はじめての闘い その20 ―ぷち あ ぷち、ろわぞ ふぇ そん に―
"摂"氏と目が会うと
――"蜘蛛宇宙人"の目玉が飛び出て
三日月に曲がった唇が、さらに角度を増しました。
そして、隙間が拡大し
「ノンドゥム フェーキムス コローキウム ノストゥルム」
つまり、
[まだ、我々の話は終わっていない]
との事
――そう言って、"蜘蛛宇宙人"は椅子の上、組んだ足を、解きました。
そして
――下を向き、
両掌を膝につけ
<あ、黒革のガン(手袋)を嵌めなおしている!>
――踏ん張る様に、立ち上がりました。
そのヒトの首は長く、
――それはまるで、地に積もる雪をつついていた鶴が飛び立つ前に地平線を見る
そんな<優雅さ>がありました。
"摂"氏は
「は」
と、息を飲みます
――が、唾は飲み込みません
――飲み込む程、無いのです
――口内環境が乾燥状態にありますから。
そして、吐きだしながら"摂"氏は、
「クイス チュ――チュ エス?(あなたは一体誰なんですか?)」
と尋ねます
――そして、答えを受け取る前に、以下の様に続けます。
「ノネ エイウス――ウィデーリケ、"ドレ"ィ――フラテール エス?(あなたは"ジュネス・ドレ"の兄弟ではないのですか?)」
「イド スム」
――勿論、"蜘蛛宇宙人"は、<井戸>に住んでいる訳ではありません
――蛙によく似た外見をして…
――なくはないのですが…
――つまり…
――<眼>があり、<口>があり、<頬>があり、<頭>があるので
――以上の前提から<人間=蛙>と導き出す…
――べきではないことは、誰にでもわかることです
――論理的にはそれは、成立可能でしょう
――が……
――小振りながら飛び出た<目>に、小振りながら厚い<唇>に、頬骨の上、ボリュームのある肉
――等、顔を構成するパーツの特徴を考えると、<蛙>と形容できなくもない…
のです。
そして、そんな"蜘蛛宇宙人"は、
一歩、
ゆっくり、踏み出しました。
盛り上がった肩を竦め、
猫背で
首を突き出しています
――まるで、腐っていないゾンビです。
「セッ(でも)…」と、呟く"摂"氏。
相手は、また、一歩。
"摂"氏は、一歩、後退します
――が、直ぐに、踏み戻しました。
"蜘蛛宇宙人"は歩みを止めません。
"摂"氏は、相手と真摯に向き合うつもりでいました
――しかし、わからなくなりました
――1) 同級生で、仲が特別悪くはない、この館に誘ってくれた"ジュネス・ドレ"と
――2) 目の前に現れた、外見も口調もひどく怪しい、不可解な"蜘蛛宇宙人"
どちらの言い分を信じたら良いのか…
――いえ、本当はわかっています
――これまで、経験を通じて発生し、構築してきた信頼を元に<語り>の信憑性を考えると、"ジュネス・ドレ"(1)を信じるべきなのです
――しかし、"摂"氏が"蜘蛛宇宙人"の話を、退けることは出来ません
――<好奇心>があるのですから。
バスルームから、シャワーの音は、しません
――壁は十分、厚いのでしょう。
"蜘蛛宇宙人"は、ダイニング・ルームの大理石で出来た床の上、敷居の前で、立ち止まりました
――弟("ジュネス・ドレ")の部屋に入るのを、躊躇うかの様です。
目をさらに見開き
――瞳で揺らめく怪しい光
「ルィェ――"ルィェ・ジュネス"」
ここで初めて、"蜘蛛宇宙人"は、名乗りました。
<ジュネス>という単語を耳にし、
「"ルィェ"――ノーメン チビ エスト?(それが名前?)」と、"摂"氏が尋ねると、
「ん」と"ルィエ"。
ひとつ情報を手に入れた"摂"氏は、
「オビテール(ところで)」
そして、
「クイス イルド ホスティウム エスト――クオッド コメモラリスティ!?("敵"って言ってたけど、誰のことなんですか!?)」
と質問すると、
「ネモ」
つまり、
[誰でもない]
との答え
――そして、"蜘蛛宇宙人"は、軽蔑した音を、喉から出しました。




