はじめての闘い その45
"蜘蛛宇宙人"の横蹴りを、
"摂"氏は太腿
――<ウァストゥス ラテラリス筋>
で、受けました
――"防御層"から外れた箇所。
そのまま"摂"氏は、後方へ蹴り飛ばされました
――<飛ぶ>、というよりは<跳ぶ>
――でもなく
――<ヨロケル>
――という感じが近い状態でしたが。
痛みは、在った様です
――しかし、どの様な痛みかは、混沌とした頭では、分析することができません
――しかし、ここで、転びながら"摂"氏は理解するのです。
攻撃を受ける時、確かに"防御層"によって、痛みは抑えられていたのだ
――"防御層"が張っていない場所を攻撃されると、痛みがより大きくあるのだ
――つまり、同じ様な<痛み>の感覚でも、強弱、その知覚は"防御層"の有無によって変化する。
さらに理解します
――そして痛みが大きくある時、その、<痛みがある>という認識が意識に大きく現れて、外界への焦点のぼやけ、または集中力が削がれる、という結果が導き出されるということ
――その時の"摂"氏がそうであった様に。
続いて理解します
――大切な、"防御層"の特質
――つまり、"防御層"があるからといって、完全に痛みを防ぐことが出来るようになる訳ではないのだ、ということ
――ソネットは、<軽減する>という効果しかないのだ、ということ
――特別な力を使っても、生きている限り、痛みを避けることはできないのだ、ということ。
"摂"氏は、最後に尻餅をつきました。
それを"蜘蛛宇宙人"は、蹴りを加えた場所で立ったまま
――佇んだまま
見つめていました。
無表情でした
――軽蔑も、勝ち誇った喜びも、ありません。
遠くから誰かが、その二人を見れば、
「勝負あり!」
と見做して手旗を上げる、そんな
「シーン」
でしたが
――勝負は最後まで、わからないものです
――知性の勝負は、大体、最初の時点でわかるものですがね……
さて、実際に、勝負はあったのか?
――プロットでも確認してみましょうかね?
[<プロット>?
――実際にその目で見ても理解する事の出来ないヒトの為の、<解説書>か、<計画書>の事でしょう?
――そして、最初から最後までテキストを熟読する手間を省きたい<怠け者>の為に、内容を三行で、わかりやすくしてやる為の<ジスト>の事でしょう?
そんな観察者にかぎって、<プロット>を欲しがるんですよね――
最初から最後まで細かく読めば、すべてがわかるのに。
最初から最後まで細かく書けば、書くべきことはすべて書かれるのに。
<プロット>には、たくさん苦しめられました
――<小説について>だけではありません
――別の分野
――別のシチュエーションでも…
――<プロット>という言葉こそ使いませんが、同じことを要求されるんですよね……
――そして、テンプレ文句
――「計画的じゃない!」
――はいはい…
――これまで、計画的で素晴らしい<生産性の無さ>は、たくさん見てきました
――そして、気づいたのです
――問題は<プロットが、しっかりしているか否か>では無いのです
――<プロット>の提出を義務付け、そしてその内容に文句をつける人間は、<単に相手を受け入れたくない>だけなのです
――直しても、別の角度から粗探し…
――具体的に説明しても、話を変える……
――何をしようが、無駄………
――相手を満足させることなど、無いのだから
――それに、満足しないヒトは知らないのです
――プロットの作成は<予定調和>にしか帰結しない、という場合があることを
――それは個人の卓越した能力を何も証明しないし、人類の素晴らしさを文化的に示しさえしないのだ、ということを]
「もう終わりか?」
と、たそがれる"蜘蛛宇宙人"[※ちなみに時間はまだ深夜です]
――唇を動かしています。
すごく、つまらなそうな顔をしました。
そして、身体も動かしました。
座り込んだままの"摂"氏に近づき――
忍び足――
立ち止まると、
その裸足で、"摂"氏の脹脛を蹴りました
――すごく軽く。
それは、<攻撃>ではありませんでした。
「①身体そのものがそこに在る事、または
②それを動かす事
で苦痛を表すことが出来るか……?
自分で疑問を出しておきながら情けないが、今のところ、具体例が思いつかない
――身体表現で苦痛……」
と、"蜘蛛宇宙人"が声帯を使わずに相手に伝えると、
「わたしにも、わかりません」
と、同じ方法で返答する"摂"氏。そして、
「ですから、別にいいですよ――この問題は、モダンダンサーとかに尋ねた方が良いし、速いと思います」
しかし、"蜘蛛宇宙人"、もう一度
「顔の表情くらいか……」
今度は、"摂"氏の踝に足の指先を当て、
<<起きろ>>
押された"摂"氏はその踝で、相手の足の指先を当て返します
――すごく、軽く。
「そうですね――表情は人間の内面、その機微を表すモノでないことは無いので、これから思考を続ける上で、少なからず役に立つことがあると思います」
――そこに<音>など、要らないのです。




