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温度  作者: 折鋸倫太郎
――てない
90/395

――てない その1 ―鯉の滝昇り―

 その後すぐ、"ジュネス・ルィェ"は


 ――死にました。



 [社会にとって、何の役にも立ちませんでしたから

  ――死んだ時

  悲しんだヒトは、<少なかった>に違いありません

  ――死んだ時

  喜んだ

  ――というより

  <安心した>ヒトは、大勢いたのでしょうね………]



 ただ、死ぬ前に少しだけ、"ルィェ"は、"摂"氏の傍にいました。






 「――おい」


 と、犬に似た、吠え。


 音の届いた"摂"氏が

 ――刺激され

 意識のブランクから覚醒すると、"ルィェ"が

 ――横に

 いました

 ――体育座りでした。


 パグの様に、小首を傾げています。


 「がば」


 と仰向けだった"摂"氏が起き上がると

 ――爪先立ち

 ――で腰を深く落とし

 ――臨戦態勢……

 ――その、針鼠の様な<丸み>の周囲を

 ――それまで根をしっかり地に張っていた芝土が

 ――釣られたのか

 ――舞います……


 [覚醒前の覚醒時に起こった、あの、同じ現象に付帯していた

  <反射>

  はもう、其処に、ありませんでした]


 「もう、終わりだな」


 そう口遊んで、"ルィェ"は笑いました


 ――嘲笑いによく似た


 <朗らかさ>


 ――敵意も、警戒もありません。



 風が、吹き抜けました。



 気温は高いのでしょう

 ――しかし

 <<暑さはもう、ありませんでした>>

 ――との事。


 "ルィェ"は、"摂"氏を"ジュネス"邸<離れ>のベッドまで運んで

 ――あげていたら親切ですし、話も楽なのですが……、

 "ルィェ"の貧相な、<知識人>的身体に、それを要求するのは酷です。


 [それに、実際に"ルィェ"は運ばなかったそうですから、ここでも<運ばなかった>とします………]


 "摂"氏は依然として、

 <戦闘場>

 ――そう表現したら<場>は格闘漫画に登場する、あの、世界各国から強者の集まる<リング>の様で、格好良いのですが……

 実際は、

 『はじめての闘い』最後の舞台となった、



 "ジュネス"邸<離れ>脇の、<庭>のまま。



 "摂"氏は、<痛み>が無い事を、確認しました。


 「どれくらい寝ていました?」


 身体を沈め、

 胡坐を掻いてから

 ――掌を地に着け

 ――二本の腕で傾斜した上半身を支えた

 "摂"氏も

 ――"ルィェ"と同じ様に

 戦闘モードを解除していました

 ――"摂"氏は機械ではなく人間ですが、上記表現は……

 ――間違ってなくは、ないのでしょう

 ――知りませんけど。


 「お前、寝てたのか?」と"ルィェ"。


 「寝てました」と"摂"氏。


 「ははは」


 と

 ――ほのぼの。


 「寝てたとしても、そんな何万時間じゃない」と"ルィェ"。


 闇の中で、"摂"氏は何故か、はにかんでいました

 ――その事に気がついて、ハニカミを止めました。

 そして、


 「最後って、どうなりました?」


 「オレの<鯉の滝昇り>で、終わりだよ」


 「何ですか?」


 ["摂"氏は、わからないことを、わからないままで済まそうとするタイプでは、ないのです]


 "ルィェ"はジェスチャー混じりで、解説します――


 「相手の手首をこう(ジェスチャー)掴んで

  [つまり、相手から見た右手首を、右手で掴んでクロスする様なカタチ]

  横に引っ張って(ジェスチャー)

  相手を反転させて

  背中が少し見えたら空いた手で掌底を(ジェスチャー)肩に押し当てて

  ――背中全体を剥き出しにさせる

  それから、無防備の背中

  ――その"防御層"

  を蹴る連続技だよ」


 [この技は、『はじめての闘い』で一度、"ルィエ"が"摂"氏にかけています…]


 "摂"氏は、頷きました

 ――完全に理解していたとは言い難いのですが。


 [しかし、文献研究の結果、あとで理解できるようになります]



 "摂"氏は辺りを見回しました。


 辺りは、暗いまま

 ――しかし、小鳥がどこかで

 ――小さく

 ――短く

 啼きました。


 そして"摂"氏は気付きます

 ――服の汗は、「じわり」と残っていますが

 ――皮膚は、汗ばんでいない事を



 ――そして、"防御層"が完全に消えている事を。



 続いて、気づきます

 ――それを確認した"摂"氏を、"ルィェ"が、見つめている事


 ――極めて、真摯に。



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