はじめての闘い その16 ―あん ばん…―
<<気のせい?>>
すると、
「おい」と再び、声。
シャワールームの中は、滝壺に類似した音が、続いています。
「おい、聞いてんのか?」
――と、硝子越しに
<<"ジュネス・ドレ"の声だ>>
――いつの間にか、"ジュネス・ドレ"は、バスルームの中に入ってきている様です
――ドアの開閉音はしませんでした。
二人の間には、曇り硝子の壁。
"摂"氏には、相手の影さえ、見えません。
「そこにいるんですか?」と、びしょ濡れの、口に水を溜めた"摂"氏
――吐きだします
――放射線。
「何**も
**声で
声
**けてん
だか**
返事**らい
**ろ!」と大声だから、
「何ですかー!?」
と、水の落下音の隙間を縫って、大声で、"摂"氏は返します。
「**ャンプー
**かー
場所ぉ
わ**るか―!?」
「わかりますよ!」
――わかりませんでしたが
――相手が具体的に、何を言っているのか。
しかし、予想を立てる前に、
シャワーの栓を捻りました。
「きゅ」
とつぜん、静寂。
そして、バスルームに浸透します。
そして、シャワーヘッドから、一滴の、滴。
落ちて――
それが床に屯した大勢に加わって個性がなくなる前に"摂"氏が硝子戸を開けると、
「わ、ちょっと待った――」
そして、慌ててドアが開く
――そして閉まる
音がして
――ドアは実際、閉まっていました。
"ジュネス"邸のバスルームは、"摂"氏が入ってきた時と、同じ情景です
――否、部屋にはひとつだけ、異なる点がありました
――"摂"氏がシャワールームを出ると、それまで無かったタオルが、出ていたのです。
それが、バスルームに設置された、閉じられた便座の蓋
――この便座も、高級感あふれて見えます――
その上に置いてありました。
畳まれた、毛羽だったタオル。
触ると
――柔らかい
――天日の下、乾してから取り込んで、間もないのか
――それともキッチンにある乾燥機から出したばかりなのか、
ほんのり温かい、タオル。
それは、タオルそのもの(素材)が<高級>というより、
<洗い方と仕上げ方こそが、高級である>
そういう印象を使用者に与えるタオルでした。
それを手に取り、"摂"氏が身体を拭いている間、妙な気分が続きました
―-便座の上にあったという<不潔>を連想した訳ではありません
――蓋は閉まっていましたし、"摂"氏は"潔癖"と呼ばれる程、小うるさくありません
――悪しからず
――そのタオルを使えば、身体の滴は拭えます
――しかし、いくら背中にタオルをかけても、背中の水だけは拭えないのです
――それが、どうも妙なのです。
シェイクスピアのソネットを唱えた所為
――それ故なのか?――
で発生した様に思われる背中の<プラスティック層>が、いつまで経っても、邪魔なのです。
"摂"氏が亀の甲羅の様に背負ったままのそれは、なかなか手強い相手の様です
――"摂"氏にはこの時、いつそれが消えるのか、わかりませんでした
――それに、それが自然消滅するかどうかも、わかりませんでした。
<<もっと、あのヒト(蜘蛛宇宙人)に話を聞ければ良かった…>>
――これは後悔ではなく、願望です。
"ジュネス"邸1Fに設置されたバスルームに設置された全身鏡を使い、何とか、拭き終わりました
――しかし、終わりではありません。
背中が痒いのです。
まるで、全身びしょ濡れのまま、カラダにフィットする<全身スーツ>を来て、それが簡単には脱げないカンジ。
<<どうやれば?――どうすればこの、皮膚との間に溜まった水を拭けるんだ!?>>
これは、"摂"氏が取り組んだ中でも、難問のひとつでした
――ま、すぐに解決するのですがね。
シャワーを終えて、
――ドアを開けて
"ジュネス"邸のキッチンに出ると、
…誰もいませんでした。
だから、ダイニング・ルームへ行きました。
ここも、誰もいません
――すると、電子音が。




