はじめての闘い その31
どうやら"蜘蛛宇宙人"は、自分の背中を犠牲にして、
<"防御層(プラスティック層)"を打つ感覚を試してみろ!!>
と、"摂"氏に伝えたい様子です。
"摂"氏は困りました
――それまで、口で行うにしろ身体を使うにしろ、<喧嘩>という行為と経験が不足した人生を"摂"氏は送ってきましたから、
「打ってみろ!」
と命令された時、
「はい!」
と素直に着手する事に対し、躊躇いを覚えたのです。
[それに"摂"氏は、自分が納得しなければ相手の指示を聞かない<頑固さ>を持ち合わせていました
――その性格、<反抗的>では決してありませんでしたが…]
それに気づかない"蜘蛛宇宙人"が
「ほら――」
と背を突き出すと、
「でも…」
"摂"氏がそれでも実行に移せないでいると、
「早く――大丈夫だから」
――そして、パフ・スリーブの様な三角筋を怒らせました。
"摂"氏は
時間稼ぎ
をします。
「その前に――つまり、背中を打たせていただく前に……ちょっと……背中がどうなっているのか、触ってみていいですか?」
「どうぞ」
"摂"氏は近づき、"蜘蛛宇宙人"の背中に
その指で
そっと
触れてみました
――確かに、シェイクスピアのソネットを唱えたせいなのか、固くなっています
――しかし、背中は液体ではありませんから、その硬さは元からなのか防御魔法が理由なのか、何とも言えません
――しかし、間違いがないのは、背中に、肉や骨などによる<隆起>がひとつとして無いのだ、ということです
――すべて、まるで直線の様に、平らなのです。
「ほら――大丈夫だろ?」
――そして"摂"氏と距離を取る"蜘蛛宇宙人"。
「ほら――打ってみな」
「本当に大丈夫ですか……?」
"蜘蛛宇宙人"は、頷きます。
"摂"氏は口内に溜まって
――いない
――「からから」となった
――という表現が適切な状況の中、
微量に湧き出た唾液を飲み込みました。
そして拳を握り、
"蜘蛛宇宙人"の背中に向かって
横から水平に
「マレウス フェレウス!」
その掌側面の
<アブドゥクトル ディギティ クインティ筋>
を打ちつけようと……
命中!
そして、
まるで、生れるや否や
――這いながら、
――斜面を駆け下りながら、
広路隅々まで己を届けようとする山頂に据えられたあの
<鐘>の低音
によく似た響きがして
――しかし、それに余韻はありません
――最初の音が始まった途端、とつぜん誰かに触れられたかの様に、急に凋んで、静まってしまう
ふ、と気づくと、
"蜘蛛宇宙人"の小柄で細い身体は前のめりに
――吹っ飛んでいて
赤煉瓦の壁に、ぶつかりました
――赤煉瓦に押し付けられた、大人にしては、小さい手
――黒い手と、より色の薄い二つの対照的な<手>
――三色が平面的になってから
"蜘蛛宇宙人"は勢いに乗って
――背中から倒れていきます
それでも足で、転ばぬよう、踏み留めました。




