はじめての闘い その51 ―必殺技:Vの梯子外し―
"蜘蛛宇宙人"は、攻撃された広背筋に片手をやりました
――膝とその下、踵までにある直線的<締め付け>を強化しながら
――顔を顰めながら。
["防御層"があるので、痛みはそれほど無い筈なのですが……]
一時的に視線から外れている"摂"氏が
「チャンス!!」
とばかりに
それを外そうとして、胴と<セルヴォ>を<トルテュレ>しても
――どうにもなりません。
<<膝で背中を蹴ってやろうか>>
と考えて――
止めました
――身体が弛緩します。
["摂"氏はピンチにあっても、フェアプレイを重んじる騎士道精神が髄にあるのでしょう……]
もう一度――
挟みは解けません。
痛くはありません
――しかし、苦しいのです。
息が先程より、出来ないのです。
それでも、喘ぎ声を喉で堰き止めながら上を見ると、
"蜘蛛宇宙人"が微笑んでいました
――"摂"氏を除く、多くが<イヤな顔>と判断する表情。
一拍が明けてから、"蜘蛛宇宙人"は
――片手で<ラティシムス ドルシ筋>を押さえたまま
自由な方の手を振り上げ、
――<夏のソネット>を叩きつけてきました
――"摂"氏の肩
――萎びたその、僧帽筋へ。
直撃!!
「定義?
――ふん」
そしてその軽蔑の<音>も、"蜘蛛宇宙人"の鼻から実際に漏れます。
続けて、
「――辞書でも引けっていうのか?
<定義要求>なんて手を使ってくるなんて、お前を買い被っていたのかもしれないな………。
<定義は?>
――なんて、相手との力差を感じた者が逃げる際、追手を巻く為に使う<撒菱>程度の効果しかない
――抑々、要求者がその、<定義を要求した語の意味>を完全に定義づけられるのか?
――それは正しいのか?
って話になるからな
――そんな撒菱でも、夜目が効かない者や、気が競る未熟者になら、効果的なのだろう
――オレを、そんな奴と一緒にするなんてな……
笑わせるな!!」
――そして
にやり
と笑いました
――"摂"氏の肩に、手の甲を置いたまま。
それは裏返り
――肩を強く、掴みました。
続いて、それまで背を押さえていただろう方の"蜘蛛宇宙人"の手が
――UFOの様に
宙を浮かびながら近づいて来るのが見え
――そして、
そちらの手も、
"摂"氏の肩を
がしり
と掴みました。
圧し掛かられた"摂"氏は
「ぐわ」
と目を見開きます。
そして"蜘蛛宇宙人"の、テントの骨の様に斜めに立っている二本の腕
――その間を縫う様に
――蛇の様に
"摂"氏は両手を絡ませ
――力が入ると、肩から"蜘蛛宇宙人"の、鳥類の爪の様にめり込んでいた指が外されます……
"摂"氏は瞬時に上体を起こして
――"蜘蛛宇宙人"も身を引きます………
"摂"氏は馬乗りであった相手の胸を、両掌で突き飛ばしました!!
[吹けば飛ぶような軽さ
――だったそうです]
それに乗じて腋下の挟みも外れ、
地に、"蜘蛛宇宙人"が仰向けに横たわる頃、
"摂"氏は<立ち上がり>を完成させました
――<毅然>という補助効果が付帯されています。
そのまま片足を後ろへ振り上げて
勢いをつけて
"蜘蛛宇宙人"へ――
<地に対して平行蹴り>!!
その意向を視覚で確認して、"蜘蛛宇宙人"は
「びくり」
と身体を<ガルバニゼ>して――
<カブト虫の幼虫>の様に、頭と身体を丸めました。
その周りには、踏み荒らされた芝が、土に塗れて散らばっています
――腐葉土の様に。
そして"摂"氏は気付くのです
――か弱い
――か細い
相手のカラダ
――そして、薄くなって今にも割れそうな、"防御層"。
"蜘蛛宇宙人"は、"摂"氏を見上げさえしません。
[焦点は外界ではなく、<自分>にあるのでしょう
――ここにフロイト的<テルム>を参照した言い換えは必要ありません]
その時、<蹴り>を目指して落ちかけて、軸足の脇を通過する前だった"摂"氏の足は、
「ふ」
と力が抜けました
――そして、<無>に限りなく近い程度にまで弱まった<勢い>を殺さないまま、
「ちょこん」
と軽く、相手の"防御層"に当てました。
[これは、
小説系攻撃特技に属する必殺技:"Vの梯子外し"
です]
そして、相手を傷つけずに"摂"氏は感じるのです
――外と内側の<熱さ>を。




