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温度  作者: 折鋸倫太郎
はじめての闘い
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はじめての闘い その19

 何かの、<存在>…


 ――それも、背後の。


 <それ>は

 ――"摂"氏が背負ったシェイクスピア的<プラスティック層>の違和感ではありません

 ――それはもう

 ――ほとんど消えかけていて

 ――言われなければ感じない程


 ――そしてその、とつぜん現れた様に感じられる新たな<存在>は、立ったまま微動だにしない"摂"氏の背中から少し離れて、


 「ぽつり」


 と在る様です

 ――寂しさが無く

 ――哀しさ等、微塵みじんも無く

 ――自律的に。


 蒸し暑い部屋の中でも、上昇傾向にある気温の<暑さ>とは異なる<熱さ>を放つ、

 一点から放射される、直線的、その<暑苦しさ>

 ――そしてその、ベクトル。



 せみの鳴声は、聞こえません。


 風鈴さえ無く、

 

 ――季語によって知らされないが、そこに確実に在るだろう、ある<季節>。



 背後から無動のまま忍び寄って来るその<不穏ふおん>の気配は、秒の経過と共に、"ジュネス"邸にて、存在感を増しています

 ――それまで"ジュネス・ドレ"という対象に大部分が占められていた"摂"氏の意識は、これから遭遇そうぐうすることとなるが、まだ未知 [※オキシモロン!] のままの<それ>に、侵食されていきます

 ――しかし、怖くはありません

 ――"摂"氏はそれが<何>であるのか、うすうす感づいていますから。


 "摂"氏は顔と目を動かし、振り返り始め

 ――ることを止めることが出来ず


 ――<それ>は何か

 ――背後に何か、

 それまでそこには無かった筈のモノが突発的に

 ――自然発生的に、現れたカンジ

 ――そして、「あり得ない」カンジ

 ――まだ、"摂"氏の目は<それ>を捉えません…


 顔と目の運動だけでは<それ>を捉えるに十分では無く

 ――首のひねりだけでも、十分では無く

 ――上半身が補遺ほい的に

 ――まるで、<それに>引き寄せられる様に

 ――ねじれていき

 

 [しかし、"摂"氏にも<意志>という名の引力が確固とありますから、足の根が抜かれることはありません]


 ――<それ>は、動かないまま其処そこに在り

 ――逃げも隠れもしない


 "摂"氏が振り返りきると、


 「あ!」


 その目に映るモノは、

 "ジュネス"邸ダイニング・ルームにある長テーブル

 ――それは焦げ茶色で、ニスでコーティングされたかの様なつやを放つ<ターブル ドゥ ボァ>

 ――それに添えられた椅子

 ――そのうち、ひとつ

 ――つまり、上座に位置します


 ――<それ>は、その椅子の上に、在りました。



 "蜘蛛宇宙人"が座っているのです



 ――不敵な笑みを、浮かべて。



 "摂"氏は、足の位置を変えます

 ――身体のねじりを戻す為。


 対面。


 "蜘蛛宇宙人"は足を組んでいます

 ――床に対して直角三角形を形作る、華奢きゃしゃな脚

 ――ぴんと伸びた、裸の爪先

 ――揺れながら宙に円を描く、落ち着きのなさ


 ――椅子の背、その稜線に腕

 ――というより<骨>

 を乗せて


 ――身体を構成する<その他>と比較すると異常に発達したと云える、その人物に特徴的な<三角筋>が、さらに隆起して其処の上に乗り、


 ――まるで、手の皮が厚い巨人が素手でねた

 ――人参にんじん等で装飾が施されることのない、プリミティブなままで用を為す

 ――顔のない雪達磨ゆきだるま

 ――その頭の様で


 ――肩は躍動やくどう

 ――動きは噴火の様だが、溶岩もガスも煙もない


 そんな不気味がありました。



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