論を最初に持ってくる手法、だろうが
②結論を最後に持ってくる手法、だろうが
③<起承転結>手法、であろうが
<普通モード>である限り、関係がない筈です。
もし、上の例を書いた作者が
――語り手ではないと仮定して
その人物の伝えたかった事が
――つまり、その人物が
――「すべて伝えるべきだが、その中でも伝える上で、より重要度が高いだろう」
――と考える情報が、
「おじいさんとおばあさんの頭には、白髪がある」
である場合、それはディレクトに伝わっているのでしょうか?
その時!!!
「ぴゅ」
再び<水弾>は、"蚊人間"の顔に命中します――ぐらつきます。
すぐに"摂"氏の背後から、拡声器を使った様な声が続きました。
「この<ヒヒョウカ>が!!!」
拡声器的声の属性は、いくら機械的でも、軽蔑の色が滲んでいるのがわかります。
"蚊人間"はダウンしません。ただ、"蚊人間"の髪の毛に異変が生じました。音も無く、赤く燃え上がり、跡形もなく消えたのです。
そして、"蚊人間"が、頭に手をやります――少しだけ黒ずんだ頭皮を、撫でまわします。
その目から、<狂ったヒト>の要素は消えていました――寧ろ、<呆然>としていました。そして、まっすぐ、"摂"氏を見つめました――"摂"氏はその時、自分がしゃがみ込み、両手を砂利の上に乗せていた事に気がつきました。摂"氏は息を飲み――喉が、ひどく渇いていました。三本指で、砂利を一掴みして、"摂"氏が後退りしようと思ったその時!!!
呆然と立っていた"蚊人間"が後退りを始めました――そして、背を向けて、来た道の方角へ戻ってきます。直立歩行です。まるで、ロボットの様な、手と足を揃えた、不器用な歩き方でした。
"摂"氏は、どうすべきか戸惑います。すると――
「おい!!! そこの!!!」
びくりとして、"摂"氏は振り返ります。
ロードローラーは、まだそこにありました。そして、上に小さく乗った、蝸牛の殻の様な<箱>の部分の蓋が開いているのが見えました――快晴の中、蓋は線の様に見え、斜めに傾いているのが見えました。そして
「アイツをフォローするんだ!!!」
と、拡声器的声。
そう言われても、"摂"氏には、意味がわかりません。しかし、
「探偵小説で、何度も繰り返された台詞だな」
と思いました。"摂"氏が
「ぐずぐず」
していると、箱の中から、声の主が顔を出しました。
「何してんだ!?」
鯖によく似た頭でした。口の部分が空に向いた<魚のお頭>が、首(頸部)がない人間の上半身にくっ付いているのです――まるで肩から生えているかの様に。しかし、鯖の胴体も、尾も、見当たりませんでした。
「にゅ」
っと――びしょ濡れでした。
水が滴り落ちています。
目が
「きょろきょろ」
しています。そして、
「アイツについて行けば、ヘッドクオーターに行ける。そこで手続きをしろ!!!」
と、魚の口を
「ぱくぱく」。
"摂"氏が振り返ると、傷ついた"蚊人間"の背中が、土が広がる荒野ではなく、既に、砂利の一本道の上にありました。
その時、"摂"氏の頭に
「コツン」
と何かが当たりました――"摂"氏は空を見上げます。
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