はじめての闘い その17
音のする方――
それは、"ジュネス"邸ダイニング・ルームの<L>の右端から。
"ジュネス・ドレ"の部屋です。
"摂"氏はそこへ行き
――ドアは閉まっていま
――せん
「ピコピコピコピコ」
――隙間が少し
――開いている
――ドアをノックしようと
「こん」
――するとドアが力なく
――軋みながら開き
――ノックに二度目はありません。
ドアが開ききって、静止する前に、
「終わった?」
と背中姿の"ジュネス・ドレ"が尋ねます
――感情は、見えません。
部屋はブラインドの
――斜めの向きが変わって
――人間の瞼のよう
陽光がフルに射し込んでいます
――が、真実は必ずしも、日の下に曝け出されるモノではない様です。
薄紫の、壁紙。
以前、"ジュネス・ドレ"自身が、学校にて、多くの中から色をひとつ選ばなければならなかった時、
「オレ、紫、キライなんだよ」
と主張したのを"摂"氏は耳にしたことがありますので、この部屋のデコレーションは、本人の希望ではないのでしょう。
部屋の中、二段ベッドの脇
にある勉強机の脇
に、小型TV(と云っても、大型に近い位だが)があり、"ジュネス・ドレ"は、その前
――床に坐り、
<車を運転する>
コンピューターゲームをしている様です
――昨今ではもう、四号機ハードが出ているそうですね。
「次、どうぞ」とタオルを肩にかけた"摂"氏
――まだ服の下、背中に張りついている透明"プラスティック層"の違和感
――その下にある、いつまで経っても流れ落ちない
――在り続けることに終わりが見えない水気、
それらが、気になります
――<<しかし、先程と比べると、層そのものは薄くなっている?>>
――気がしたそうです。
どちらにしろ、変化のないのは、"摂"氏の、汗が染みこんだままの服。
<<あ、着替えなきゃ>>
すると、
「お前ってシャワー、けっこー長いタイプなんだな」
そう言いながら、"ジュネス・ドレ"は坐ったまま、見返りました
――その上目使いの顔に、厭味はありません
――コントローラーは手放しません。
TV画面に映るは、
<ポーズ>
の文字。
「タオルの場所、わかった?」と、"ジュネス・ドレ"
――"摂"氏の頷きを確認してから、画面に顔を戻します
――ポーズの解除
――車の発進と、その呻り
――四角の中で流れていく<高速道路>。
「ええ、便座の上に」と"摂"氏。
「便座の上?」
また振り返りました
――今度は急に
――そして、眉を顰めています
「ききき」
と急ブレーキ
――"ジュネス・ドレ"は、すぐに画面へ視線を引き寄せさせます
――画面の中の、高級車のドリフト。
「便座の上ぇ?」と比較的、大声で。「タオルが?」
「ええ――タオルをわざわざ出してもらい、有難うございます」
"ジュネス・ドレ"は何も、言いません。
その後頭部には、<奇異>が靄の様に、浮かんでいました。
ダッシュしてくるヒト達。
皆一様ですが、変化がありました。
"摂"氏に近づく数が、減っていくのです――別方向へ、拡散していく多数があるのです。
それでも平らな土の上、玉砂利の道の方へ走ってくるヒト達は確実にあります――あり続けます。
そして、"摂"氏は気付くのです――皆、小さいのです。#異様#に小さいのです。その裸の集団は、いくら近づいても、小さいのです――実際、小人でした。
数を減らして――小人達が"摂"氏の傍に来る頃までには、ダズン程の集団になっていました。
そして、目の前で止まりました――土の上。
皆、かたまって、"摂"氏を下から睨んでいます。
しかし、とつぜん
「ぱ!!!」
と散らばりました。
そして砂利道に上がり――そして、ひとり、ふたりと見つけていくのです。
空から落ちてきた歯。
見つけた者から、歯の側面を撫でていきます――身体全体を使って。
吟味を終えた、ある者は歯から遠ざかり、次の歯へ――そして同じことを繰り返すのです。
別の者は、自分の身体と同じ大きさをした、落ちてきたばかりの歯に抱き付いたまま、思案顔――そして、その別の者は、そのまま無言で、米袋を抱える様に歯を抱き上げ(別のいい方をすると、ベアーハグ)、そして一気に肩へ。
そして、樵が薪を担ぐ様に、歯を肩の上に乗せて、来た道を戻り始めるのです。
土の上、歯を担いで急ぐ小人の背中が、ひとり、ふたり、と続いて――遠ざかって行きます。
そして小人達が向かう地平線の上に遠く、土埃が空に一本、ディスティンクトに立ち上るのが見えるのです
――エンジンによく似た轟音と共に。
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