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温度  作者: 折鋸倫太郎
はじめての闘い
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66/395

はじめての闘い その32

 目の前、二本足で

 しか

 と立ち続ける"蜘蛛宇宙人"の後姿を見て

 ――相手が<<安全である>>ことを確認して、

 それから見るべきモノ

 ――見たいモノ

 を"摂"氏は見ます。


 視線を落とし


 ――そこにあるのは、<床>

 ――ではなく、

 自分の<握り拳>。


 さらに具体的に記述するなら――


 "摂"氏は、自分の

 <アブドゥクトル ディギティ クインティ筋>

 を不思議そうに見つめていました。


 握っている指の強さをてのひらは感じるのに――


 何かを打ち付けた

 ――即ち<暴力>という

 感覚そのものが欠如した、<手>。


 痺れの無い手。

 痛みの無い手。

 普通ではないことが行われたにも関わらず、普通のままであることを示し続ける<手>


 ――記憶の不一致

 ――これまで考えていた<自分>という存在の揺らぎ。


 それらを考えてから"摂"氏は、

 ――記憶を頼りにすると……

 それを打ちつけた筈である

 相手の背中を見やりました

 ――視界の隅に、<それ>の動きを察知したのを契機として。


 "蜘蛛宇宙人"は先程とは違いました

 ――赤煉瓦の壁の前で、揺れていたのです。

 足をしっかり踏みしめて

 ――上半身だけを動かして

 ――渦をかいている様で

 ――そして

 ――とつぜん

 ――回転は止まり


 「ぐらり」


 後ろに向かって倒れ掛かると、


 "摂"氏はその腕を伸ばし、支えました

 ――後ろから

 ――すくう様に。


 そして"摂"氏は――


 <上から目線>で見下ろしました。


 いくら目線が異なろうとも

 ――身長が異なろうとも

 ――同級生でなくとも

 ――知識量が異なろうとも

 ――誰が何と言おうとも

 ――二人は<対等たいとう>です


 ――<その他大勢>とは違って。



 二人にとって、そんな事、言う必要も、指摘する必要もないのです。


 

 俯いたままの、"蜘蛛宇宙人"

 ――陰り、細部がよく見えないその顔

 ――その後頭部

 ――その耳

 それらを無言のまま、見つめる"摂"氏



 ――生地がある筈なのに、"防御層"の張られていない"摂"氏の腕、その前半分に

 はっきり

 感じられる、硬い、プラスティックの様な、"蜘蛛宇宙人"の背中


 ――生命も

 ――熱も

 ――感情も

 無い、無機質な、その背中の"層"。


 その延長線上にジョイントしている


 ――呼吸に合わせて盛りあがり、そして下がる、その肩。



 そして、"摂"氏は気付きます

 ――背中をかかえた拍子に、"蜘蛛宇宙人"の異常に発達した三角筋、

 その表皮が、露わになっていて



 ――いわおの様に在り

 ――パンプアップしている筋肉

 ――その荒れた表面にある、無数の<注射痕>



 ――近づかなければ見ることの出来ない、小さな、点。



 それを、"層"を通じて"摂"氏が目撃した時、"蜘蛛宇宙人"は咳をひとつ、しました


 ――それを期に、"摂"氏は点から、その視線、その焦点を変えました

 ――そして、"蜘蛛宇宙人"そのヒトのパフ・スリーブの片方を、片手で掴んでかかえ直し

 ――てのひらで、表面の傷痕を見えない様、隠した後


 「大丈夫ですか?」


 ――"摂"氏は、自由である方の手を開き、相手の硬い背中を軽く

 パー

 で、パットします。


 <防御の為の層に包まれた背中を叩いてあげても、気道確保に役立つのだろうか?>


 と、疑問に思いながら。


 「だいじょ――ぶだ」


 と、大丈夫ではない者だれもが言うそんなクリシェを放って

 ――また、ひとつ咳をして

 ――今度は空咳でした…

 "蜘蛛宇宙人"は、顔だけ斜めに、振り返ります。


 「眩暈めまいがしただけだ」


 そして

 にやり

 と笑います。



 "ジュネス"邸<離れ>にて対峙する二人の間にあるもの


 それこそ――<グルーオン>


 別名――思いやり

 ――またの名を



 社会に於いて<負け犬>と宿命づけられた者達の


 <傷の舐め合い>



 ――そして<科学>という名刺を使って

 ――友情という<概念>を使って

 ――誰も「それ」に、<共感>しないのでしょうね。



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