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温度  作者: 折鋸倫太郎
はじめての闘い
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はじめての闘い その39

 蜘蛛宇宙人"のナックルは、"摂"氏の上腕三頭筋

 ――か、<ブラキアリス筋>

 を目指して――


 進行中……


 ――"蜘蛛宇宙人"の親指が近づいてくるのを、視線で追う"摂"氏

 ――そして、自分の手も、到着に間に合わせる様、追います……

 ――そして少し遅れ……


 「レッシングの意見に与するのか?!」

 

 クリーンヒット!


 ――"摂"氏は反応が遅れて、捌ききれなかったのです。



 "摂"氏は自分の腕を、見下ろしました。


 そこにめり込んでいる相手の拳

 ――その衝撃にそのまま押されて、ドミノの様に倒れ行く"摂"氏の胴体


 <<あ…>>


 「ぐにゃり」


 言葉で反論を

 身体で反撃を

 準備していた筈の"摂"氏は、息が

 ――詰まり

 ――止まり

 ――ませんでした

 ――ただ


 <<やられた…>>


 と、相手の拳に

 「ぐいぐい」

 ――身体を押され続けながら…

 考えていました。


 それは

 ――"防御層"そのものを凹ませる様に

 ――そして、その下にある肉を抉る様に

 ――それから両方の持つ厚み

 ――その中、深みへとさらに侵食する様に

 動く拳の、圧倒的、感触

 ――押し付けられる、<相手が存在するという事実>

 ――そしてそれが介入してくる

 ――それを意識する、自分。


 頭の中を木霊する言葉――


 相手のナックルを弾いて防いでから、積み上げる筈だった議論――


 予想――


 すべては


 「シ」


 に包まれていて……

 しかし、それらは頭の中で、<事実>という明確なイメージが映写された後は、言葉であることをどんどん止めていきます

 ――自ら行う崩壊

 ――というより溶解

 していく


 「シ」。


 そして、形を頭の中で失い、

 「ぐつぐつ」

 とスープ状になって

 「シ」

 ですらなくなった時、"摂"氏は顔を捻りました

 ――口を捻りました

 ――眉を顰めました。


 <<このまま倒れるのか>>


 ――地は芝。


 その時、

 「ふ」

 と、"摂"氏の腕を攻撃していた"蜘蛛宇宙人"の拳の勢いが、殺されました

 ――それは突然でした

 ――拳は直ぐに浮遊し

 ――来た道を、巻き取られる掃除機のコードの様に後退していく"蜘蛛宇宙人"の黒

 ――ソネットは見えません。


 そして、二人の、一過性である<ジョイント>部分が完全に乖離した後、

 バランスを崩して倒れ続ける"摂"氏の意識は、自分の縺れた<足>に向き

 ――踏みしめ

 ――踏み止まり、

 それを確認してから、腕の"防御層"の下に

 ――そしてそれに覆われていない上腕二等にまで

 <痛み>が発生した事に気付きます

 ――痛みには、あまり種類や多様性は無いようです

 ――<強い>か<弱い>だけで、その時そこに在ったモノは以前と同じ様に思われたということです。


 それから慌てて、"摂"氏は防御態勢を取りました


 ――しかし、予想していた相手の連続攻撃はありません。


 寧ろ"蜘蛛宇宙人"は

 一歩

 ――二歩、三歩

 ――スキップする様な弾み方で、

 下がりました

 ――足場を確認することは一切なく

 ――"摂"氏に背中を見せる事は無く。


 [――この様子は、格闘の<ジャーゴン>を使って言い換えると、


  <間を取る>


  というヤツなのでしょう……

 ――知りませんけどね

 ――知っていたとしても"蜘蛛宇宙人"の動きは、そう呼ぶことが出来るほど格好の良いモノではないのですが]


 "蜘蛛宇宙人"は、離れた場所で、構えました。

 「ふっ」

 「ふっ」

 と

 ――フットワーク

 ――へっぴり腰ですが、"摂"氏に比べれば、まだポーズが決まっています

 ――経験があるのでしょう。


 「ほら、打ってきてみな」


 そして、<焦げ拳>

 人差し指だけを伸ばして際立たせ、まっすぐ"摂"氏を指すと、


 「かかってこい」


 と、指で表現するのです

 ――それは手の甲を空に向けて、伸ばした人差し指を下方向へ二度、曲げるものでした

 ――まるで尺取虫の前進

 ――というより足踏み………


 [これを<挑発>と解釈する、短気なヒトも世の中にはいるのでしょうね]



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