はじめての闘い その49
相手の議論じみた声は
――背中から始まり、
"摂"氏の体中に木霊します。
流れゆく、パルスな文字――
「ここで、無表情ではない<或表情がひとつある>と暫定的に仮定しよう
――この議論は、お前がさっき主張した事に沿って言えば<言葉に特化して展開される>から、その具体例の提出は差し控えよう
――どうしてもそれを追求すると、<美術(造形系)>の分野に足を踏み入れてしまう…
――それに言葉の特質上、いくら具体を追求しても、常に対象に曖昧さ(誤差)は残ってしまう……。
その<或表情>――
これは、数学における<代数>の様なモノ
――それは、ある一定の量を示すが、状況によって変動して見えるモノだ
――その内容領域が、どれほどの大きさかは問題としない
――それが何であれ、ここでは概念上、
――<或ヒトが、何か、感覚として得た印象>(<感情>に近いモノ)
――それが表出したモノ
だとする。
その代数的表情を、"K"と設定しよう。
では、その、"K"を顔に浮かべた人間を、熱い湯に浸けてみよう
その時、"K"は<苦痛>を表しているだろうか?」
声の通過した後に残される跡は
「じんじん」
に近い<痛み>。
その時、"摂"氏は
――覚醒しました。
すぐに
――芝に手を突き
――膝を丸めて起き
――立ち
上がりながら
裏拳!!
――"蜘蛛宇宙人"の脇腹の"防御層"へ強くヒット!!
[ここはクリティカルヒットとしたいのですが、クリティカルヒットがクリティカルで無いことは、ままありますし
――どちらかと、そして英語で言えば、<クルーシャルヒット>ではあります……
ここでもそうなのです
――<批評的>という意味では、上の表現がクリティカルであることに間違いはないと思いますけどね]
[その時の"摂"氏の様子は、"破壊"氏の描いた『ラオコーン』に類していた筈です……]
「湯の温度に依ります」
――それを"蜘蛛宇宙人"は、黒い<夏のソネット>を使い
――排除を画策し
――成功しました。
「では、<触れた途端、火傷する程度に熱いモノ>だとする」
すぐに繰り出される、"摂"氏の、踵で相手の踵を打ちつける攻撃!!
[回し蹴り!! と言い切ることは出来ません……]
「その場合、"K"は<苦痛>である可能性が高い――勿論、<絶対>ではありませんが――」
当たり、バランスを崩す"蜘蛛宇宙人"。
しかし、"蜘蛛宇宙人"はそのまま、攻撃された場所を宙に高く上げ
――逃げる
――どころか
"摂"氏の踵を、裸足で踏みつけました。
「では、火傷として、人体に害にはならない
――人間が浸かることが出来、
――さらに鼻歌を歌う事さえ<痩せ我慢>とは思えない程度に出来
――その状況が長時間持続されても問題は限りなく少ない、
そんな程度に温度が設定された<温泉>であったら、どうだろうか?」
"摂"氏は胴まで足を引き寄せ……
再度、同じ攻撃
――チップ!!
「これも<苦痛>である可能性は捨てきれません
――ヒトの感じ方は、ヒトそれぞれですから」
そして"蜘蛛宇宙人"は
チップしたまま勢いに乗って、芝すれすれに横切っていく
――刃の無い草刈り鎌
そんな"摂"氏の足が停止する前に
――"摂"氏の太腿の"防御層"を
上から踏みつけました。
「でた!
――ヒトそれぞれ!!
――ヒトそれぞれを持ち出したら、どうとでも言える」
"摂"氏は相手の足を
――太腿に力を入れて、
――アトラスの様に持ち上げて、
払います。
「それでも、
偏見によって曇り、凝り固まった<誤謬>と云うラベルが半透明な<ヒトそれぞれ>の底に透けて
――澱んで
見える個人的意見を
<一般的>
や
<普通>
や
<吾人>
等と言って、
すべての人間が持つ意見の<代表>であるフリをする
――それよりマシでしょう?」
専門的格闘家ではない二人の未熟な足捌きですが、その光景は
宙(上)から急襲する天使と、
地に足を据えて天を仰ぎ、槍を突きだす<下から目線>のヒトたち
――その間で繰り広げられる<壮大なバトル>と言えなくも……
大変申し訳ありません
――これは言い過ぎでした。
[これをニッポン語では、
<トーラsを画きテ 狗にルイス>
と云うそうですね]




