はじめての闘い その26 ―花占いをする時、だれもが「きらい」からはじめる4―
その時、バスルームから、湯のこぼれる音がしました。
"摂"氏は駆け寄ります。
泡は、流れ落ちています
――床が濡れて、タイルに一本道。
ジャグチを捻りました。
水は止まりました。
バスタブの中、塚の様な盛り上がりを見せていた白い泡は水の上、平らになっていました
――泡が音もなく、ひとつひとつ弾けています
――そしてそれを、誰も止めることは出来ませんし、新たに発生させるのも、手間がかかります。
"摂"氏は、次にどうすれば良いのか、わかりませんでした。
1)"蜘蛛宇宙人"と話を続ける
2)明日も早いから、風呂に入って寝る――"蜘蛛宇宙人"には<離れ>から出てもらう
ベッド・ルームに戻ると、"蜘蛛宇宙人"は、ベッドの上にはいませんでした
――立ち上がり、掌を背後で組み、窓辺にて、外を眺めています
――リドー(カーテン)がその傍で、揺れています
"摂"氏は背後にまわります。
"蜘蛛宇宙人"は、"ジュネス"邸の母屋を、まっすぐ見つめています
――玄関は、明々
――他は、夜に溶け込んで
――いません
――暗くはなっていますが、夜の中ではっきり、自己主張をしています
――あ
――1F隅の、"ジュネス・ドレ"の部屋の明かりが、まだ点いています
――夜の中、それがすごく弱い間接照明であるのが、閉まったブラインド越しに、見えます。
[テストの為、最後の追い込みをしているのでしょうか?]
「綺麗なお屋敷ですね」と、"摂"氏――本心。
「そうかな」
"蜘蛛宇宙人"は振り返りません。
「そう思いますよ」と、"摂"氏が返す。
そして二人は黙したまま、外を見つめていました。
「先程、<生きなければならない>という趣旨を言っていましたが、サバイブ(つまり、生存競争)という意味で?」
「違う――ソイツラとは、命のやり取りをしないから」
「絶対に?――」
「絶対」
「<知の闘い>と言っていましたが、<チェス>でもするんですか?」
「そんなことはしない」
「では、何をするんですか?」
「やってみようか?」
振り返り、
そして
にやり
と笑いました。
「やるって、どうやって」
「インプリーミース デーベームス クミテー」
最初、"摂"氏は、
"蜘蛛宇宙人"の発言の最後
「クミテー」
という単語が
「クムテー」
=あなたと一緒
と聞こえ、そう理解しました。
よって、
「クーイウス ファキムス?」
[何をするので?]
と尋ねると、
「クミテー」
そして、構えました。
黒革のガン、その拳を前に出し
――不気味に盛り上がる三角筋
――表面に、筋張って、レリーフの様に浮かび上がる脈
――焼きたてのシュー・ア・ラ・クレームのシューの様な罅割れた層
その他肉体は、甘くない、お菓子のスティックの様に
――幼児でも簡単に
――音を立てて折れそうなほど、
細いのに…。
"摂"氏は、"蜘蛛宇宙人"のジェスチャーによって、相手の意図を理解しました。
「デーベームス ファケレー クミテー」
"蜘蛛宇宙人"はニッポン語の単語を使った様です。
即ち
<組手>
です。
「格闘技経験は少ないのですが…」と"摂"氏。
「それは、あんまり、問題ではない――問題は、体力より、頭だから」
"摂"氏は我知らず、頭上に両手を掲げていました。
「おい、身分証を見せろ!!! 見せなきゃ攻撃を開始する!!!」
"摂"氏は戸惑います。
何故か、"摂"氏は視線を逸らし、地平に向かって歩く小人を見ました。
そして――動いたのでしょう。
「動くな!!!」
と忠告されるのです。そのまま
「トレース」
その言葉が耳に届いた時、ロードローラーの箱の天辺――プロペラの様な何かが突出している面――が浮いて、隙間が見えました。
"摂"氏は、何とか、叫びます――
「ちょっと待って下さい!!!」
隙間が拡大していき――プロペラの生えた蓋が、四本足で支えられている事がわかります。そして
「デュオー」
それがラテン語の「二」という意味だと思いだした途端、
「ウー」
――そして
「ヌス」
とつぜん、音声が途切れました――雑音ひとつしません。
ただ、上昇を続けていた箱の蓋が
「かちり」
と止まりました。
"摂"氏は手を挙げたまま、叫んでいました。
「すいません!!! すいません!!! 打たないで!!! ちょっとよくわからないんです!!! わたしは迷い込んだだけなんです!!!」
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